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俺と俺で現世の覇権をとりにいく
くるみぱん
現実世界現代ドラマ
2024年07月24日
公開日
101,574文字
連載中
初対面のやつがいきなり「未来からやって来た」って言ってきたんだけど……

この物語は、ITエンジニアの石動景隆(いするぎかげたか)が、未来からやって来た柊翔太(ひいらぎしょうた)とタッグを組み、世界の変革を企てる物語である。
未来の知識を活用することで、大きな力を得た2人が大企業を相手に戦っていく――

【登場人物】
石動景隆: ITベンダーに勤務するエンジニア
柊翔太: 未来から来たらしい
神代梨々花: 人気女優、男性が苦手
橘麗香: 神代のマネージャー
新田由加: スーパーエンジニア

第1話 不審人物

「――ということは、まだ原因がわかっていないということですか?」

明石は、景隆かげたか白鳥しらとりに詰め寄るように言った。


ここは、大手携帯電話キャリア『アストラルテレコム』の会議室だ。

石動景隆いするぎかげたかと白鳥は、ITベンダー『デルタファイブ』の社員で、顧客であるアストラルテレコムに対してサーバートラブルの報告を行っていた。


明石はアストラルテレコムの運用部門に所属する課長で、景隆の報告に激昂していた。


デルタファイブが提供しているサーバーが、カーネルパニック(内部の致命的なエラーを検出してOSが再起動する現象)を起こすトラブルを抱えていた。


解析チームがコアダンプ ※1 を解析したところ、CPUの問題である可能性が高いことがわかっていた。


(しかし、それをこのまま報告できないんだよな……)

万が一ロット不良ということになれば、提供している同じロットのCPUを搭載しているすべてのサーバーに対して、何らかの対応が必要となる。


現時点では、単発故障の可能性が高いとされている。

しかし、少しでもロット不良が疑われれば、システムで使われているすべてのサーバーに対してCPUを交換しろという要求が来てもおかしくはなかった。


アストラルテレコムは、このような無茶な要求をしてくる会社であるため、報告には慎重な対応が求められた。

景隆は上司からの命令もあり、調査中であること以外の報告はできない状況であった。


***


「――デルタさん、もう次はありませんからね!」

ミーティングが終わっても、明石の怒りは収まらなかった。


景隆と白鳥は、アストラルテレコムの社員と思しき男性と名刺交換をすることにした。

本来であれば、ミーティング前に会ったタイミングで挨拶するつもりだったが、景隆を見た途端に彼は急に体調が悪くなったのか、一時的に席を外していた。


男性は、景隆と同じ年代と思われ、背格好も似ていた。

景隆はこの男性を不審に思った。

ミーティング中は上の空の状態で、景隆をチラチラと見ているようだった。

たまに白鳥にも視線がいき、白鳥も不審に思っていた。


ひいらぎと申します。よろしくお願いいたします」

柊と名乗った男性の名刺には、『柊翔太』と記載されていた。


***


「ふー、キツかった……」

報告はまさにサンドバッグ状態だった。

この後、会社に戻って調査を再開する必要がある。


アストラルテレコムの受付で退館手続きを終えた景隆は、ロビーでトイレに行った白鳥を待っていた。


「――あの、石動さん」

別れたと思っていた柊に声をかけられた景隆は驚いた。

ミーティング中、柊は具合が悪そうだったが、今は問題なさそうだった。


「はい、なんでしょうか」

景隆は、挙動不審だった柊を警戒しながら応じた。


「今回の問題はCPUですよね?」

柊の核心を突いた一言に、景隆は驚愕した。


「――えっ! なんでわかったんですか?! ――あっ!」

景隆は自分の失言に気づいた。

現時点でCPUの問題であることは、社外に漏らしてはいけない情報だった。


「差し出がましいですが、私の言うことを聞いていただければ、今回の問題は解決すると思います」

「ええぇっ!」


景隆は驚いた。にわかには信じがたい話だが、CPUの問題をピンポイントで当ててきた柊に興味を持った。


「問題の切り分け方法や解析のポイントは……今は時間がないので、いただいた名刺のアドレスにメールします」

言いながら、柊は辺りをきょろきょろと見回した。


『私は石動さんのすべてを知っています。初恋は小学三年生の同じクラスで――』

柊は景隆自身にしか知らないはずの情報を耳打ちした。

景隆は柊のことを空恐ろしく感じた。


「あの……石動さんのことを脅す意図はありません。

一度、二人きりでお話したいのですが、私のことを信じていただけるなら名刺の裏の連絡先にご連絡ください」


柊から渡された名刺の裏には、携帯電話の番号とメールアドレスが手書きで書かれていた。

景隆はあまりの情報量でいっぱいいっぱいだった。


「石動、どうした?――あ、どうも」

同僚の白鳥が戻ってきて、柊に気づいて会釈した。


「白鳥さん、石動さん、おつかれさまでした」

そう言って柊は去っていった。


***


「え!? ビンゴじゃん!」

白鳥は興奮した様子で叫んだ。


デルタファイブのオフィスに戻った石動は、柊からのメールの情報を元に問題の原因を突き止めた。


メールによると、スレッドの競合 ※2 でしか発生し得ない現象とのことだった。

この内容を元に解析チームが問題を再現し、原因が究明できた。


「石動、どうしてわかったんだ?」

白鳥の疑問はもっともである。


「柊さんが、似たような事例を聞いていたらしい」

景隆はそれらしい理由で取り繕った。


「あのときのあれか……ミーティングの時に言ってくれれば、俺たちがサンドバッグにならなかったのにな」

白鳥は退館手続きのときに、景隆と柊が話していたことを思い出しながら言った。


「確信がなかったんじゃないか? あの場ではいい加減なことは言えないだろ?」

「ああ、なるほど」


景隆と白鳥は、柊が別の会社からアストラルテレコムに出向している社員だと聞いていた。

白鳥は、これが理由で出しゃばったことは言えないだろうと解釈したようだ。


***


「――もしもし、石動です。今から会えますか?」


柊の情報のおかげで一段落ついた景隆は、早速柊に連絡した。

柊が言ったことがどうしても気になり、居ても立ってもいられなかった。


***


景隆はカフェで柊と会った。

開口一番、柊はとんでもないことを言った。


「俺、未来から来たんです」

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