「ユニバーサルとエデュケーションを組み合わせて、『ユニケーション』でどうだ?」
景隆が柊と新田に提案した。
貸し会議室では、翔動が提供するeラーニングサービスについてのキックオフミーティングが開催されていた。
「みんなに使ってもらうという意味合いではいいんじゃないの?」
新田はあっさりと言った。
「名前には興味なさそうだな」
「そうでもないわよ。サービスのわかりやすさを伝えるためには、名前は重要よ」
『ユニケーション』は誰もが講座を共有でき、誰もがそれを受講できる学習プラットフォームだ。
「それで、霧島カレッジでやっているeラーニングとは何が違うの?」
「講座の品質を上げるために、評価システムを導入する」
「機械学習を入れるのね」
「すぐにそこに行き着くのがすごいな」
「どうせ柊が何か知ってるんでしょ? 最初はすごく驚いたけど、だんだん慣れてきたわ」
この時代の機械学習では、できることは限られている。
柊の持っている未来の知識と新田の技術力でその壁を乗り越える魂胆だ。
「それと、レコメンドシステムだな」
「なにそれ?」
柊は情報を小出しにする癖があるな、と景隆は思ったが、それを追求するのは後回しにした。
「ECサイトで、買い物したらおすすめが出たりするだろ?」
「あぁ、あれか。『この講座を受講したあなたには、この講座もおすすめです』ってやるんだな」
「確かに機械学習と相性がいいわね」
新田は霧島カレッジの案件で機械学習を使っていることから、この分野においてかなり造詣が深くなっている。
「LMSをオープンソースにしているので、eラーニングのサービスはすぐに模倣できるんだよ」
「機械学習の部分で差別化するってことか」
「あとはコンテンツの量で圧倒する」
「なにか策はあるの?」
「霧島プロダクションが講座を提供してくれることになった」
「えっ!? うそ!?……でも柊ならあり得るかも……?」
新田は大層驚いていたが、口に手を当てて考え込んでいた。
「柊の信用力に嫉妬するわー」
景隆はこのくらいの軽口は言えるようになった。
(橘さんのおかげだな)
「カットオーバーはいつ?」
カットオーバーとは、サービスが利用開始するタイミングのことだ。
「『ユニコーン』って映画、知ってるか?」
「あぁ、うちがスポンサーやってるやつね」
映画『ユニコーン』のメインスポンサーは、新田が所属するサイバーフュージョンだ。
「その映画の公開前後にしたい。うちもスポンサーに名乗りを上げたんだ」
「本気?! どこにそんなお金があるのよ」
新田の言い分はもっともだ。
「資金繰りは石動が頑張っているところなんだけど、もしかしたら新田に相談するかもしれない……あ、お金を出してくれとかじゃないぞ」
「私ができることは技術的なことだけよ」
「あぁ、よろしく頼む」
「サービスが始まると、誰かがメンテしないといけないなー」
景隆も柊も、翔動の仕事は副業でやっている。
システムの保守や問い合わせ対応は、日中にも対応する必要がある。
「誰か雇うの?」
「俺が今の会社を辞めるので、当面は面倒を見ようと思っている」
「柊が?」
新田は他人事ながらも、生活は大丈夫なのだろうかと懸念したが、柊のことだからうまくやっていくのだろうと勝手に納得した。
「俺も会社辞めたくなってきたんだよな……」
「「どしたん?」」
景隆の突然の告白に、柊と新田は顔を見合わせた。