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第12話 みんなちがって、みんないい

「うわー、すごい人だ……」

サイバーフュージョン内のセミナールームでは、映画『ユニコーン』の制作発表会が行われていた。

壇上では監督の風間が挨拶をしている。


景隆は柊と共に霧島プロダクションの関係者として、このイベントに参加していた。

この映画は神代が主演で、IT起業家の役を演じる。

配役はオーディションにより決められ、柊は神代にオーディションのアドバイスをしていたようだ。

さらに、柊は脚本の監修にも関わっているとのことだ。

(柊の活動が謎すぎる……)


映画のメインスポンサーはサイバーフュージョンであり、社長の上村がオーディションに関わっていたことから、柊とのつながりができたようだ。


「柊くん、傷は大丈夫かい?」

「はい、その節はお世話になりました」


柊は上村と話していた。

柊が傷害事件に巻き込まれた時に、上村にお世話になったようだ。

(情報量が多すぎる……)


「上村さん、実はここにいる石動と会社を立ち上げることになりまして――」

「ほう?」

上村が興味深そうに石動を見つめた。

「株式会社翔動の石動と申します」

景隆は新しく作ったばかりの名刺を差し出した。


「石動くんが代表なんだね」

「はい、今の会社を辞めたら翔動に入る予定です」

「そっかー、僕を振って石動くんを選んだのかぁ」

「そんな言い方やめてくださいよw」


どうやら、柊は上村にスカウトされていたようだ。


「これから柊くんに何かお願いすることがあれば、翔動さんに声をかければいいんだね?」

「はい、ぜひお願いします」


景隆は大企業とのつながりができたことに歓喜した。

零細企業が事業をやるに当たっては、コネが重要であることを再確認した。


「翔太、もう大丈夫なの?」

スーツを着た女性が柊に話しかけてきた。

彼女の知的で快活な印象は、誰にとっても好印象を与えるだろう。


「はい、もう大丈夫です。石動、俺の姉だ」

「ええっ!?」

景隆は突然柊の家族を紹介されて驚いた。


「石動と申します」

景隆は名刺を差し出して挨拶した。

「株式会社クオリアの柊あおです」


クオリアは映画の広報活動などを担当する大手広告代理店だ。

景隆は蒼がこの場にいる理由に合点がいった。


「今の会社を辞めて、石動の会社に転職することにしました」

「え、聞いてないわよ!」

「今言いました」

「こらー!」


柊にとって、蒼は遺伝子上と戸籍上では姉であるが、柊の主観では付き合いが短いはずだ。

景隆は柊が新しい家族とうまくやっているようで安堵した。

同時に、柊が以前の家族とはふれあえないことに同情した。


***


「ほわぁー」

景隆は思わず感嘆の声を上げていた。


壇上では、主演の神代と助演の美園が挨拶をしていた。

二人の登場で観客の歓声が沸き起こる。

会場の熱気は最高潮に達し、カメラのフラッシュが一斉に光を放った。

美園は神代と並んでも見劣りしない美しさで、二人が並んだ様子は、景隆が体験したことのない華やかさがあった。


柊は舞台には目もくれず、脚本の雪代と打ち合わせをしていた。


「石動さん、楽しめてますか?」

口を半開きにして舞台を眺めていた景隆に、橘が声をかけてきた。


「神代さん、すごいですね」

景隆は内心で自分の語彙力のなさを嘆きながら感想を述べた。


「あの場に梨々花が立っているのは、柊さんのおかげなんですよ」

「そうみたいですね……」

「石動さんが何を考えているか当ててみましょうか?」

浮かない表情をしている景隆に、橘はいたずらっぽく言った。


「柊さんと自分を比較して、自信をなくしているんじゃないですか?」

「ええぇっ?」

「ふふふ、当たりですね」


景隆は橘のことを怖ろしく感じた。


「俺も時間が経てば柊のようになれるんでしょうか……」

「柊さんは石動さんには、柊さんにはできないことを期待していると思いますよ」

「え?」

「もし、このまま何事もなければ、石動さんは柊さんのコピーになってしまいますが、お二人の性格を鑑みるとそれで良しとはしないでしょう?」

「あっ!」


景隆は後頭部を殴られたような衝撃を受けた。

橘が言ったように柊は景隆に自分と違う思考パターンを求めているのだろう。

柊が景隆の人生に過度に介入しないのは、柊が体験しないようなことを景隆にしてほしかったのではないだろうか。


「そっか……違っていいんだ……いゃ、違うほうがいいのか……」

景隆はブツブツと考えながら独り言を言っていた。


「ありがとうございます! これから俺がなにをやればいいか、見えてきた気がします!」

景隆は無意識に橘の手を取って、感謝の言葉を述べた。

橘は景隆を見つめながら、目をぱちくりとさせた。


「あっ!すみません///」

景隆は慌てて橘から手を離した。

自らの失態に顔を真っ赤にしてしまったが、心には不思議な高揚感があった。


***


「いやぁ、柊くんにはすごくお世話になったんだよ」


柊は景隆に、映画のプロデューサーである山本を紹介した。

山本はこの映画の責任者であるが、景隆はもはや柊が誰を連れてきても驚かなくなってきた。


景隆は山本と名刺交換をして挨拶を交わした後、柊を驚かせるようなことを言い放った。


「山本さん、弊社をこの映画のスポンサーに加えてください!」

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