「ちょ……まっ……!」
柊はあまりのことに言葉がでなかった。
「スポンサー契約の期限はいつまでですか?」
景隆は止めようとする柊を無視して話を進めた。
「うーん、クランクアップまでが目安かな?」
意外にも山本は乗り気だった。
景隆は柊の信用力がそうさせているのだろうと考えた。
「わかりました、クランクアップまでに資金を用意します!」
「お、おいっ! 石動!?」
柊は戸惑っていた。
元は同一人物だったことから、景隆とは無意識にコンセンサスが取れていたと思っていたが、今の景隆の言動は完全に想定外だった。
「まぁ、いいじゃないか、柊くん。うちにとってはリスクがある訳じゃない話だし」
「それはそうですが……」
映画製作側としては、現状では予算が足りているため、追加でスポンサーが入るなら広告宣伝費に回されるだろう。
これは、山本がクランクアップまでを期限としたことからも想定できる。
つまり、山本にとっては追加でスポンサーが付かなくても影響はない。
***
「俺が言いたいこと、わかってるよな」
柊はあきれるように言った。
どうやら怒ってはいないようだ。
景隆の家で、翔動の緊急ミーティングが始まった。
「あぁ、広告宣伝費は事業が軌道に乗って初めて歳出する予算だから、今の時点で映画のスポンサーになるなんて無謀ってことだろ」
「わかってんじゃねーか……」
柊は「やれやれ」と肩をすくめた。
「柊、お前に足りないのはリスクを取る姿勢だ」
「は?」
「俺の知らないお前の人生で何があったのか知らないが、自覚はあるんじゃないか?」
「石動から見れば俺はリスク回避しているように見えるかもしれないが……今日のは取らなくていいリスクだろ?」
景隆は柊の人生で何かがあったように感じたが、今は後回しにした。
「いいか、翔動があの映画のスポンサーになるためには、あのタイミングが一番なんだ」
「映画のスポンサーという意味ではそうかもしれないが……」
「あの映画は売れると思わないか?」
「まぁ、梨花さんが出てるし、脚本も穴が開くほど見てるからな……期待できると思う」
柊は神代のことを本名で『梨花』と呼んでいることから、相当親しい間柄と思われる。
「柊は制作発表会をちゃんと見てなかったと思うけど、俺は観客やマスコミの反応も見てたんだ。
すでに世間の注目は高いとみている」
「その辺はマスコミ嫌いの俺の弱点だな」
景隆もマスコミは好きではないが、柊ほどではない。
(未来になにかあったのだろうか……?)
「ネットのトレンド分析などはできるだろうし、ある程度の経済効果を予測できるんじゃないか?」
「データ分析は仕事でもやってたから、できるとは思う」
「万が一、映画の制作過程で危なくなってきたら柊がテコ入れしてくれ」
「おぃ、他人任せだな……そもそもスポンサーするからには何か売りたいものがあるのか?」
「LMSを使ったeラーニングサービスをやろう」
「システムは新田がいるからなんとかなるかもしれないが……学習コンテンツは? 作るのは大変だぞ?」
「講師側のユーザーが自由にコンテンツを提供できるようにする。
受講者側が支払った受講料から手数料をもらう形でどうだ?」
「確かにそういうサービスはあるが……品質は怪しくなりそうだな」
「受講生の評価からレーティングを付ける。レーティングのアルゴリズムは機械学習でなんとかならないか?」
「レストランの評価サイトにはそういうのがあったな……やってみないとわからないけど」
柊は「機械学習は万能ではないからな」と付け足した。
「講師側からコンテンツを提供してもらうためには、サービスを広く認知してもらう必要があるよな?
古本屋の場合は、本を売ってもらわないと売る商品がない。
本を売ってもらうために宣伝が必要だ」
「まぁ、理屈はあってそうだな」
「そこで映画をきっかけに、露出を増やすんだ。
神代さんが宣伝に出てくれれば、なおよしだ」
「彼女は高いぞ」
「ウェブサイトのトップに出す紹介動画なら、テレビCMと違ってコストを抑えられるんじゃないか?」
「まぁ、広告代理店もいらないしな」
「神代さんは、柊に役に立つことだったら喜んで引き受けてくれると思うんだ」
「そう……なのか?」
景隆は柊のコネも期待していた。
「そもそも、スポンサーの費用はどうするんだよ? それが一番の問題だろ?」
「あぁ、それは――」