「eラーニングですか? 今日お話していたLMSとは違うんですか?」
「霧島カレッジさんのための教育システムを一般化して、誰でも使えるようにするサービスです。
誰もが講師として登録できて、その講義を誰もが受講できるようになります」
神代の質問に景隆が答えた。
「なるほど、講座のジャンルは決まってるんですか?」
「特に制約は付けませんが、受講者が探せるようにカテゴリーは用意します」
神代は「ふむふむ」と頷いている。
「それで、サービスを認知してもらうために、ユニコーンのスポンサーになることを検討しています」
「えっ!?」「あら?!」
神代と橘は一様に驚いた。
「資金調達を色々とがんばっているところですが、もし上手く言ったら神代さんにサービスの広告塔になっていただけないでしょうか?」
「それはお仕事の話ですか?」
橘の表情が仕事モードになった。
「はい、映画とコラボレーションができないかを考えてます。
たとえばですが、神代さんが映画と同じ衣装を着て、サービスの紹介動画に出演いただけないかなと考えています」
橘は「なるほど」と言いながら考え込んだ。
「あの……私が講師側のユーザーとして登録するのはありですか?」
「「「!!!」」」
神代の発言に全員が驚いた。
神代のコンテンツがあれば、広告宣伝費をかけずにユーザー数が大きく増えることが期待できる。
景隆は神代が柊の役に立ちたいのではないかと推察した。
「それはうちにとっては大変ありがたいけど、大盤振る舞いしすぎじゃない?
そもそも何を教えるの?」
柊は申し訳なさそうに言った。
(いゃいゃ、そこは押してくれよ)
「うーん……演技指導をやっちゃうと霧島カレッジのビジネスと競合しちゃうから、ブログの運用で身につけたITインフラの基礎知識とか?」
神代は役作りのために、柊が作成したブログの運用をしていたこともあり、ITの知識がある。
神代のブログでは、IT関連の記事がいくつか投稿されており、業界関係者からのコメントが多く寄せられている。
「橘さん、私が個人としてこのような活動をするのは問題ですか?」
神代は懇願するような目をしながら橘に伺った。
「――石動さん、ユーザー登録は法人でもできますか?」
橘は逡巡して言った。
「はい、もちろんできます」
景隆は橘の質問の意図がわからないながらも答えた。
「当事務所のアカウントを作って、所属タレントが講師をするのはどうでしょうか?」
「「えええっ!?」」
反対されると思っていた景隆と柊は驚愕した。
神代も目をぱちくりとしている。
「霧島カレッジへの導線になると考えています。
たとえば、当事務所の所属タレントがギターの基礎講座を作り、もっと上達をしたかったら霧島カレッジへの入学を促す感じにします」
「な、なるほど……」
景隆は橘からの望外の申し出に歓喜した。
霧島プロダクションほどの大手芸能事務所が、コンテンツを提供してくれるとなればこれ以上ない成果だ。
「音楽はいいとして、神代さんがITの講座をするのは事務所的にはどうなんですか?」
「意外性があって注目が集まるでしょうし、梨々花のブログのアクセス数にも寄与すると思います」
橘が間接的ながらも肯定的な言い方をしたことで、神代の表情がぱあっと明るくなった。
「さすがに霧島に許可をとる必要がありますが、おそらく問題ないと思いますよ」
「なぜでしょうか?」
景隆は話がトントン拍子に上手くいきすぎて、怖くなってきている。
「柊さんが始めたブログが、サイバーフュージョンに高額で売却できています。
霧島は柊さんへ利益を還元する方法を探していたんですよ」
「霧島カレッジにとっても悪い話ではないですし」と橘は付け加えた。
景隆は唖然としながら柊に小声で問いかけた。
『おぃ、橘さんって何者だ?』