(これはかなりマズイ……。アフターピルの副作用が出過ぎてる……)
平坦で真っ直ぐな硬いアスファルトの道を歩いているはずなのに、俺は足元が沈んで歪むような感覚に襲われた。
(早く大通りに出て、タクシー拾わないと……)
真冬で暑いはずもないのに脇や首筋に汗を感じ始め、俺は目眩と戦いながらも、なんとか路地を抜けて大通りに出ようとした。
「あっ……」
だが、大通りまであと一歩のところで急に視界が歪み、俺は雑居ビルの壁に思わず凭れ掛かってしまった。
(これ以上は……。とりあえず、どこか休めるとこは……)
そう思いながらも足は一歩も前に出すことはできず、壁に凭れかかったままズルズルとその場に座り込んでしまった。
「うっ……」
座り込んだ瞬間、みぞおちがムカムカするような吐き気に襲われ、俺は思わず口元を押さえながら地面を見つめた。
(きっとバチが当たったんだ。東谷のこと、ちゃんと諦めてないから……)
ふと、アスファルトの地面に空き缶やタバコの吸い殻が散乱していることが目に入ると、自分がゴミと同じようにいらない存在に感じてくる。
(俺がこのまま死んだら……。東谷は泣いてくれるかな……)
我ながらバカみたいなことを思いついたと笑いたいはずが、こみ上げてくるのは虚しさだけだった。
(俺はどこで間違えてしまったんだろう……)
そんなことを考えても意味がないと分かっていながらも、頭の中で今までのことを思い起こしてしまう。
次第に頭から血の気が引いていく感覚に陥り、このままでは本当に気を失って倒れてしまいそうで、俺は雑居ビルの壁に手をついて、なんとか立ち上がろうとした。
だが、途中から足に力が入らなくなり、バランスを崩して前のめりに倒れこみそうになると、誰かに体を支えられた。
「大丈夫ですか?勇利先輩」
心配そうに表情を曇らせながら、俺の顔を覗き込んできたのは東谷だった。
(どうして……)
俺は東谷に支えられながら、壁に寄り掛かるようにして地面に座った。
「一体どうしたんで……」
言いかけて俺を見つめる東谷が、目を見開いて驚いた表情をしていた。
(あ、あれ……。なんで……)
そのわけは、俺が涙を溢していたからだった。
「ご、ごめんな。急に……」
何故泣いているのか、自分でも分からなかった。
東谷が現れて嬉しかったのか、驚いたのか、悲しいのか、もう全部分からなかった。
「勇利先輩……」
名前を呼ばれると胸が苦しくなる。
(東谷……)
心の中でさえ、名前を呼ぶと泣きたくなる。
(どうしたら……)
俺は必死に誤魔化そうと首を横に振るが、涙は止まらなかった。
すると、東谷は急にコートを脱ぎ、俺の頭の上からコートを被せて視界を遮った。
「少し、ここで休みましょう」
俺の隣に腰掛けた東谷は、俺の頭をそっと自分の肩へと抱き寄せた。
俺は黙って微かに聞こえる東谷の呼吸する音に耳を傾けながら、目を閉じて身体を預けた。