「やってくれたな」
景隆と白鳥を会議室に呼び出した
「お騒がせしてすみませんでした」
「お前らなら、イベントが始まる前になんとかできたんじゃないのか?」
「委員会のメンバーは全員反対したものの、それ以上のアクションは起こせず、ことなかれ主義になってしまいました。
俺はこういう社内の空気を変えたかったんです」
白鳥の表情は真剣だった。
「なるほどな……やり方は置いといて、言いたいことはわかった……議事録を確認しなかった俺も同罪だしな」
烏丸にも負い目があるらしい。
景隆は柊が議事録にこだわった理由を痛感した。
会議での議事録役はやらされている感が強いが、最終的な結果を自分で記録できるという点では大きな意味を持つ。
(共産主義国家で、書記長という肩書の地位が高いのはこういう理由だからだろうか……)
「今回の一番の被害者は鷹山になるが、石動としてはあれでよかったのか?」
「どんな展開になっても、禍根を残す結果になりそうだったので、辞退したことに後悔はありません。
これは鷹山も納得しています」
あのタイミングでぶちまけた理由としては、江鳩に逃げ場を与えずに排除したかったためだが、これは伏せた。
柊によると、江鳩の横暴はこの先も続いたらしい。
江鳩をここまで追い詰めるほど、柊はひどい目にあわされたようだ。
「お前らの失点はどこだかわかっているよな?」
「はい、まずは直属の上司である烏丸さんに相談すべきでした」
「わかっているなら、これ以上言うことはない。
ほかの委員会のメンバーも上司に言ってなかったしな……
お前らは意図的にそうしていたみたいだが……」
烏丸はこれ以上追求しなかった。
白鳥が言った『社内の空気』に行き着いたのだろう。
***
「はー、結局は全部石動の言ったとおりになったな……俺はお前が恐ろしいよ」
委員会で事後処理を終えた白鳥は、休憩室に景隆を呼び出して言った。
「結局はどうなったんだ?」
「今回のイノベーション大賞はなしだ。誰を選んでもしこりが残るからな」
「そうだろうな」
「発表したチームには、全員何らかのアワードが授与されることになった。
もとの予算はあるからな」
「本来だったら、お前らのチームが大賞だったと思うぞ。贔屓目なしで」
「本当か?」
「非公表だが、委員会の採点表の得点はどの項目もアストラルテレコムチームがトップだったよ」
「技術点も?」
「もちろん!」
「そっかー……」
鷹山の発表は見事だったが、景隆は技術点で鷺沼に互角以上に渡り合えたのが嬉しかった。
(新田にお礼言っとかないとな……)
「とりあえず、終わってほっとしたよ」
委員会では江鳩を除き、その場にいたマネージャー全員が集まり、似鳥の主導でイベントは収拾された。
「すまんな、嫌な役をやらせてしまって」
「気にしなくていいぞ。俺もいつまでこの会社にいられるかわからんしなぁ」
白鳥は財閥の子息ということもあり、家の意向次第で転職させられることもあるようだ。
今の白鳥は本人の希望でIT業界に居続けているらしい。
「さすがに、今回の責任が俺たちに来ることはないだろうが……」
「あぁ、マネージャー連中が責任を感じていたし、似鳥さんもそんな感じだったよ」
白鳥はこの顛末を景隆が描いたシナリオだと思っているが、実際には柊によるものだった。
(俺もほっといたらアイツみたいになるのか?……どんな人生送っていたんだ?)
「もし、俺がクビになったら石動の会社で雇ってくれよ」
「あぁ、いいぞ」
「本当か? 言質を取ったからな」
白鳥はさわやかな表情をしながら拳を突き上げ、景隆はそれに応じた。