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第10話 決起会

「え? OSSにするの? もったいないんじゃない?」

新田は驚いた様子で言った。


景隆は決起会という名目で、ダメ元で新田を居酒屋に誘ってみたが、意外にもあっさりとOKが出た。


この時代では、プログラムのソースコードを公開することは一般的ではないため、新田の反応は自然だった。

柊はOSSにする理由を説明した。


「ふーん、なるほどね……」

「新田ほどの開発者が出てくるかはわからないけどな」

LMSのソースコードはドキュメントも含めて英語で公開する予定であるため、世界中のプログラマーにアプローチできる。

柊は情報を公開したほうが、結果的に得られる利益が大きくなると言っていた。


「そういえば、新田と柊はどうやって知り合ったんだ?」

三人ともに(見た目上の)年齢が近いこともあって、気楽に話せるような関係になってきた。

(最初の印象からすると、劇的な進歩だな……)


「うちでやってるブログサービス知ってる?」

「あぁ、デルタの同僚がやってるよ」


『うち』というのは新田が勤務しているサイバーフュージョンである。

この時代はブログの黎明期であり、サイバーフュージョンがいち早くサービスを提供している。


景隆は白鳥がブログをやっていることを思い出した。

聞くところによると、白鳥の妹もブログをやっており、大変な人気らしい。


「あれは柊が作ったのは知ってるよね?」

「えぇっ!?」

「え? 言ってなかったの!?」


新田は怖い目で柊を睨んだ。

柊はすくみ上がっている。


「俺が作ったブログは、キリプロで運営していたんだけど、CFに売却したんだよ」

キリプロは霧島プロダクション、CFはサイバーフュージョンを指す。


「なんで、お前が作ったブログをキリプロが運営しているんだよ?」

「私も不思議に思っていた」

「まぁ、それは追々話すよ――」


柊曰く、話せば長くなるとのことだった。

景隆はうまくごまかされたような気がしていた。


「それで、柊がブログを移管するためにうちに顧問として来たんだけど……最初のアレはないわー」

「なにがあったんだ?」


あきれたように言った新田に、景隆は恐る恐る尋ねた。


「社内説明会に、くまりーとしらーやを連れてきたのよ」

「誰?」

「え! 知らないの? 神代っていうトップ女優と、白川っていうトップアイドルよ」

「えぇっ! 神代さんが!?」

「なに? あんたも知り合いなの!?」


景隆は「しまった」という表情をしていた。

白川は人気アイドルグループPawsのメンバーであり、その中でも一番人気のトップアイドルだ。

(女優だけでなく、アイドルまでつながりがあるのか……後で問いただす必要があるな)


「今回のLMSを使う最初のお客さんがキリプロのタレント養成所なんだよ。

神代さんも少し絡んでいる」

実際には神代はほとんど関与していないが、柊は新田が納得しやすいように言葉を選んだ。


「ふーん、なるほどね……私は技術的な内容しか興味なかったけど、うちの社員の騒ぎっぷりはすごかったわよ」

新田は芸能人に興味がなさそうだ。


ITエンジニアは男性が多い。

あからさまに男性社員に受けがよい企画をされると、女性の新田としては面白くないだろうと推測された。


「そりゃー、盛り上がるだろうな」

「もう、希望者が殺到して大変だったんだから」

「新田はなんで応募したんだ?」


新田の様子からすると、ブログサービス自体に特に思い入れはなさそうだった。


「え……えっと、中で使われている技術が面白そうだったのよ!」

新田はなぜか言いよどみながら答えた。

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