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第46話 一騎当千

「お、おぃ、石動……」


柊は焦っていた。

柊にとって新田は是が非でも獲得したい人材だ。

景隆の倍ほどの人生経験をもってしても、新田ほどのITエンジニアには出会うことはなかった。


『千軍は得やすく、一将は求め難し』と言われるが、新田はこの一将に値する人物だと柊は評している。

十人の平均的なエンジニアと新田一人のどちらを雇うか選ぶなら、柊は迷わず後者を選択する。

IT業界において、それほど優秀なエンジニアは生産性が高く、さらに新しい技術を生み出す能力がある。


優秀な人材を確保するためには、金銭的な待遇だけではなくさまざまな面を考慮する必要がある。

ITエンジニアの場合は、扱っている技術だったり、開発環境に適したインフラだったりだ。

柊の時代ではリモートワークができることが条件だったりもした。


したがって、柊は新田にとって十分な職場環境を作るために、いろいろな準備をするつもりでいた。

景隆が言っていたオフィスもその一環だ。


(今新田に断られたとして、次にとるべき手段は……)

柊の脳内はイオンを加速する加速器――超伝導リングサイクロトロンのように高速回転していた。

(☄🪐💫✴✳❇🧬🫧🌪️➰➿🌀〽〰⚡💠🔼🔼🔽🔽◀▶◀▶🆎)





「――いいわよ」

新田はあっさりと言い放った。


「ほぇ」

柊は糸が切れた糸繰り人形のように脱力した。

柊の脳内では一日ほどの思考を重ねていたが、実際には数秒も経過していない。


「おぃ、自分で言っておいてなんだけど、まだ条件とか言ってないぞ?」

さすがの石動も驚いている。


「だって、サイバーフュージョン今の会社より、こっちのほうが面白そうだもの……

それに――」

「マジかぁ……超嬉しい!」

景隆は告白に成功した中学生のようになっている。


『はぁ……若いっていいなぁ……』

柊はボクシングアニメの最終回のように、真っ白に燃え尽きていた。

柊は景隆が自分に劣等感を感じていることに薄々気づいていたが、柊は躊躇なく踏み込める景隆を羨ましく思っていた。


「な……なによぉ」

新田は対照的な二人の反応に戸惑っている。


「石動、準備があるから今すぐは無理だぞ」

なんとか立ち直った柊は声を絞り出しながら言った。


「あぁ、わかっているよ」

景隆と柊は、新田を迎え入れた場合の待遇については、事前に話し合っていた。


「新田には役員として入ってほしいんだ」

「従業員とは何が違うの?」

「役員の場合は報酬が多く、好きな時間にどこで働いても構わない。

その代わり、労働基準法の適用外なので働きすぎても駆け込む先がなかったり、突然クビにされても文句は言えない」

「働いている時間よりも、結果が重視されるってことね」

「そうなるな」

「いいじゃない! 私に合っていると思う」


「柊も役員になる予定なので、俺がCEO、柊がCOO、新田がCTOってとこだな」

「CEOとCTOはわかるけど、COOってなに?」

「日本法人だと執行役という位置付けだな」

「ふーん、なんとなくわかったようなわからないような……」


「しかし、本当にいいのか? 自分たちで言うのもなんだけど、不安定な会社だぞ?」

「最悪、会社が潰れたら、他所に就職すればいい話でしょ?」

「確かに新田なら引く手あまただろうな……」

「そうならないように、がんばってよね」

「まぁ、何とかなるだろ」


翔動の現状において、この三人は本業と掛け持ちで活動している。

景隆は、この場にいる三人が全力を尽くせば、驚異的な成果を上げるのではないかと思いを馳せた。


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