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第33話 空気

「やってくれたな」

景隆と白鳥を会議室に呼び出した烏丸からすまは吐き出すように言った。


「お騒がせしてすみませんでした」

「お前らなら、イベントが始まる前になんとかできたんじゃないのか?」


「委員会のメンバーは全員反対したものの、それ以上のアクションは起こせず、ことなかれ主義になってしまいました。

俺はこういう社内の空気を変えたかったんです」

白鳥の表情は真剣だった。


「なるほどな……やり方は置いといて、言いたいことはわかった……議事録を確認しなかった俺も同罪だしな」

烏丸にも負い目があるらしい。


景隆は柊が議事録にこだわった理由を痛感した。

会議での議事録役はやらされている感が強いが、最終的な結果を自分で記録できるという点では大きな意味を持つ。

(共産主義国家で、書記長という肩書の地位が高いのはこういう理由だからだろうか……)


「今回の一番の被害者は鷹山になるが、石動としてはあれでよかったのか?」

「どんな展開になっても、禍根を残す結果になりそうだったので、辞退したことに後悔はありません。

これは鷹山も納得しています」


あのタイミングでぶちまけた理由としては、江鳩に逃げ場を与えずに排除したかったためだが、これは伏せた。

柊によると、江鳩の横暴はこの先も続いたらしい。

江鳩をここまで追い詰めるほど、柊はひどい目にあわされたようだ。


「お前らの失点はどこだかわかっているよな?」

「はい、まずは直属の上司である烏丸さんに相談すべきでした」

「わかっているなら、これ以上言うことはない。

ほかの委員会のメンバーも上司に言ってなかったしな……

お前らは意図的にそうしていたみたいだが……」


烏丸はこれ以上追求しなかった。

白鳥が言った『社内の空気』に行き着いたのだろう。


***


「はー、結局は全部石動の言ったとおりになったな……俺はお前が恐ろしいよ」

委員会で事後処理を終えた白鳥は、休憩室に景隆を呼び出して言った。


「結局はどうなったんだ?」

「今回のイノベーション大賞はなしだ。誰を選んでもしこりが残るからな」

「そうだろうな」

「発表したチームには、全員何らかのアワードが授与されることになった。

もとの予算はあるからな」


「本来だったら、お前らのチームが大賞だったと思うぞ。贔屓目なしで」

「本当か?」

「非公表だが、委員会の採点表の得点はどの項目もアストラルテレコムチームがトップだったよ」

「技術点も?」

「もちろん!」

「そっかー……」


鷹山の発表は見事だったが、景隆は技術点で鷺沼に互角以上に渡り合えたのが嬉しかった。

(新田にお礼言っとかないとな……)


「とりあえず、終わってほっとしたよ」

委員会では江鳩を除き、その場にいたマネージャー全員が集まり、似鳥の主導でイベントは収拾された。


「すまんな、嫌な役をやらせてしまって」

「気にしなくていいぞ。俺もいつまでこの会社にいられるかわからんしなぁ」


白鳥は財閥の子息ということもあり、家の意向次第で転職させられることもあるようだ。

今の白鳥は本人の希望でIT業界に居続けているらしい。


「さすがに、今回の責任が俺たちに来ることはないだろうが……」

「あぁ、マネージャー連中が責任を感じていたし、似鳥さんもそんな感じだったよ」


白鳥はこの顛末を景隆が描いたシナリオだと思っているが、実際には柊によるものだった。

(俺もほっといたらアイツみたいになるのか?……どんな人生送っていたんだ?)


「もし、俺がクビになったら石動の会社で雇ってくれよ」

「あぁ、いいぞ」

「本当か? 言質を取ったからな」


白鳥はさわやかな表情をしながら拳を突き上げ、景隆はそれに応じた。

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