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『仄暗い水の底から』

【作品情報】

製作:2002年/101分/日本

監督:中田秀夫

出演:黒木瞳/小日向文世/菅野莉央

ジャンル:見えそうで見えない、チラリズムホラー

(参考サイト:Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/)



【ざっくりあらすじ】

離婚調停中の夫と、娘である郁子いくこの親権をめぐって泥仕合を繰り広げている淑美よしみ

専業主婦だった彼女は、郁子との生活を維持するために引っ越しと就職を決意した。

二人が越したのは、ボロいし天井の雨漏りが酷いし水道水になんか髪の毛も混じってるし、ついでに管理人のジジイはなんか頼りないし……と、色々と不気味なマンションだった。

淑美、他になかったんか。普通にボロいだけのマンションはなかったんか。


また郁子はマンションの内覧時に、(何故か)出入り自由な屋上で子ども用の赤いポシェットを見つけていた。

落とし物として管理人のジジイに届け出るも、マンションには今、子どもが住んでいないらしい。

淑美は「そんなん新参者のワイに言われても、困るがな」とひとまずジジイにポシェットを預けたが、ポシェットはある日ゴミ捨て場にボッシュートされていたうえ、どういうわけか屋上にリスポーンしていた。RPGのザコ敵か!


ワケが分からないよ状態の淑美だったが、他にも問題は山盛り。

夫は淑美の精神科への通院歴や、子どもの頃に夢遊病を患っていたことを槍玉にあげて来て、あの手この手で親権をもぎ取ろうとしてくる。おかげで調停委員も疑惑の目。

郁子の通っている幼稚園も、保育士の人格にだいぶ難あり。


おまけに郁子はリスポーンしたポシェットを見つけて以来、”みっちゃん”なるイマジナリーフレンドと遊ぶようになっていた。

その名前は、淑美も覚えがあった。郁子の通う幼稚園に通っていた園児で、二年前に行方不明になった美津子という少女だ。


その少女は、赤いポシェットを持っており――失踪前に住んでいたのは、淑美たちの上の部屋だった。


郁子とみっちゃんとの会話は増え、遂に郁子は高熱を出してぶっ倒れてしまう。

追いつめられた淑美は引っ越しを決意するも、彼女を担当している岸田弁護士によって、天井の雨漏りの原因が判明。加えて管理人のジジイと、無責任が過ぎる不動産会社へのざまぁも成功。


離婚調停もどうにか淑美優位に持ち直せ、ひとまず落ち着いたかのように見えたのだが。

再び、美津子のポシェットがリスポーンした。



【登場人物】

淑美:

ちょっぴり他責思考が強めで、過去の通院歴を持ち出さなくてもメンタルクラッシュ気味なのが明らかな主人公。なかなか複雑な家庭環境で育った模様。

郁子大好き・郁子命なことだけは、重々に伝わってきます。

きっと平時は優しいお母さんなんだろうな……


郁子:

幼稚園児 (年長さん)とは思えぬ利発さを度々見せる、むちゃ可愛い女の子。

ちょっぴり猫目で、ほんと可愛い。泣き顔も恐ろしく可愛くて、悲しいシーンなのにこちらの母性が爆発しました。

演じていた菅野莉央さんは、現在も女優さんを続けていらっしゃるそうで。納得。


岸田:

この作品の数少ない癒しであり良識人であり、唯一のトラブルシューター。この人がいなかったら詰んでた!

なお後味悪い系ホラーなので終盤には絶望展開が待っているのですが、この方と連絡が付かなかったが故の絶望です。ほんとに詰んじゃったよぅ……


美津子:

幼き頃の淑美と家庭環境が似ている、今回の元凶。

だけど顔はなかなか見せてくれない。焦らし上手だねぇ。

あらすじの通り、特技は持ち物のリスポーン。これが実生活で出来たらとっても便利なのに。


小林くん:

淑美が幼稚園を見学した時に、園長先生と保育士のダブルタッグに詰められていた年長さん。なおゴン詰めの理由は保育士をバカ呼ばわりしたため。

大人二人にガチ説教されて号泣する小林くんを見守りつつ、お茶を飲む羽目になる淑美という、映画史に残るであろう気まずいシーンが印象的でした。



【感想など】

う、うわぁぁぁー! チラリズムの美学だー!


大昔になんとかロードショーで偶然ラストシーンだけ観てしまった&先にハリウッド版を観てしまったので「まあ、ええかな」と、やんわり鑑賞を先延ばししていた本作。


というのもハリウッド版は、母の愛が前面プッシュされていて、仄暗いどころかほんのり甘くて切ない母子のお話だったのですよ。

これはこれでとても面白い(ラストのエレベーターでの最後の触れ合いなんて、泣きました)のですが、感動系ホラーは泣き疲れるのでおかわりは不要かな、と。


そんなわけで本邦版も感動系だと思っていたら、ゴリッゴリのホラーでした。Jホラー界の名作じゃん。

しかも前述のとおり、はっきり美津子の姿を描かず、彼女のバッグや足だけ見せることで恐怖をあおるというチラリズム戦法……これが!一番!怖いんよ!


もう、郁子ちゃんのバッグに美津子のポシェットが入ってたところや、ラストの入れ替わりトリック?のところなんて鳥肌でござった。

後者なんて、ハリウッド版と展開一緒なんですよ。だから読めてたんですよ。

なのにチラリズム美学と、計算され尽くした焦らし方によって、初見時以上に怖かったです。アーッ!


あと、楽しくお茶飲めそうなのが郁子ちゃん・淑美の叔母さん・岸田弁護士さんの三人しかいないので、叔母さんと岸田弁護士不在の前半は人間も怖かった……

お茶会NGの筆頭はマンションの管理人をしているクソジジイと、ビッグマウスが過ぎる不動産会社のクソ眼鏡の二名ですが、主人公の淑美もたいがいヤバいです。


ずっと情緒不安定で、突然叫びだしそうで怖い。お茶というか、熱湯や刃物の近くに淑美を置けない。

ついでに幼稚園の園長先生と保育士も、たいがい怖い。いい年した大人が寄ってたかって、子ども泣かせるなよなぁ! 小林くん、号泣じゃん!

号泣っぷりが印象強すぎて、エンドロールのキャスト欄で「小林くん」って書かれてるの見つけて思わず笑っちゃったじゃん! 不憫すぎて笑ったじゃん!


――という、「人が怖い」と「霊が怖い」の両方を楽しめる一石二鳥な映画でした。

親子の切ない愛情物語なハリウッド版も、あれはあれで面白かったです!

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