シルフィーネ村を旅立ってからどのくらいたっただろう。
岩がゴツゴツと飛び出ていた北東部の丘を越えて……
永遠と砂の海が広がるところを何日も歩いた。
「まだ着かないのか~
ずっと同じような景色でさー
進んでいる気がしない」
「仕方ないじゃろ。
この砂漠は広大じゃ。
でも、あともうちょっとじゃ、頑張れ」
ゾルダは剣の中でのうのうとしている。
シルフィーネ村を旅立ってから、一度も出てきてない。
ずっと一人で歩いている。
汗もだらだら出るし、水を飲んでも飲んでも足りない。
なんとか水を確保しつつ進んでいるけど……
それでも足りない。
「あのさー、ゾルダ。
一歩も外に出てないのにさ。
何が『あともうちょっとじゃ」だ。
楽しすぎだろ」
「ワシは戦うときと飲むとき以外は出とうない。
こんな暑いのに外に出る意味はないのぅ」
ゾルダの言うこともわかる。
大いにわかるが……
「なんで俺だけがこんな目にあうんだ。
この暑さ、ゾルダも味わえよ」
「いやじゃ、いやじゃ。
おぬしだけで十分じゃ」
はーっ……
そりゃそうだ……
まぁ、気を取り直して進むしかないか。
ゾルダが出てこないまま、またしばらく歩くと、ようやくイハルの街が見えてきた。
砂漠の中のオアシスといった感じの街のようだ。
たしか、シルフィーネ村を出るときに、アウラさんが、
『イハルに入るには魔王軍を倒さないと入れないかもしれません。
魔王軍を倒して、イハルに入ったら、領主であるデシエルトを訪ねてくださいね。
国王から、勇者様が行くことは伝わっていますので~」
とか話していたな。
でも、イハルの街を見ても、魔王軍の欠片もない。
確かに外壁は崩れていたりはするけど……
「なぁ、ゾルダ。
なんかアウラさんの言っていた状況と違わないか」
「うむ。
そろそろ戦えるものと思っていたが……
静かじゃのぅ」
城壁の扉の中へ入り、街を見渡しても、特に大きな変わりはない。
人々も壊れた家や道路を忙しそうに修復している。
「いったん魔王軍は撤退したんだろうか」
「そうじゃのぅ……」
「まずは領主のデシエルトさんのところへ行くか」
街の中心にある立派な屋敷へと向かう。
至る所が破壊されていて、魔王軍の進軍の凄まじさがわかる。
「どれだけ強い魔物が来たんだろうな。
あちこちが壊れている」
「ワシから見たら取るに足らんものばかりじゃ」
「そりゃ、ゾルダから見ればね」
「本当にとるに足らんぞ。
この間戦った……ほら……なんじゃったけ……」
「シエロか?」
「そうそう、そのシエロとやらじゃ。
そいつに比べれば、格段に劣る奴らばかりじゃ」
「ゾルダはなんでわかるの?」
「まぁ、なんとなくじゃ。
魔力の残留具合から感じとれる範囲でな」
「そういうもんなんだ」
「ただ……数はそうとういた感じがするがのぅ。
なのに、今は魔王軍が居ないのじゃ。
なんか胡散臭いのぅ」
ゾルダは何かを感じているみたいだが……
当てになるのかなぁ。
しばらく歩くと領主の屋敷へと到着した。
ここは街に比べると奇麗なままだ。
入口には門番たちが立ちふさがっていた。
「あのー、こちらにデシエルトさんはいますか?
国王からお話が言っていると聞いていますが……」
門番たちはこそこそ耳打ちをすると、訝しげな顔をする。
「し……少々お待ちください」
1人が屋敷の中へ入っていく。
しばらくすると、一人の男が出てきた。
きちんとした身なりで、執事の様な恰好をしている。
「自分はエーデと申します。
デシエルト様に何か御用でしょうか」
「あっ、はい。
国王の指令でこの街に来ました。
ここに着いたらデシエルトさんを訪ねるようにと言われています」
エーデは苦虫を噛み潰したような顔をする。
「デシエルト様は今は誰ともお会いできません。
魔王軍の強襲を退けた後、深手をおっており、療養をしているところです。
何人たりとも近づけることは出来ません。
お引き取りください」
あれ?
国王からの話が届いていないのかな。
「あの、国王からの……」
「国王からだろうが誰だろうがです。
とにかくお引き取りください。
お前らも、近づけるなと言っただろう」
門番たちもエーデに言われて、俺を追い返そうとする。
「少しだけでも……」
門番と押し合いを続けるが、押し切られてしまった。
アウラさんから聞いた話となんかちょっと違う。
伝令が届くより早くついてしまったのだろうか。
「ゾルダ……どう思う?」
「ん?
どうも何も……
会えんのならしかたないじゃろ。
ただ……」
「ただ……なに?」
「魔力は感知した。
何かあるのは間違いないじゃろ」
そうか。
エーデは何かを隠しているのか。
だから近づけたくないんだ。
「となると、魔王軍が何か絡んでいるのかな」
「そう見た方がよさそうじゃな」
「であれば、まずはそこを探らないといけないかな」
「そうなんじゃが……
ワシは疲れたので、早く酒が飲みたいぞ。
せっかく街に着いたんじゃ。
酒じゃ酒」
あのさ、ゾルダ……
久々の街で浮かれているな。
「ゾルダ、お前さー
剣から一歩も出てないじゃん。
それで何で疲れるんだ?」
「それはじゃのぅ……
あの……
そう……魔力感知し過ぎて疲れたのじゃ」
あっ、そう。
わかったわかった。
「了解。
疲れたのであれば、一休みしながら、次どうするか考えよう」
「さすがおぬし。
分かっておるのぅ。
酒場に行って酒じゃー」
剣から出たゾルダは街に一目散に走っていった。
嬉しいのは分かるが……
アウラさんの話は違うし、ゾルダが感知した魔力の件もある。
何かが起こり始めているのかもしれない。
明日以降に街を歩いてみて情報収集してみるか。