フォルトナが先に行ってから、少しの時間が経った。
合流地点の隠し通路の入口前で、フォルトナの帰りを待った。
予定では人質が逃げてくるのを待って、フォルトナと合流。
それからそのまま敵のアジトへ乗り込み一網打尽にする。
そういう計画だった。
しかしなかなかフォルトナと人質が出てこない。
何かあったんだろうか。
少し心配になりながらも、今は待つしかなかった。
「おぬし、小娘の娘のことを心配しておるのか」
ゾルダが俺の顔色を見たのか、話しかけてきた。
「ちょっと遅いからな。
フォルトナの実力からすれば大丈夫だとは思うんだけど……
ちょっと抜けているところがあるし……
失敗していければいいけど……」
「そうじゃのぅ。
小娘の娘は調子乗りというかなんというか。
前も周りを見ずに突っ込んでいったからのぅ」
たしかに。
シルフィーネ村の北部の祠の時は大変だった。
後先考えず走り出してシエロに捕まっちゃったし……
「まぁ、あの時痛い目にあっているんだから。
今度は慎重にやっているだろう」
言葉とは裏腹に、手のひらには汗が滲んできた。
まぁ、心配は心配だしね。
でも、信じて待つしかない。
そんな会話をして待つも、一向にくる気配がない。
さすがにこの遅さは異常だ。
「なぁ、ゾルダ。
そろそろ本当にマズくないか」
「確かにのぅ。
何かあったとみてよさそうじゃな」
身支度をして、敵のアジトへ向かおうとしたところ……
隠し通路の奥から足音と息遣いが聞こえてきた。
「タッタッタッタッタッタッ……
ハァハァハァハァ……」
徐々に音が大きくなる。
こちらに向かってきている音だ。
不測の事態に備えて剣を身構える。
「ダンっ」
隠し通路の扉が開くと、そこには女性と子供の姿が現れた。
「ハァ、ハァ、ハァ……
あっ……あなたが……」
息を切らした女性がこちらに話しかけてきた。
「わ、わたしは……
リリアっ……とっ……申します。
このイハルを治める……デシエルト様の側近、エーデの妻です」
この人がエーデさんの妻か。
ということはフォルトナは人質の解放には成功したようだ。
「初めまして、俺はアグリと申します。
あなた方を救出に参ったものです」
その言葉を聞いてか、リリアさんはホッとした表情を浮かべた。
「ところでリリアさん。
あなたを逃がしてくれた人は一緒に来なかったのですか?」
「はい……
私たちをこの通路に案内した後……
通路の先に男と女がいるので助けを求めてくれと言い残して……
扉を閉められました」
あれ?
もともとは一緒についてくるはずじゃなかったっけ。
「では、まだ向こうに残っているってことですね」
「そうなるかと……」
「分かりました。
リリアさんはとにかく、街まで逃げてください。
私たちが止まっている宿屋があるので、そこへ隠れていてください」
「わっ、わかりました」
この砂漠は暑いが、魔物はここまでいなかった。
ここに残して待っていてもらうという手もあるが、ここも暑い。
それならば、急いで街まで帰ってもらった方が安全だろう。
他に頼れる人が居ればいいんだが、今はいない。
なんとか頑張って帰ってもらうほかないだろう。
とにかくフォルトナを助け出さないと。
「ゾルダ、行くぞ!」
「ようやく出番じゃのぅ。
待ちくたびれたぞ」
隠し通路の扉に手をかけ、進入しようとしたその時。
背後に人の気配を感じた。
「人質のことはお任せください」
突然男性の声が聞こえた。
「あなたはいったい……」
「アウラ様の命により参上仕りました。
フォルトナ様はクロウに捕まりました。
救出をお願いします」
しかしアウラさんの配下はどこでも出てくるな。
フォルトナのことが心配で、陰ながら監視しているのだろうか。
「分かりました。
あとはお願いします」
そう言い残すと、隠し通路に入っていった。
まずは敵のアジトへ向かってひた走る。
フォルトナが捕まり危ない状況だ。
一刻も早く助け出さないと。
「おぬし、何をそんなに急いでおるのじゃ。
慌てんでも、アジトにいる敵なぞ、ワシが逃がしはせぬぞ」
「まぁ、それはそうなんだけど……
でも捕まっていれば、殺されるかもしれないし……
とにかく早く行って助け出さないと」
「まったく……
世話をかけるのぅ。
小娘の娘は……」
「とにかくアジトへ急ごう」
一本道の隠し通路をひた走り……
ようやく隠し扉に辿りついた。
扉の向こう側からは野太い声が聞こえてくる。
「さてと、人質たちがいないようだが……
お前らは何をやっていたんだ!
揃いも揃って役立たずが!」
だいぶ荒げているようだ。
慎重に隠し扉を明けてみるが、すぐ近くではないようだ。
声がする方へ向かってみる。
「お前たち、覚悟できているんだろうな。
こいつを締め上げた後、きちんと罰は受けてもらうぞ」
「………………」
一瞬の沈黙の後に、野太い声が話を続けている。
「さぁ、お前がやったんだろう」
「……………………」
「まだ白を切るつもりか!」
「……っ…………く……」
声はこの部屋から聞こえるようだ。
「ゾルダ、ここみたいだ」
小さな声で話しかける。
「おぉ、そうか」
ゾルダがうなづいたと思ったら……
思いっきり扉を蹴り上げて壊してしまった。
「ちょっ、ゾルダ~」
当然みなさんこちらを注目しますわな……
「おい、ゾルダ!
何をしているんだっ。
もっと慎重に進めないと……」
「ちまちま進めるのは性に合わんのぅ。
正々堂々と正面突破あるのみじゃ。
ハッハッハッハッハッハッハッ」
強いのはわかるけど、なんでこう〇〇の一つ覚えのような行動なのか。
フォルトナに何かあったらどうするんだ。
「誰だ、貴様たちはー!」
野太い声がこだまする。
「ワシか?
ワシはゾルダじゃ!
おっ、小娘の娘、こっぴどくやられておるのぅ」
「来るのが遅いよー、ゾルダー、アグリー」
「わるいのぅ、あやつが慎重に慎重にというもんじゃから。
ここまでくれば、慎重も大胆もなかろう」
「おいおいオレ様のことは無視して話するな!」
野太い声の主がこちらに向かってくる。
「ん?
お前がクロウとかいう奴か?
相手をしてやるから、こっちへ来るのじゃ」
ゾルダはクロウを挑発して、こちらに気を向ける。
「なんだと貴様ー!」
クロウはフォルトナを放り投げ、ゾルダに向かっていった。