目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
『リバー、流れないでよ』

【作品情報】

製作:2023年/86分/日本

監督:上田誠

出演: 藤谷理子/永野宗典/角田貴志

ジャンル:超短期間ループ型群像劇コメディ

(参考サイト:Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/)



【ざっくりあらすじ】

川床で有名な、京都の貴船きふねにある老舗料理旅館のふじや。

そこで働く仲居のミコトは、番頭と宿泊部屋の片付けをしている時に気付いてしまう。

「あれ、さっきもこの片付け……しましたよね?」

「したした!」

番頭も違和感を覚えていた。二人はデジャヴ的なものかと思うも、最初の片付けの時に交わした会話もばっちり覚えていた。何か妙だ。


一方、パントリーで熱燗を作っていた仲居のチノは、いつまで経ってもお酒が温まらないことに怯えていた。

そして熱燗を頼んだ宿泊客のノミヤとクスミも、食べても食べても雑炊が復活することに恐怖した。


どうやらふじやを始め、この貴船一帯の時間が2分間ループし続けているらしい。

お客たちをなだめるミコトら従業員だったが、繰り返されるループの中でそれぞれ精神的に参ってしまい、大喧嘩を始める人たちも。


なお喧嘩をした記憶はループ後にも当然持ち越しなので、人間関係の破綻=割とヤバめである。


段々しっちゃかめっちゃかとなる状況下に、ミコトは罪悪感を覚え始める。

そして彼氏でもある、料理人見習いのタクに告白した。

「時間を巻き戻してるの、私かも」と。


フランス料理を修行すべく渡仏を計画中のタクと離れたくないミコトは、貴船の川に「流れないで」とお祈りしてしまったのだ。

変なタイトルだなぁ、と思ったら。なるほどなー。


果たして貴船の人々は、ループ地獄?から抜け出せることは出来るのか。

主要人物の半分ぐらいが、「もうこのままでもいっか」という大らか過ぎるスタンスだけども!



【登場人物】

ミコト:

ちょっと舌っ足らずな、三つ編みお団子の主人公。

2分間ループという謎状況にもかかわらず、割と冒頭から

「私の初期位置、そこの川辺ですから!2分後に何かあれば呼んでください!」

とお客に説明したり、おもくそループ地獄に順応している。何だよ初期位置って。

こんなタフな奴が、遠距離恋愛ごときで悩むなよ。

なお彼女の生み出した「初期位置=ループ開始時の居場所」というワードは、他の人も普通に使用する。


タク:

今の今まで、職場にも恋人にも渡仏のことを打ち明けていない、面倒なこと先延ばし癖がありそうな料理人見習いボーイ。

そういうことは、先に言うといた方がええで。

後述の感想欄でも書いているのですが、キャラ的にこれといって特徴のないお兄ちゃんでした。


番頭:

偉い人のはずだけど、ミコトちゃんと片付けした時に重い食器一式を引き受けたり、面倒な客の対応も買って出たり、たぶんめちゃくちゃいい人なんだろうなぁ、と伺えるおじさん。

娘が大学生で、今度初めて彼氏を家に連れて来るらしい。頑張れ。


チノ:

ミコトちゃんの同僚。初期位置が地下のパントリーのため、お客対応の時に大変がち。

どうやら推しのアイドルがグループ脱退を発表したらしく、中盤までちょっと落ち込んでいる。しかし最終的に、ループ地獄を上手く活用して推しへの未練を昇華出来た模様。よかったね。


キミ:

女将さん。酒にはあまり強くないのかも。無茶しやがって……

今まで大雪で停電した時も、大雨で川の水位が上がりまくった時もガッツで乗り越えて来たが、さすがに謎のループ現象には参っていた。そりゃそうだ。


エイジ:

理系の板前。ループの原因を一人で解決しようと奮闘――していると思われる。

たぶん裏で色々頑張っていたと思われるが、いかんせんミコト視点で物語が進むので出番は少なめ。

でも、居なかったら詰んでた。


料理長:

しょうもない質問により、エイジのループ説明ターンを無駄にしてしまった。

そのため、ミコトたちからめっちゃ恨まれる。


ノミヤ:

宿泊客。

ボタン鍋の雑炊がいつまで経っても減らないので困っていたコンビの太っちょな方。


クスミ:

ノミヤの相方の旅行客で、細い方。

この2人は割と旅館スタッフに好意的で、色々手伝ってくれる。いい人たち。


オバタ:

宿泊客で、連載中の小説に行き詰まっている作家先生。

ミステリー的なものを書いているのか、自殺したヒロインの気持ちを知りたいと言い出してとんでもないことをやらかす。


スギヤマ:

オバタ先生の担当編集。

番頭さんが止めたのに、時間外に大浴場に入った結果、風呂場でループを繰り返す羽目になる。ざまぁな細マッチョ。



【感想など】

ループしてる全ての2分間を、長回しで撮ってるんですよね。

それをおそらく20回以上繰り返していて……役者さん並びに、スタッフさんも作中の登場人物よろしく気が狂いそうになったのではなかろうか、と笑いつつちょっとゾッとしました。


それにしても、風光明媚な京都の老舗旅館にSF要素をぶち込むって、粋ですねぇ。

ループの度に世界線が移動しているらしく (エイジ談)、旅館の周辺は雪が降り始めたり、あるいは大雪に覆われていたり。はたまた青々とした木々に囲まれていたりもしたので、この86分間で貴船の素敵な景観をギュギュッとまとめて堪能できました。美味しい。


恋愛ものを書くくせに恋愛映画や恋愛ドラマをあまり好まない偏食家なため、ミコトちゃんとタク君の恋愛パートはちょっとダレてしまったのですが。

そこ以外は始終ワチャワチャしてて、途中で血みどろ騒動もあったりしつつ、最後はいい感じにほっこりと終わる楽しい映画でした。


――というか、ふじやに泊まっているメンツ+猟師のおっちゃんのキャラが濃すぎて、恋愛パートの主軸であるタク君がだいぶ食われていたことも、大きなダレ要因の一つではなかろうかと。

上記の人々に加えて番頭さんや料理長さんなど、この映画はオッサンたちのキャラがとにかく濃いです。

小規模かつ短期間ループを楽しむSFでありながら、多種多様なオッサンの滋味深さも楽しめるオッサン映画とも言えます。


あ、主人公はもちろん、ミコトちゃんです。

ただ舌っ足らずでちょっと自由奔放な彼女の可愛さが際立つのも、それ以上に自由に生きてるオッサンたちがあってこそかと。


良作でオッサンが大活躍なSFを楽しみたい方は、ぜひぜひ。

おそらくは世界でも貴重な、SFオッサン映画です。

他にパッと思いつくのは『宇宙人ポール』ぐらいです。オッサンの人数なら、こっちが上だね!


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?