「柊さんは体感年齢としては俺より年上なので、敬語は――」
「家族以上に近い間柄なので、お互い敬語なしでいこう」
「OK!」
話を誰にも聞かれないようにするという判断のもと、景隆は柊を連れて家に戻った。
「お互い名字で呼び合うってことでいいかな?」
「そうだな、第三者がいる場合にもそのほうが自然だろう」
「この家も久しぶりだな……」
柊は感慨深そうに言った。
景隆の感覚だと、子供の頃に住んでいた家を思い出す感じだろうか。
「それで、俺がやりたいことだけど……
未来のことがわかっているなら、今の仕事は相当楽になるよな? 今日のように」
景隆は柊の助言があれば、大抵の仕事が上手くできると考えた。
「あぁ、それに関して注意することがあるんだ」
「なんだ?」
「白鳥が今日のお前のように、急に問題を解決したことがなかったか?
ファームウェアが原因のトラブルだ」
「あーっ!あれはもしかして……?」
「俺の助言だ」
「えぇっ!柊って白鳥と面識あったの?」
「いゃ、柊翔太として面識ができたのは今日がはじめてだ――
白鳥の……白鳥の知り合いから相談を受けて、俺が解決策を授けてしまった」
柊は『知り合い』のところで言い淀みながら言った。
「アイツ、機密情報漏らしてないだろうな……」
「具体的な製品名は出していなかったから、大丈夫だと思う」
柊は少し考え込むような表情を浮かべながら続けた。
「それで……これが原因で、今日、石動と白鳥に会うことになったんだと思う」
「どういうことだ?」
「俺の記憶だと、お前らがアストラルテレコムの案件を担当するのはもう少し後だったんだ」
「白鳥が活躍した影響で、アストラルテレコムとの関係が早まったってことか」
「おそらくな。俺が介入したことで、石動の人生が俺とは別な道を辿り始めていると思われる。
だとすると、石動の仕事に的確なアドバイスをできるのは今後、限られるかもしれない」
「そっかー」
「あまり残念そうじゃないな」
「まーな。どうせ、お前と出会った時点で俺の人生プランは大きく変わりそうだし」
「仕事の件は追々相談するとして――後は世界征服だな」
景隆は人参のついでに大根を買うようなノリで言い放った。
「は?」
柊は聞き間違いと思ったが、景隆の目は本気だった。
「今の柊は、未来予測のチートスキル持ちってことだろ?
大抵のことはできるんじゃねぇの?」
「できるかどうかはおいといて、軍事的な支配はしないぞ」
「俺だってやりたくないよ。
俺が言いたいのは、経済的な意味で覇権がとれるんじゃないかってこと」
「まぁ……俺がお前くらいの頃は、そういう野心があってもおかしくなかったのか……?」
「で?できそうなの?」
景隆は興味津々だ。
「そもそも定義が曖昧なんだよ……俺こんなにいい加減なヤツだったかな……」
柊は著作がいくつかあり、文章を書くことが多いことから、不正確な言い回しを嫌う傾向にあった。
「金を稼ぐ方法はいくつか考えられる――
だから、特定の分野で世界をとることはできるかもしれない」
「よし、とりあえずはそれで行こう!」
「あくまでも前面にはお前が立てよ、俺は裏方だからな」
「なんで?」
「柊翔太としては目立ちたくないんだよ」
「あぁ、なるほど」
景隆は少し考えてから納得した。
柊翔太を知る人物と接触した場合、起こり得るトラブルを懸念しているのだろう。
「しかし、何をやるにしても柊に負んぶに抱っこになってしまうな……
なにか俺にできることはあるか?」
「あぁ、石動にやってほしいことがある」