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第48話 敏腕マネージャー

「なるほど、企業向けイベントのナレーターですね」

霧島カレッジの声優コースの会議室で、景隆の相談を受けた名取は思案した。


大河原はプロの声優ではなく候補生であるため、担当マネージャーは付いていない。

したがって、景隆は名取に相談した。


「大河原さんの実年齢より、年上の立ち回りをしていただくことになります。

アニメでは子供の役を年長の声優さんが演じる事例を聞いたことがありますが、その逆もあるのでしょうか?」

「ええ、普通にありますよ。

こので業界では年齢や性別にとらわれず、演技力や声の表現力が重視されます。

声優自身にとっても、スキルの向上やキャリアの幅を広げることが期待できます」


名取は妖怪アニメの老婆役などの実例を挙げた。

実年齢よりも数世代上の役柄を演じることも珍しくないらしい。


「なるほど、そうなると大河原さんの技量次第ですか」

「はい、当養成所でも年齢の幅をもたせるようなトレーニングを行っています」


「そういえば」と名取は言いながら続けた。

「オンライン上ですが彼女の学習態度と成績は、非常に良好です。

課題の提出は誰よりも早く、提出された音声データもすばらしいです。

これは、ほかの声優コースの候補生にとっても刺激を与えています」


プロの声優になるためには厳しい競争を勝ち抜く必要がある。

声優コースの候補生にとって、大河原のような突出した才能を持った候補生が突然現れたら、意識せざるを得ないだろう。

しかも、面識がないことから候補生にとって、大河原の存在は不気味であることが想像できる。


「弊社、デルタファイブから大河原さんに正式に依頼したいと思っています」

いくつかの課題はあるが、景隆は大河原ならこの仕事ができると判断した。


「そうですね、私も反対する理由はありません。少々お待ちください」

名取はそう言って席を外した。


***


「マネージャーの船岡です。よろしくお願いします」

景隆は名取に呼ばれた船岡結ふなおかゆいと名乗った女性と名刺交換をした。


彼女のボブカットの髪はつややかに整えられており、前髪は軽く流されて顔立ちをさらに引き立てている。

顔立ちは端正で気品があり、知的な印象を与える瞳は鋭くも親しみやすい光を放っている。

体にフィットしつつも動きやすいデザインのスーツを着こなしており、プロフェッショナルな雰囲気を醸し出している。


船岡は新人の声優を担当しているマネージャーだ。

今回のようにスポットで候補生の担当をすることもある。


「――まずは学校の確認ですね」

「そうですね、一度ご挨拶に行きたいと考えています」


企業向けイベント、デルタファイブサミットは平日に開催される。

したがって、大河原が仕事を引き受ける場合は学校を休む必要がある。

彼女が通っている高校はアルバイトを禁止していないが、授業を休んでまでとなると話は別だろう。

景隆は大河原の学業に影響を出さないと言った手前、それを翻すことになったことに申し訳なさを感じた。


「それでは、私も同行します。

アポイントメントなどの手配は私がしますので、石動さんのご都合をお聞かせください」

「え!? いいんですか?!」


大河原が熊本にいることは船岡に説明していた。

にもかかわらず、船岡は躊躇せずに同行を申し出たことに景隆は驚きを隠せなかった。


「ええ、仕事ですから」

船岡は当然のよう言った。


「名取さん、菜月にお渡ししておくものや、ご伝言はありますか?」

霧島プロダクションのマネージャーは所属タレントを下の名前で呼ぶことが多い。

このことから、船岡は大河原とは霧島プロダクションの所属タレントとして接していくのだろうと推察される。


「そうね……紙の教材があるので、それと――」

名取は船岡に教本やアニメで使われた台本などを渡した。


「石動さん、ナレーションの台本などはありますか?」

「これについてですが、大河原さんには一度弊社にお越しいただいて、ミーティングをしたいと考えています。

大河原さんの学業もあるので、弊社側は夜間や休日でも構いません」


鶴田には平日日勤帯以外の時間でミーティングをすることで許可をもらっていた。

景隆らエンジニアとは異なり、営業は就業時間の概念が希薄であり、問題なく受け入れられた。


「なるほど、こちらでもスケジュール調整します。

おそらく彼女はスーツを持っていませんよね……となるとグレイスビルの所属タレントの衣装が使えるかもしれません」

「彼女が東京にきたら、対面の補講をしようと思っているの」

「せっかくなので、ほかの候補生との面識合わせもしておきましょう――」


船岡はあっという間に大河原の担任と校長との面会を取り付けた。

(え!? 校長も出てくるの?!)

続いて、大河原に連絡を取り、彼女が上京する日程調整やイベント当日の航空券の予約、宿泊の手配などを済ませた。


景隆は船岡の手際の良さに驚いた。

神代のマネージャーである橘と同様に、彼女も相当優秀であることが伺える。


(ええい!キリプロのマネージャーは化け物か!)


※ いつもパロディネタが古くてスイマセン🙇

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