『……さま……ねぇ……さ……』
『ねえさま……どこ?』
ゼドっちにこの兜に封印されたのはどのくらい前だったかな。
誰かに拾われたり、捨てられたりして、あちこちに行ったけど、ねえさまは見つからない。
ねえさまも同じようにゼドっちにされたのかな。
でもゼドっちのやつ、なんでこんなことをしたんだろう。
あの時のことを思い出すとムカつく。
もーっ。
ねえさまが大変だからって言ったからついていったのにさ。
それが罠だったなんて。
ゼドっちのやつー。
プンプン。
あれから、あちこち放浪して、今はどこかの倉庫の中にいるみたい。
自分では動けないし、まずは誰かに見つけてもらわないとね。
ねえさまが見つけてくれないかな。
しかし、いつもは静かだったこの場所もなんかそうぞうしい。
何が起こっているのかな。
「ドドドドドドドドド……」
けたたましい音が響き渡ってきた。
本当にうるさいったらうるさい。
「ボフっ……ガラガラガラガラ」
挙句の果てに建物が崩れ落ちる音がした。
この倉庫も大きく揺れていた。
「ゴン、カラカラ……」
マリーが封印されている兜が床に落ちた。
『痛っ……』
これまで何度も経験しているけど、落とされると何故か痛みが走る。
『何がいったい起きたんだ、もう』
暗闇の中だと何もわからない。
外で何かが起きているのだろうが、知ったことではない。
とにかくここから早く出たい。
物凄い轟音の後は、静けさに包まれていた。
不気味なほどに静かだ。
昨日までは、うるさくないにせよ、誰かが行き来する声や音が聞こえていたはずなのに。
『もしかして、誰もいなくなった?』
『マリーはここに取り残されちゃうの?」
長い間の封印されて、誰とも話が出来ないのはやっぱりつらい。
ねえさまが一番だけど、まずは誰かと喋りたい。
そんなことを考えていると、扉の開く音がして、光が差し込んできた。
そこに立っていたのは一人の男だった。
ブツブツいいながら、装備を一つ一つ丁寧に確認していっている。
耳を当てたり、手で軽く叩いたりしていた。
しばらくすると、マリーのところに来た。
聞こえないかもしれないけど、思いっきり声を出してみた。
『助けてー』
ビックリした様子の男はとっさに手を引いていた。
何かを感じた男は、再度マリーの兜に触ってきたので、ねえさまのことを確認しようと思った。
『……さま……ねぇ……さ……』
『ど……こ……いる……』
考え込んだ男は、大きな声で遠くにいる人影に声をかけていた。
「おーい、ゾルダ。
これを見てくれ」
今、この男は『ゾルダ』って言った?
もしかして、ねえさまなの?
「なんじゃ、今いいところじゃったのに」
不満げな顔した女の人が近くにきた。
あっ、あれは……
紛れもなくねえさまだ。
ねえさまが近くに寄って、マリーの兜に触れる。
『ねえさま、ねえさま、マリーよ』
思い切って声をかける。
「なんも聞こえんぞ」
ねえさまには聞こえないようだ。
せっかく会えたのに離れ離れになるのは嫌。
なんとか聞こえないか声を振り絞る。
『ねえさま、ねえさま、私よ私』
マリーの兜に触ってきた男が驚いた顔をする。
「なぁ、ゾルダ。
この兜、『ねえさま』とお前の事を言っているみたいだけど」
この男に伝わったようだ。
なんとかねえさまにわかってもらわないと。
ねえさまは男の話を聞いて、何かひらめいたようにパッと明るい笑顔になる。
「おぬし、さすがじゃ!
今回はおぬしの手柄じゃぞ。
ようやった!」
やった!
分かってもらえた。
「うむ、その喋り方からするとマリーじゃな。
お前の諦めない力がマリーを見つけることに繋がったのじゃぞ」
そういうところがおぬしのいいところじゃ」
ねえさま……
マリーの事覚えていてくれたのですね。
気持ちが込み上げてくる。
「おぬし、一度かぶってみたらどうじゃ。
ワシの時も剣を持つと出てこれたかのぅ。
マリアも出てこれるかもしれん」
ねえさまは男にマリーのことをかぶるように促す。
こんな男に被られるのは嫌だけど、ここから出れるなら……
ねえさまに会えるなら、構わないわ。
男が兜を装着すると、揺れ動く何かを感じた。
その感じたものに身をゆだねると……
なんと外に出ることが出来た。
「ねえさま!
マリーです。ご無沙汰です」
自分の姿にを一通り確認する。
封印される前の恰好のままだった。
黒を基調とした服に、レースやフリル、リボンがかわいく飾られている。
「おぉ、マリーか?
沙汰であったのぅ。
昔から変わらず、小さくて子供みたいでかわいいのぅ」
ねえさまにかわいいと言われてうれしい。
思わずねえさまに抱きつき、胸に頬をうずめる。
ねえさまは頭をなでなでしてくれた。
「ところでねえさま。
このマリーの兜をかぶっている男は誰ですの?」
人と思われる男の方とねえさまが一緒にいるのはなぜなのかわからなかったので聞いてみた。
「あやつはワシを助けてくれた勇者じゃ。
ワシもゼドに封印されてのぅ。
何故だかわからんが、あやつが近くにいると、剣から抜け出せるようになったのじゃ」
ねえさまはこれまでのいきさつをマリーに話してくれた。
「ねえさまを助けているのであれば仕方ないですね。
ねえさまの近くにいることを許可しましょう」
ねえさまに抱きついたまま、男の方に向かって言葉を投げかける。
「はいはい。
わかったわかった。
ありがとうございますー」
半ば呆れた顔で男はそう答えていた。
「私の名前はマリーですわ。
以後お見知りおきを」
男はなんか釈然としない顔をしていたみたいだけど、そんなことは気にしないわ。
だってねえさまに会えたのだもの。
「ホントにねえさまを助けてくれてありがとう。
マリーも助けてくれてありがとう。
でも勘違いしないでね。
助けてもらったお礼をいっただけだから」
そう伝えると、またねえさまと腕を組み、べったりとくっつきました。
これまでの空白を埋めるように。