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第4話 そう言えば、新々生活

 翌朝。と言っても、数時間しか寝ていない。


「蒼士殿、おはようございます」

「ん··ぉはっ! あ〜ビビったぁ、誰かと思ったわ」


 そうだ。アルルとドラルとの生活が始まったんだった。


「驚かせて申し訳ありません。朝餉あさげ支度したくが整いましたので、お声掛けさせていただきました」

「え、あぁ。ありがと。なぁ、ドラルって執事か何かだったの?」


 丁寧な言葉遣いに、男の俺が見惚れるほどの美しい所作。そして、このお仕えされてる感。


「元々は。ヴィーラ家におつかえする執事の1人でした」

「それがなんでまたあんなのと······」

「あんなの····?」


 アルルを悪く言うのは厳禁らしい。怒らせると怖そうだから気をつけよう。


「いや、えーっと、じゃぁアルルは主人だったんだよな? よく結婚できたな」

「ふふ、それがきっかけで今ここにおります。どうぞ、魔法で着替えを用意しておきました。昨日伺っていた制服です」

「あぁ、ありがとうございます。えぇー····嫁殺されて異世界に来てんのに、なんか軽くないか?」

「そうですか? まぁ、慌てふためいたところで、どうにもなりませんからね。流れとアルルに身を任せてしまおうと、腹をくくっただけですよ」

「なんかたくましいような違うような······」

「おーい、まだ食べてはいかんのかぁ?」


 アルルが空腹らしい。ダイニングで机を叩きながら急かしてくる。いいご身分だ。

 しかし、早く顔を見せないともっとうるさくなる。


「やっと来たか! おはよう、蒼士」


 我儘姫は今日も無駄に愛らしい。この笑顔に撃ち抜かれ、ドラルは片膝を着いた。いちいち大変そうだな。


「おはよう」

「なぁ、いい天気だしこの世界を案内してくれんか」

「ダメだ。俺は学校行くぞ」

「学校··だと? 何時に帰るのだ」

「んー、5時には帰れるかな。あれ? こっからどうやって行くんだ?」


 そう言えば、現在地すら分からない。バタバタしていて、それどころじゃなかったからな。


「ふっふ〜ん。我が連れて行ってやろうか」

「いや、いい。来るな。家から出るな。幸いスマホと財布は無事だからな」

「おい、スマホとはなんだ?」

「帰ってきたら教えてやるよ。ドラル、アルルの事頼むな」

「かしこまりました」 


 よし、マップで調べながら学校へ行こう。思いのほか遠くまで飛んでたんだな。

 学校まで1時間くらいかかりそうだ。余裕で遅刻じゃないか。



 何とか学校に辿り着き、休み時間真っ只中の教室に入る。


「蒼士〜! おっせーよ。休みかと思ったわ」

「おぅ、拓哉たくや。おはよ。ちょっと寝坊しちゃってさ。それよりお前、頭どうしたんだ?」


 同級生の苅間かりま 拓哉が声を掛けてきた。

 先週まで少し長めの無造作ヘアーだったのだが、気分転換なのか短髪オールバックになっていた。


「あぁこれ? ちょっと兄貴に事故られた。それより、おばさん退院したんだろ? 良かったじゃん!」


 拓哉の兄は美容院を経営している。まぁまぁの売れっ子美容師だったはずだが。そんな事はどうでもいい。

 俺はハッとした。慌ただしかったとは言え、親友にさえ連絡を一切取っていなかったのだ。


「あぁ、うん」

「どうしたんだよ」

「いや、それがな──」


 俺は、幼稚園からの親友である拓哉に全てを打ち明けた。一人で抱えるには、少し疲れてしまったのだ。


「なんだよそれ。じゃぁおばさんは?」


 いくらバカでも、素直に受け入れすぎだろ。どんだけ俺のこと信用してんだよ。

 とは言えず、話を続ける。


「うん。アルルが自分の中に魂がり続けるって言ってた」

「一回会わせろよ。俺だって、おばさんのコト自分の親並みに知ってんだぜ? この休みの間、連絡もせずに心配させた罰だ。会わせろ」

「わ、わかったよ。んなら放課後、豪邸に案内しよう」



 かくして放課後。新居である豪邸を見上げ、拓哉は口をあんぐり開け放った。


「なぁ、これ勝手に住んでていいのか?」

「なんかドラルが上手くやるって言ってたし、大丈夫なんじゃね?」

「へぇ〜····。よし、じゃ行くか」


 そっと玄関を開け、恐る恐る覗き込む。いやに静かだ。


「ただい··ま······」

「おじゃましまー······す」


 恐る恐る中へ入る。すると、2階から声が聞こえた。


「アルル! 待て! 服を着るんだ。髪も拭け。そろそろ蒼士が帰る──··おかえり」

「なんだ、帰ったのか。ん? そっちの小僧は誰だ」


 風呂上がりのアルルが全裸で、階段の中腹辺りで仁王立におうだちしていた。


「服くらい着ろバカッ」

「裸を見たくらいで興奮するな、ガキめ」

「ぶっはは、あれかよ! めっちゃガキじゃん」

「誰がガキだ! 見よ!」


 アルルはボンッと成長した。濡れた金髪がキラキラと揺らめいて、妙にいやさしさを増幅させる。


「うわ、すっげー! マジで魔法なの!?」

「どうだ、見たか。これが本来の我の姿だ」

「アルル! 他所の男の前でなんて事を!!」

「ハァ····。とりあえず紹介するわ。こいつ俺の親友の拓哉。で、裸なのがアルルで、追っかけてんのが旦那さんのドラル。とにかく茶、飲む?」



 ダイニングで一通り話を終え、打ち解けた結果夕飯を共にした。アルルは満腹でうたた寝しているが、そんなのは放置で食後のコーヒーを飲む。

 いや、拓哉はどんだけ馴染んでんだよ。


「ねぇねぇ、ドラルさんはアルルより強いの?」

「とんでもない。アルルは全生物最強と言っても過言ではない程強いのですよ」

「へぇ〜、じゃぁ夜の方は?」

「それはですねぇ〜」


 ゴンッ──


「ぁいって!! 何すんだよ蒼士!」

「アホな事聞いてんなよ」

「ん゙ん゙っ··。私としたことが、アルルとの情事を口走るところでした」


 アホには付き合ってられない。


「それよりさ、ちょっと問題ができたんだよ」

「三者面談だね、蒼士くん」

「そう、三者面談なんだよ」

「サンシャメンダン、とは?」


 ドラルは首を傾げる。ざっくりと説明すると、掌に拳をポンと置いて合点のいった顔をした。ドラルは時々、身振り手振りがジジィくさい。


「なるほど。我が国にも学園にてそのようなものがありました。では、それにアルルが母君のフリをして参れば······参ればよろしいのですね」

「なんだよ、そのは」


 相当不安そうな顔を晒していたのだろう。それを察したドラルは、慌ててフォローする。


「アルルに任せておけば大丈夫ですよ」

「不安しかねーよ」

「蒼士よ······ガンバッ」


 両拳を胸の前でグッと構え、要らぬ応援をしてくれる。完全に他人事だ。


「拓哉、お前ホント友達甲斐ねぇよな」

「失敬な! 俺もできることなら同席してやりてぇよ」

「面白がってるだけだろ。ったく。けど、マジでどうしたもんかな····」


 困窮した俺を見て、ドラルが声をすぼめて言った。


「蒼士殿、その、アルルですが、打ち合わせさえすれば完璧にこなすと思いますので····。ですので、あまりご心配なさらず」

「打ち合わせ、ねぇ····」

「何の打ち合わせだ?」


 起きてきたアルルが突然話に入る。俺は、面談の必要性と重要性を丁寧にき、3回目の説明でようやく事が上手く運ぶようぎつけた。


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