【作品情報】
原題:かもめ食堂 (フィンランド語タイトル:ruokala lokki)
製作:2006年/102分/日本・フィンランド
監督:荻上直子
出演:小林聡美/片桐はいり/もたいまさこ
ジャンル:ドラマ
(参考サイト:Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/)
【ざっくりあらすじ】
フィンランドでかもめ食堂を開業して、二ヶ月になるサチエ。
しかし謎の東洋人 (小柄で、パッと見子供のよう)が営む食堂ということで、地元のマダムからは遠巻きにされている。
そんな時、日本オタクのトンミ・ヒルトネン青年が来店。
彼から
「ガッチャマンの歌を教えてください」
と頼まれたサチエは、街の書店で偶然出会った日本人観光客のミドリに、歌詞を知らないかと話しかける。
これがきっかけで、サチエとミドリは意気投合。そのままミドリは、サチエの家の居候に。
特に目的もなくフィンランドを訪れていたミドリは、ついでにかもめ食堂も手伝うようになる。
かもめ食堂では、和食しか扱っていない。
「地元の人に、馴染みのあるメニューも作りましょうよ」
というミドリの提案で行った新メニュー開発から、フィンランド人の大好きなシナモンロールを作ることを思いついたサチエ。
シナモンロールの香りに誘われ、店を訪れるマダムたち。
この日を境に、徐々に食堂のお客が増えていく。
そんなある日、親の介護を終えて一人旅を楽しむマサコが、ふらりと店を訪れた。
トランジットの際に荷物を紛失されてしまったマサコは、荷物が見つかるのを待つ間、なんとなーくかもめ食堂を手伝うように。
夫に家出された地元のご婦人や、コーヒーを淹れるのが上手なおじさんとの交流もありつつ、女三人で営むかもめ食堂の日常は過ぎていく。
【登場人物】
サチエ:
おそらく知人も身内もいないであろう、異国の地フィンランドで、単身食堂の経営を始める豪傑。
おにぎりには、梅とおかかと鮭しか認めない、おにぎり原理主義。そんなおにぎりへのこだわりには、お父さんとの想い出が関係していたり。
合気道の達人らしく、店に不法侵入者が現れた時は「えいっ」と捻り倒した。
ミドリ:
どうやらムーミン好きらしい、少しがさつな片桐はいり。
はいりさん好きだわぁ。
彼女が「地元の具材も、おにぎりに入れましょうよ」と提案したことが、お店の繁盛につながっている。陰の功労者。
マサコ:
マリメッコで買ったワンピースが、まるでスズメの羽模様のようなオシャレ女性。
介護が上手だったり藁人形の経験があったり、ちょっと読めない人物。
彼女とキノコにまつわるエピソードは、何回観ても、よく分からない。
あと、食堂に初登場するシーンは、無表情過ぎて笑える。
トンミ・ヒルトネン:
ミドリさんがフルネームで呼ぶから、こっちもフルネームで呼びたくなっちゃう、日本好きの青年。
どうやらかもめ食堂のメンツ以外に、友達はいない様子。強く生きろ。
【感想など】
こちらの映画、観るのは通算三度目です。
一度目は、学生時代。
友達と集まって観て、
「まったりしてていいねぇ。オシャレだねぇ。憧れるねぇ」
などと、ほのぼのしたのを覚えています。
そして二度目は、新卒で超絶ブラック企業に就職して、しばらくのこと。
陰湿ないじめが横行する職場で、人生最大に病んでいた当時はこの作品を観て、
「ふざけんな。オシャレなのは認めるが、こんなのんびり生きていけるワケあるか」
と吐き気を催して、二度と観るまいと心に誓いました。
が、喉元過ぎれば熱さを忘れる性分なので、本日三度目の鑑賞をいたしました。
あの時感じた吐き気はなんだったんだろう、と再び気持ちはフラットに。
オシャレだけど気取らないフィンランドの片隅で、のんびり生きていくだけ――と言ったらそれまでの作品なのですが、観る時のメンタルでこんなにも印象が変わるなんて。
なんか貴重な経験だ。
でもこの映画、かもめ食堂と街の人々の交流を描いた、ヒューマンドラマかと言われると……そういうわけでもないんですよね。
ヒューマンドラマってもっと、良くも悪くも湿っぽい印象があるのですが、サチエさんがカラッとした人柄なので人間関係が超淡白。
そしてかもめ食堂に出没したマサコさんのシーンとか、マサコさんとキノコのシーンとか、フィンランド語が分からないのに現地民の愚痴を聞くマサコさんとか、ちょいちょいシュールでクスリとする。
これはだいたい、マサコさんのせいですね。
なので気負わず観られる。そして癒される。
しかし描かれているのは、「一ヶ月客足がなくても平然としていられる、仙人みたいな主人公の日常」という凡人を凌駕した世界なので、こちらにも精神的余裕がないとむかっ腹になる。
やっぱり不思議な、穏やかなのに劇薬のような作品です。
とりあえず「自分、病んでるかも」という時に観て、体調を客観視するのにちょうどいいかも。