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第38話 人質の救出 その2 ~アグリサイド~

フォルトナが先に行ってから、少しの時間が経った。

合流地点の隠し通路の入口前で、フォルトナの帰りを待った。


予定では人質が逃げてくるのを待って、フォルトナと合流。

それからそのまま敵のアジトへ乗り込み一網打尽にする。

そういう計画だった。


しかしなかなかフォルトナと人質が出てこない。

何かあったんだろうか。

少し心配になりながらも、今は待つしかなかった。


「おぬし、小娘の娘のことを心配しておるのか」


ゾルダが俺の顔色を見たのか、話しかけてきた。


「ちょっと遅いからな。

 フォルトナの実力からすれば大丈夫だとは思うんだけど……

 ちょっと抜けているところがあるし……

 失敗していければいいけど……」


「そうじゃのぅ。

 小娘の娘は調子乗りというかなんというか。

 前も周りを見ずに突っ込んでいったからのぅ」


たしかに。

シルフィーネ村の北部の祠の時は大変だった。

後先考えず走り出してシエロに捕まっちゃったし……


「まぁ、あの時痛い目にあっているんだから。

 今度は慎重にやっているだろう」


言葉とは裏腹に、手のひらには汗が滲んできた。

まぁ、心配は心配だしね。

でも、信じて待つしかない。


そんな会話をして待つも、一向にくる気配がない。

さすがにこの遅さは異常だ。


「なぁ、ゾルダ。

 そろそろ本当にマズくないか」


「確かにのぅ。

 何かあったとみてよさそうじゃな」


身支度をして、敵のアジトへ向かおうとしたところ……

隠し通路の奥から足音と息遣いが聞こえてきた。


「タッタッタッタッタッタッ……

 ハァハァハァハァ……」


徐々に音が大きくなる。

こちらに向かってきている音だ。

不測の事態に備えて剣を身構える。


「ダンっ」


隠し通路の扉が開くと、そこには女性と子供の姿が現れた。


「ハァ、ハァ、ハァ……

 あっ……あなたが……」


息を切らした女性がこちらに話しかけてきた。


「わ、わたしは……

 リリアっ……とっ……申します。

 このイハルを治める……デシエルト様の側近、エーデの妻です」


この人がエーデさんの妻か。

ということはフォルトナは人質の解放には成功したようだ。


「初めまして、俺はアグリと申します。

 あなた方を救出に参ったものです」


その言葉を聞いてか、リリアさんはホッとした表情を浮かべた。


「ところでリリアさん。

 あなたを逃がしてくれた人は一緒に来なかったのですか?」


「はい……

 私たちをこの通路に案内した後……

 通路の先に男と女がいるので助けを求めてくれと言い残して……

 扉を閉められました」


あれ?

もともとは一緒についてくるはずじゃなかったっけ。


「では、まだ向こうに残っているってことですね」


「そうなるかと……」


「分かりました。

 リリアさんはとにかく、街まで逃げてください。

 私たちが止まっている宿屋があるので、そこへ隠れていてください」


「わっ、わかりました」


この砂漠は暑いが、魔物はここまでいなかった。

ここに残して待っていてもらうという手もあるが、ここも暑い。

それならば、急いで街まで帰ってもらった方が安全だろう。

他に頼れる人が居ればいいんだが、今はいない。

なんとか頑張って帰ってもらうほかないだろう。

とにかくフォルトナを助け出さないと。


「ゾルダ、行くぞ!」


「ようやく出番じゃのぅ。

 待ちくたびれたぞ」


隠し通路の扉に手をかけ、進入しようとしたその時。

背後に人の気配を感じた。


「人質のことはお任せください」


突然男性の声が聞こえた。


「あなたはいったい……」


「アウラ様の命により参上仕りました。

 フォルトナ様はクロウに捕まりました。

 救出をお願いします」


しかしアウラさんの配下はどこでも出てくるな。

フォルトナのことが心配で、陰ながら監視しているのだろうか。


「分かりました。

 あとはお願いします」


そう言い残すと、隠し通路に入っていった。


まずは敵のアジトへ向かってひた走る。

フォルトナが捕まり危ない状況だ。

一刻も早く助け出さないと。


「おぬし、何をそんなに急いでおるのじゃ。

 慌てんでも、アジトにいる敵なぞ、ワシが逃がしはせぬぞ」


「まぁ、それはそうなんだけど……

 でも捕まっていれば、殺されるかもしれないし……

 とにかく早く行って助け出さないと」


「まったく……

 世話をかけるのぅ。

 小娘の娘は……」


「とにかくアジトへ急ごう」


一本道の隠し通路をひた走り……

ようやく隠し扉に辿りついた。


扉の向こう側からは野太い声が聞こえてくる。


「さてと、人質たちがいないようだが……

 お前らは何をやっていたんだ!

 揃いも揃って役立たずが!」


だいぶ荒げているようだ。

慎重に隠し扉を明けてみるが、すぐ近くではないようだ。

声がする方へ向かってみる。


「お前たち、覚悟できているんだろうな。

 こいつを締め上げた後、きちんと罰は受けてもらうぞ」


「………………」


一瞬の沈黙の後に、野太い声が話を続けている。


「さぁ、お前がやったんだろう」


「……………………」


「まだ白を切るつもりか!」


「……っ…………く……」


声はこの部屋から聞こえるようだ。


「ゾルダ、ここみたいだ」


小さな声で話しかける。


「おぉ、そうか」


ゾルダがうなづいたと思ったら……

思いっきり扉を蹴り上げて壊してしまった。


「ちょっ、ゾルダ~」


当然みなさんこちらを注目しますわな……


「おい、ゾルダ!

 何をしているんだっ。

 もっと慎重に進めないと……」


「ちまちま進めるのは性に合わんのぅ。

 正々堂々と正面突破あるのみじゃ。

 ハッハッハッハッハッハッハッ」


強いのはわかるけど、なんでこう〇〇の一つ覚えのような行動なのか。

フォルトナに何かあったらどうするんだ。


「誰だ、貴様たちはー!」


野太い声がこだまする。


「ワシか?

 ワシはゾルダじゃ!

 おっ、小娘の娘、こっぴどくやられておるのぅ」


「来るのが遅いよー、ゾルダー、アグリー」


「わるいのぅ、あやつが慎重に慎重にというもんじゃから。

 ここまでくれば、慎重も大胆もなかろう」


「おいおいオレ様のことは無視して話するな!」


野太い声の主がこちらに向かってくる。


「ん?

 お前がクロウとかいう奴か?

 相手をしてやるから、こっちへ来るのじゃ」


ゾルダはクロウを挑発して、こちらに気を向ける。


「なんだと貴様ー!」


クロウはフォルトナを放り投げ、ゾルダに向かっていった。

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