「怪しい感じだな、秘密組織か?」
景隆は柊に連れられ、グレイスビルという名前の建物に来た。
ビルは外見に特徴がなく、ビル名以外の情報は得られなかった。
入口が閉鎖されており、地下の駐車場から入館した。
1階に会議室があり、そこに今日の面会相手がいるのだという。
「石動と言います。よろしくお願いします」
石動は名刺を差し出した。
景隆は自分の会社である翔動の名刺を作っていないため、勤務先であるデルタファイブの名刺を渡した。
景隆は、対面した二人の女性に言葉を失った。
景隆より年下と思われる女性は、可憐さとあどけなさを同時に持つ容姿だった。
肩まで伸ばし、きちんと手入れされた艶やかな髪が知的な雰囲気を醸し出していた。
黒曜石のように輝く瞳で景隆を見つめ、ブラックホールのように引き込まれそうだった。
もう一人は景隆より少し年上と思われ、静謐さと知性が調和した美しい女性だった。
長く艶やかな黒髪は優雅に流れ落ち、端正な顔立ちには知性の光が宿っている。
細縁の眼鏡が、その知的な印象をさらに際立たせている。
受け取った名刺には『霧島プロダクション 神代梨々花』と記載してあった。
霧島プロダクションは、テレビを観ない景隆でも知っている芸能事務所だ。
「あれ?
興味深そうに言ってしまったことをやや失礼だったと内省したが、相手は景隆の予想外の反応を示した。
「ぷっ」「くすくす」
目の前の二人の女性は、思わず笑みをこぼした。
「?」
「
名前を言い間違えたのは石動で二人目だよ。一人目は俺だ。
神代さんは国民的人気女優なんだよ」
翔太が説明した。
「えぇーっ!なんで柊がそんな有名人と知り合いなんだよ?!」
タレント養成所の仕事だと聞いていたため、芸能界の関係者と接する可能性は考慮していたが、芸能人と面識する心の準備はできていなかった。
神代の容姿からすると、柊の言うとおり、相当な人気女優であることが推測できる。
「ふふふ、石動さんって、本当に柊さんと同一人物なんですね。
私を見たときの反応が一緒でしたよ」
神代はまだ笑いを堪えきれていないようだった。
もう一人の女性は橘といい、神代のマネージャーだという。
(元芸能人だったりするのかな……)
景隆は橘の経歴を勝手に想像していた。
(しかし、二人とも俺のどストライクだな……好みの女性は同じはずだし、柊の野郎!)
景隆は、柊に対して勝手な嫉妬心を燃やしていた。
「神代さんとは、アクシススタッフの仕事で偶然一緒になったんだ――」
柊によると、アクシススタッフのテレビCMの撮影で神代の演技指導をしたことをきっかけに交友関係ができたとのことだ。
田村という柊の同期が神代の同級生で、本来であれば彼女がやる仕事を代理で柊が引き受けたようだ。
その田村が柊と神代を再び引き合わせた結果、友人関係になったらしい。
「いゃ、そんな簡単に人気女優とお友達になれるかよ!」
景隆は思わずツッコミを入れた。
神代は「あの……その……」などとゴニョゴニョ言いながら、柊を熱い眼差しで見ていた。
(あ、これ以上突っ込んだら負けなやつだ)
景隆は柊と神代の関係を追求することを諦めた。
「はー、俺がアストラルにいじめられている間に、
石動は小説を読み終えたような顔をしながら感想を述べた。
柊が自分の正体を打明けていることから、二人に対してはかなり信用していることが伺える。
これまで柊と会話してきた中で、自分よりもリスクを取らない性格であることがわかった。
しかし、これが年齢によるものなのか、何かの出来事がきっかけによるものかはわからなかった。
そのリスクを嫌う柊が、最も高いリスクのある内容を二人に打ち明けているのだ。
「俺だって同じ道を通ってきたんだよ!
というか、こないだ俺が助けたんだから、お前のほうが楽してるじゃねーか」
「あのときは助かったよ――」
石動は柊を目で促しながら言った。
「すみません、おトイレお借りしてもよろしいでしょうか?」
「俺が連れていきます」
柊は、景隆が二人で話したいことがあるのだろうと察してくれたようだ。
(こういうのも以心伝心と言うのだろうか……)
「――おい!あの二人、めちゃくちゃ美人じゃねぇか!
……もしかして、どっちかと付き合ったりしてるのか?」
「そういうのじゃないから、安心しろ」
「でもあの感じは――」
景隆の目には、二人とも柊に好意があるように見えた。
さらに、自分よりも人生経験が豊富な柊がそれに気づいていないとは思えなかった。