【作品情報】
原題:In the Mouth of Madness
製作:1994年/95分/アメリカ
監督:ジョン・カーペンター
出演:サム・ニール/ジュリー・カーメン/ユルゲン・プロホノフ
ジャンル:虚実入り乱れ型狂気系ホラー
(参考サイト:Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/)
(あとアニヲタWikiの個別ページも、大変よかったです https://w.atwiki.jp/aniwotawiki/pages/34827.html)
【ざっくりあらすじ】
ある精神病院に「俺はまともだ!」と、紋切型なセリフをわめきながら収監された男性がいた。
彼の症例に興味を持ったのか、医師の一人が面会を行うことに。
トレントという名の患者は、病室と自身にクレヨンで十字架を書きまくるという、キリスト教式耳なし芳一スタイルで医師をお出迎え。
彼から煙草を分けて貰いつつ、入院に至るまでの経緯を語った――
フリーランスの凄腕保険調査員だったトレントは、馴染みの保険会社社長から
「お抱え作家が失踪したと保険金請求してきた、ある出版社を調査して欲しい」
と頼まれる。
その際に斧を振りかざす、見るからにヤバいオッサンに襲われかけたものの、警察官がオッサンを銃殺してくれたおかげで間一髪、難を逃れ。
トレントはアルケイン出版での調査を始めることに。
行方が分からなくなっているのは、ホラー作家のサター・ケイン氏だった。
トレントは彼のことを「よくいる俗物ホラー作家」と断じていたが、彼の著作を読んだファンがこぞって暴徒化するなど、結構な社会問題になっている人物でもあった。
そんな彼は代理人に最新作『マウス・オブ・マッドネス』の原稿の一部を持たせた後、ふつりと音信不通になっていた。
彼の本に出て来る「ホブの町」なる場所にいるっぽいのだが……そんな町は、アメリカのどこを探してもないのだ。
「じゃあ、原稿を受け取った代理人に、話を聞けばいいじゃん」
と、トレントがまっとうな提案をするも、
「君を斧で襲った男がいただろう? アイツがその代理人だ」
嫌な事実を告げられちゃった。
なんでもサター・ケインの最新作を読んだ結果、ああなってしまったらしい。もはや劇物じゃん。どうにかして法で取り締まれよ。
そんなお手上げ侍な状況の中、何かの手掛かりになれば、とトレントはサター・ケインの小説を購入。
だがその日以来、悪夢にうなされる羽目に。
「この調査、もうやだ」
とややダレた時、彼はふと気付いた。
作家様が御自ら描いたらしい表紙に、何かあるぞ、と。
躊躇なく各作品の表紙を引っぺがして切って重ね合わせると、なんと地図が出来上がったのだ。
これはホブの町への地図に違いない。
そう思ったトレントと、サター・ケインの担当編集であるスタイルズは、頼りないヒントを元にホブの町を目指した。
怪奇現象に見舞われつつ、どうにか町にたどり着いた二人は、驚きで目を見張る。
小説に出て来る町、そのままなのだ。
二人が宿に選んだピックマン・ホテルなんて、壁の絵まで小説通りである。
まあそこまでは、現実の町をモデルに書いていれば、ありえる話だけども。
そこで次々と、小説通りの奇怪な出来事が起きたり、ヤベェ連中も出没すると来た。
トレントは出版社の手の込んだ詐欺かと疑うが、スタイルズは「そんなことするわけないでしょ」ときっぱり否定。
もしも本当に全部ドッキリだったら、手が掛かり過ぎて、保険金を貰えたとしても大赤字必至ですよね。
では全て現実だとして……一体、この町で何が起きているのか?
【登場人物】
ジョン・トレント:
保険調査員を長く続けた結果、どんな出来事も基本的に疑うスタンスでかかってみる、やや人間不信な主人公。
マジックショーとか絶対観に行かない方がいいタイプ。
そんな頭でっかちな彼が、狂気の海へと勢いよく転がり落ちる様は、可哀想を通り越してなんか豪快。
リンダ・スタイルズ:
全身白という、汚れが目立ってしゃーない格好で果敢に長旅に挑む、サター・ケインの担当編集。
彼の作品は大好きらしく、事あるごとにケインオタっぷりを披露してトレントをドン引かせている美人。
が、ケイン本人は怖くて苦手らしい。複雑。
サター・ケイン:
担当編集からもビビられている、超売れっ子ホラー作家。
著作が1億部売れていると語っていたので、思わず「わー、『鬼滅』と一緒じゃん」と呟いたら、一緒に観ていた母に「急に親しみやすくなるから止めろ」と言われました。
ご本人はモジャモジャ頭にイッた目と蝶ネクタイという、全然フレンドリー感のないビジュアル&言動です。
【感想など】
この映画を、ずっと探していたんですよ。
おそらく小学生の頃に一度観たものの、ストーリーもタイトルも覚えておらず、記憶にあったのが
・主人公とヒロインが二人で、観光地みたいな静かな田舎町を訪れる
・そこで住人や化け物に追われる
・ヒロインも体がねじ曲がって、化け物になる
・ラストシーンで主人公が映画館にいる
という、断片的過ぎる情報だけでした。ただ、とても強烈な印象だけはあったんです。
なので探しました。
人力というか自力で、80~90年代のホラー映画という玉石混交の山から。
ネットが発達した世界に生きてて、本当に助かりました。
辛うじて覚えていたラストシーンのおかげで、どうにか再会できた本作。
そして再見して、アホな割に異様にサブカル絡みの記憶力だけは優れていたキッズの私が、どうしてストーリーを殆ど覚えていなかったのかが分かりました。
当時11歳か12歳辺りの子どもに、これを理解するのは、無理。
どこまでが現実で、どこから狂気が見せる幻覚なのか――その境目が曖昧になって疲弊していく主人公のお話なんて、子どもに分かるか!
なので「田舎町でヒデェ目に遭った主人公が、逃げ帰って映画館に行く」という、超々大まかな流れを覚えていただけでも、当時の自分ご立派、と思うことにしました。
また上述のあらすじやタイトルから、聡い方はピンと来るのでしょうが。
こちらの映画、めちゃくちゃラヴクラフト作品リスペクトでした。
サター・ケインが描く、クリーチャーのビジュアルは超クトゥルフだし。
ホブの町があるのはニューイングランドだし。
お宿の経営者はピックマン夫人だし。
映画の原題をつなげて読むと「
私のクトゥルフ神話は、PlayStaitonのRPGの『WILD ARMS』からだと思っていたのですが。
どうやらそのちょっと前に、知らぬままファースト・コンタクトを終えていたようです。
――と、話が横にそれまくった末に、田んぼに突っ込んでしまったのですが。
ストーリーを把握していない割に胸に居座っていた本作を改めて観て、どうしてここまで居座っていたのか腑に落ちました。
クリーチャーが出て来て「ウワァ!」なジャンプスケア的シーンも一応あるものの、メインはむしろ「日常の何気ない風景が、紛れ込んだ怪異によって侵されていく」という時間差攻撃で。
今でもホラー映画には、こういう平静を装ったヤバヤバシーンを欲しがる人間なので、自分の好みの不変さを感じました。
また、「どこまでが夢で、どこまでが現実か分からない」展開も大好きなんですよ。
有名どころだと『不思議の国アリス』や『ドラえもん のび太と夢幻三剣士』とか。ちょっとマイナーどころだと、『ザ・セル』や『ミラーマスク』などなど。
三つ子の魂百までという
まあ、肝心のストーリーは全然覚えてなかったんですがね! HAHAHA!
正気と信じていたものが、少し目を離した隙に狂気へと裏返るような、なんとも人の悪いホラーであり、救いなんてあったもんじゃない凶悪バッドエンドでしたが。
最後に見せる、トレントの泣き笑いのような悲しげな表情には、一見の価値アリです。
あと、映画全体を流れる、ヤバさしかない絵力も!
ホブの町に行くまでの、暗闇に浮かび上がる自転車の気味悪さったらもう、最高です。