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第10話 思い出

(なんとか間に合った……)


将人のプレゼン資料を昼休み前までに完成させ、俺は急いでデータ添付をして社内メールで将人に送った。


(また嫌味を言われるんだろうな……)


約束を守らなかったことで将人に責められるのは目に見え、俺は溜め息とともにノートパソコンを閉じた。


夜明け前、寝ている東谷を起こさないようビジネスホテルを後にした俺は、始発で家に帰り、着替えを済ませてすぐに出社した。


将人に言われていたプレゼン資料作成の締切が朝一だったため、昼までには送るとメールして作業に取り掛かり、今やっと終わらせることができた。


(そういえば、東谷にちゃんとお礼言えなかったな……)


東谷の枕元にメモ書きは残したが、もう一度ちゃんと伝えようと机に置いていた個人用のスマホを手に取るが、東谷の連絡先が入っていないことを思い出す。


(そっか。元々仕事用にしか入っていなかった上に、アイツが本社勤務になって削除したんだった……)


手に取ったスマホを机の上に伏せた状態で戻すと、凝り固まった体をほぐすため、腕を前に伸ばした。


(結局、東谷との関係なんてこんなもんだってことなんだろうな……。って、仕事中に何考えてんだよ、俺)


気持ちを切り替えて通常の仕事に取り掛かろうとするが、積み重ねられた書類に今日中の付箋が大量に貼られているのを見て、手を伸ばすのをやめる。


(これから通常作業に戻るにしても残業は決定だし……。とりあえずコーヒーでも買ってくるか……)


そう思い立ち上がろうとするが、昨日の昼から何も食べていないことを思い出し、俺はまた倒れても困ると、とりあえずデスクの引き出しを開けて中を探った。


(なんか胃に入れられるもの……なんてないか。お菓子とか栄養補助食品なんか食べないもんな……)


弁当持参で間食をする習慣もなかった俺の引き出しには、書類と文房具しか見当たらなかった。


仕方なく引き出しを戻そうとすると、奥に何かが挟まっているようで元には戻らなかった。


「なんだろ?なんか小さい……」


取り除いてみると、それは、昨日慌てて放り込んだキーホルダーだった。


(これ……。東谷が初めて出張に行った時、俺にって買ってきてくれたんだよな……)


『勇利先輩にお土産です』


『お土産……。お土産でこんなもんが売ってるのか?』


『あれ?勇利先輩は旅行とかしない方ですか?』


『あっ、ああ……。修学旅行も行かなかったから……』


『そうなんですね。じゃあ、俺がまた出張に行ったら買ってきますよ。いつか二人で全部の都道府県分集めましょうね』


(あれからすぐ本社勤務決まったから、受け取れたのは一個だけだけど……)


キーホルダーを手に取り、俺は自分の顔の前にぶら下げる。


(こんなもの……。未練がましくとってあるのがいけないんだ。今すぐ捨てれば……)


俺は急ぎ足でキーホルダーを握りしめたまま廊下に向かうと、廊下に置かれたゴミ箱の前に立ち、手をゴミ箱の上に伸ばす。


握りしめた手を緩めれば、キーホルダーは簡単にゴミ箱に入るはずだった。


『いつか勇利先輩と旅行に行きたいなー』


『ばーか』


社交辞令だと分かっていても、初めて誰かにそんなことを言われた俺は、本当は嬉しくてたまらなかった。


違う。


東谷に言ってもらえたから嬉しかったんだ。


お土産も東谷が俺のために買って来てくれたから嬉しかったんだ。


かけがえのない東谷との思い出をやっぱり捨てられないと、俺はキーホルダーを握りしめたまま振り向くと、目の前には不機嫌そうな顔をした将人が立っていた。


「将人……」

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