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第8話村長、今度は猫を拾う04

翌朝。

目を覚まし、私の膝の上で寄り添うように寝ている子猫とサファイアをとりあえず撫でてやる。

こうして野営をするとき、普通の冒険者なら交代で見張りを立てるものなのだが、私はしない。

もちろん、駆け出しだったころはびくびくしながら過ごしたものだが、最近ではいつでもぐっすり眠れるようになった。

それというもの、どんなにぐっすり眠っていたとしても、獣の気配を感じればすぐに起きられるという変な特技を身に着けたからだ。

と、いうよりも、常に起きているのと寝ているのとの中間の状態を保つことができるようになった、というほうが正確かもしれない。

普段の生活ではさすがにしっかりと睡眠をとるがそれでも、いつでも寝られるし、いつでも起きられる。

それでいて、十分に体は休まっているのだから、とても便利な特技だ。

一度、他の冒険者にも訓練次第でできるようになるんじゃないか?

と聞いてみたことがあったが、そんな特技は聞いたことがない、とか、仮にそんな特技があったとしても怖くて試せないといった返事が返ってきた。

とりあえず、サファイアと子猫を撫でると2匹とも同じように「くぁぁ」と間延びしたようなあくびをして、もそもそと動きだす。

先に起きたのはサファイア。

まだ少し眠たそうにしているが、「きゃん…」と鳴いて私の方を見てきた。

たぶん「おはよう」と言っているのだろう。

私はもう一度ひと撫でしてから「おはよう」と言ってやる。

子猫はもそもそと動いているがまだ目を開けない。

微笑ましい寝顔につい「ふっ」と笑みがこぼれた。

とりあえず、膝からおろしてそばにあった手ぬぐいをかけてやる。

「さて、朝飯にするか」

陽はまだ昇りかけで辺りはうっすらと白んでいる程度だ。

少し肌寒い。

焚き付けの小枝を少し昨日の残りの炭の間に突っ込んで、火を熾した。

しばらくするとお湯を沸かすのに十分な程度には熱を放出し始める。

小さなポットに水筒の残りの水を入れて沸かしつつ、手を炙った。

湯気の出始めたポットにいつもの薬草茶を淹れてしばらく煮出す。

慣れればいい香りにも感じるのだが、一種独特な匂いが辺りに広がった。

ちなみに、サファイアを家に連れて帰る道中にもこの薬草茶を飲んでいたのだが、どうやらサファイアはこの匂いを気に入ったらしい。

余ったやつを小皿に入れてやったら喜んで飲んでいたので、今でも時々飲ませている。

今日も期待しているのだろうか?

少しそわそわしながら私の手元を眺めていた。

そうこうしている間に子猫が起きたようだ。

「にぃ…」と鳴き声がして、もそもそと動いているのが見える。私の姿が無くて不安になったのだろうか?

少し不安げな声だ。

私は子猫のそばまでいき、「よく眠れたか?」と声をかけてから手ぬぐいごと持ち上げてやる。

「にぃ!」

子猫が「うん!」という感じで先ほどよりも少し元気に鳴いた。

「そうか、そうか、そいつはよかった」

そう言って、頭を撫でてやる。

すると、子猫は気持ちよさそうに目を閉じた。

そこへサファイアもやってくると、しきりに私の足に頭を擦り付けて「くぅん」と鳴いている。

どうやら、サファイアも撫でてほしいようだ。

私は少し困ったような顔で、2匹とも腕の中に納めると優しく撫でてやった。

「さて、そろそろお茶にするか」

そういって、2匹を抱えたままかまどのところへと戻ると、ちょうどいい感じにお茶が出来上がっている。

まずは私の分をカップに注いだ。

「飲むか?」

と、サファイアに聞いてみると、

「きゃん!」

「にぃ!」

という返事が返ってくる。

「ん?お前もか?よしよし」

私はそう言って皿に茶を注ぐが、すぐには与えない。

「まだ熱いからな。ちゃんと冷めるまでもう少し待ってくれ」

そう言うと、

「きゃん!」

「にぃ!」

と2匹とも「わかった!」という風に鳴いた。

「さて、朝飯はどうするか…」

2匹用の茶を冷ましている間に朝飯を作ってしまうことにしたが、さて何を食おうかと考える。

2匹の分は昨日の肉の余りでいいだろう。

私は、

「簡単でいいか…」

そう呟いて、丸パンを炙ってかじるだけにすることにした。

硬いし味気ないが、食えないほどじゃない。

当初の予定ではもう1日くらい山を散策するつもりだったが、子猫がいる。

今のところ元気なようだが、けがをしているから、早めに家に連れ帰るに越したことはないだろう。

そう考えて計画を変更し、家に帰ることにした。

そうと決まれば早く出発するほうがいい。

のんびり飯を食うのはあきらめて簡単に済ませる。

私は、ようやく昇り始めた朝日を浴びてさっさとカロリー摂取を済ませると、

(さて、帰ったらドーラさんにはなんと説明しようか?)

と、苦笑いでそんなことを考えた。

そうこうしているうちに、茶が程よく冷めたようで、私が少し唇で確かめてみると、ほんのり暖かい程度になっている。

「よし、飲んでいいぞ」

私がそう言って2匹の前に1つの皿につがれた茶を差し出すと、仲良くペロペロと舐めるように飲み始めた。

時折、「きゃん」とか「にぃ」とか言っている。

きっと「美味い」と言っているのだろう。

私はそれを微笑ましげに見つめながら昨日の残りの肉を小さくちぎると、子猫の方に向かって、

「生でいいか?」と尋ねた。

「にぃ?」

と鳴いて子猫は小首をかしげる。

「ああ、生がいいか、火を通した方がいいかってことなんだが…焼くか?」

「にぃ!」

と子猫は元気に鳴いた。

「ほう。焼いたのに挑戦したいって感じか?よし、ちょっと待ってろ、今焼いてやるからな」

そう言って私は串を取り出すと、昨日自分が食べたのよりもずっと小さな肉を5個ほどさして炭であぶり始めた。

「サファイアはどうする?同じのがいいか?それとも干し肉の方がいいか?」

サファイアはしばらく「うーん…」と考えるように小首をかしげていたが、「きゃん!」とないて、背嚢の方へと近づいていった。

なるほど、今朝は干し肉の気分らしい。

「わかった、わかった。今とってやる…。ああ、子猫の分の肉が焼けたら一緒に出すから少し我慢しろ?」

私がそういうと、サファイアは少ししょんぼりしたような表情をしながらも、

「きゃん」

と鳴く。

おそらく「わかった」と言ってくれたのだろう。

私はそんなサファイアを撫でてやりながらまた肉を焼き始めた。

しばらくすると、肉が焼けたので、串から外し、お茶をとは別の皿に取り分けてから少し冷めるのを待つ。

その間にサファイアの分の干し肉を取り出し、ちょうど噛み応えがあるくらいの大きさに裂いてやった。

「よし、できたぞ」

そういって、2匹の前にそれぞれがご所望の品をおいてやる。

「きゃん!」

「にぃ!」

2匹はそう鳴くとガツガツ、ハグハグと食べだした。

その間私は2人の食事が終わるタイミングを見計らいつつのんびりと野営を解いていく。

やがて、2人が満足そうな顔を見せると、

「さて、帰ろうか」

と言って帰路に就いた。

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