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第5話 三者面談

 俺とアルルは面談前日まで、それはそれは入念にリハーサルを重ねた。

 そして、やってきた面談当日。教室に着く手前で、母に扮したアルルが言った。


「なぁ、今更なのだがな。面談の間だけ、の身体を母君にゆだねれば良いのではないか?」

「······はぁぁぁっ!? そんな事できんのかよ!?」

「いつでも入れ替われると言わなかったか? まぁ、長時間は厳しいがな」

「いやいやいやいや、聞いてねぇよ! ンなら最初っから言えよ! このバーーーーーッk──」


 俺が悪態をつききる前に、アルルは眩い光に包まれた。


『あら、そうくん。アルルちゃんにバカなんて言っちゃダメよ』

「······マジかよ」

『マジでーっす』

「あぁ、母さんなんだな。もう驚かねぇよ。その様子だと、アルルとも打ち解けてるみたいだし、状況わかってんでしょ? もう行くよ」

『やだぁ、蒼くん素っ気な〜い。でも賢〜い』


 それは紛れもなく、俺の母さんだと確信した。アルルのなりきりなどではない。

 沢山の感情が込み上げる。俺は、涙ぐんだ事に気づかれないよう、少し俯いて歩いた。



 三者面談は、バレることなく無事やり過ごせた。ロビーで拓哉がニヤつきながら待っていたので、見つからないように遠回りして帰る。


「なぁ、母さん····」

『蒼ちゃん、ごめんね。私そろそろアルルちゃんの中に戻るわ。限界みたい』

「え、限界って何? しんどくなったりすんの?」

『大丈夫よ。眠くて眠くて我慢できないだけだから··ふぁぁぁ』


 母は大きな欠伸あくびをしながら光に包まれ、アルルの姿へ戻ってしまった。


「待っ──母さん!」

「残念だが我だよ、蒼士」

「····あぁ、残念だよ」


 俺たちは、険悪なムードのまま帰宅した。


 先日、新たに課せられたルールがある。

 帰宅すると、敷地に入る前に奇妙な動きをしなくてはならない。他人の意識に干渉する魔法で、この場所を認識させない術式か結界がどうとかアルルが言っていた。

 なので一応それに従い、奇妙な動きをしてから敷地に入る。が、アルルはそのまま入ってしまった。


「おい、なんでお前は妙な動きしないんだよ」

「ん? なんでって、我はこの札を持っておるからな」


 アルルは、御札のような紙をペラッと見せて言った。


「だぁーーーっ!! あったまきた!」

「な、なんなのだ?」

「お前なぁ! そういう札とか便利なもんあるなら最初っから言えよ! 母さんとの入れ替わりも、練習とかする前に言えばよかっただろ!?」

「あぁ、それは····」


 アルルはバツが悪そうに目を逸らす。

 ダメだ。放出し始めた感情が止まらない。


「なんだよ。申し開きがあるなら言ってみろよ!」

「なんか··楽しかったから····」

「はぁ? ····はぁぁぁ?! ふざっけんなよ、マジなんなんだよお前は!急に現れて母さんと入れ替わったとか言うし、家爆破するし、ち··痴女だし、旦那まで来るし、ずーっとわっけわかんねぇんだよ!!」


 俺は、感情のままアルルに言葉をぶつけた。これ以上、酷い言葉を放たないよう歯を食いしばる。


「蒼士殿、落ち着いてください。カモミールティーです」


 背後から、スっとカモミールティーを差し出したのはドラルだ。紳士な振る舞いが、少しだけ俺を落ち着かせた。


「ありがと──ってお前もだよ!どっから聞いてたんだ」

「蒼士殿が、屋敷に入る為の儀式をし始めた辺りからです」

「最初からじゃん」

「何から何までアルルの不徳の致すところ。やはり我々は、蒼士殿と共に居られぬのでしょうか」

「いや、そうは言ってねぇけど······」


 口ごもっていると、門の外から拓哉の声が聞こえた。


「話は聞かせてもらった。そして、儀式も見させてもらった」


 さすがの俺も、この時ばかりは消えてしまいたいと思った。思えば、母ならぬアルルがやってきてから、何一つとしてロクな事がなかったのだ。

 本当は、あのバカも無視して部屋に篭もりたい。しかし、それでも律儀に対応するのが俺の良い所で、母さん譲りのお人好しな所だ。


「じゃぁ俺がいかってんのもわかるな。しばらく1人にしてくれ」


 そう言って、俺は部屋に籠った。誰も、俺を追ってくるどころか引き止めさえしなかった。


 そこから、どういう流れでそうなったのかは知らない。俺が用を足しに部屋を出た時、3人はダイニングで気ままに立食パーティーをしてがった。


「なんっでだよ。何故、今、立食パーティーなんだよ! こいつら全員アホなんか。アホなんだな。もういい。当分こいつらから離れる」


 ドアの隙間から覗き見していた俺は、独り言を呟きながら自室に戻った。


 それから暫く、俺が部屋から出るまでの間、何故か拓哉はこの屋敷に居座った。なんだかんだフザケながらも、俺を心配してくれているのだろう。分かってはいるが、腹の虫は治まらない。



「なぁ、蒼士〜ぃ。そろそろ出てこいよ〜」


 待ちくたびれた拓哉は声を掛け続け、痺れを切らしたアルルがドアを蹴破ったらしい。

 俺はその時、既に部屋には居なかった。身勝手な手紙だけを残し、姿を消していた。



──────


みんなへ

急に出ていってごめん。

お前らに出会えて、母さんを失ってすぐなのに寂しい思いはせずに済んだ。不本意だけど、その点だけはありがとう。

けど、アルルの自分勝手さにはほとほと愛想が尽きた。頭を冷やしたいから、少しの間だけ自由にさせてほしい。

所持金が尽きたら帰ってくるから、その時はまた甘えさせてくれよ。


蒼士


P.S.

拓哉もどうせ居着いてんだろ。暫くしたら帰るから、それまでアルル達の事よろしくな。


──────


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