勇者様は北の洞窟へ向かわれていますが、無事着いたでしょうかね……
山のヌシもいると噂の山の中ですが、そう滅多には出てこないはずです。
もし仮に出てきたとしても勇者様ならすぐに撃退されるでしょう。
うふふふふふ……
って、また勇者様のことを考えてしまいました。
こちらはこちらで勇者様が取り戻していただいた祠を直さないといけません。
「カルム、カルムはいますか?」
「はっ、なんでしょうか、アウラ様」
「あなたのお友達にお手伝いをお願いしたいの。
北西部の森と北東部の丘の修復とこの風の水晶の設置をお願いしてくださいますか?」
「はっ、承知しました」
「あと、それが終わったら私と一緒に南の森の祠の修復を手伝ってくださいね」
「はっ。
しばしお待ちを」
カルムは私の前からさっと姿を消していきました。
まぁ、カルムのお友達もしっかりとした人ばかりなので、仕事も早いでしょう。
私は南の森へ行く準備でもしましょう。
どのくらい修理しないといけないのかはわかりませんが……
まぁ、森ですし資材は現地で調達すればいいでしょう。
風の水晶は忘れずに持っていかないとですね~。
「アウラ様、ただいま戻りました。
わが友に連絡し、手配を完了しております」
あら、さすがに早いわね。
早速戻ってきましたね。
「ありがとう、カルム。
それでは私たちも向かいましょうか」
「はっ」
出かける準備が完了した私たちは南の森へ向かいました。
勇者様がウォーウルフキングを倒していただいたおかげで、魔物もあまり居ませんね~。
「そういえば、カルム。
こうやって村の外へ出るのは久しぶりですね」
森の空気を吸いながら祠の場所を目指しながら、カルムに話しかけます。
「はっ。
アウラ様が村の長になられてからは、あまり出て行かれていないかと」
カルムは相変わらず几帳面というか真面目というか……
「そうね。
長の仕事はそれなりに大変でしたからね。
以前のように自由にはいきませんね」
長に就任してからは、村の内政にかかりっきりでした。
「カルムたちと一緒に冒険に出ていたことろが懐かしいわ。
それと……
誰もいないところでは、前と同じように話していただけませんか」
ふと昔のことを思い出し、カルムに無茶ぶりをしてみました。
「しかし……
今は長ですから、そうやすやすと……」
やはりカルムは真面目ですので、そういう答えになりますよね。
「いいんですよ。
少しでも昔を懐かしみたいんですよ」
あの頃のように自由にいろいろなところにいけるといいのだけどね。
たまの外出ですし、少しはそういう気分に浸りたいんです。
すると私が少しさみしそうな顔をしていたのを気にしたようです。
「承知しました。
それでは……
ア……アウラ、先を急ごう」
そうそう、その感じ。
懐かしいですわね。
「村に帰るまではそれでお願いね、カルム」
「承知……じゃない、わかった」
「それでは祠へ向かいましょう」
祠へ向かう途中には、まだウォーウルフの残党がいました。
数はそれほど多くないですが、油断は出来ません。
ほら、出てきましたわ。
「ウインドカッター」
魔法でウォーウルフの足止めして、這いつくばらせます。
「カルム、お願い」
「了解。
はぁーっ」
カルムは短剣でとどめを刺します。
「この感じ、懐かしいわね、本当に」
「そうで……そうだな、アウラ」
よく魔物をこうやって退治したものでした。
昔はこれでも名の知れた冒険者でしたからね。
これぐらいの魔物であれば、二人で倒していけますね。
しばらくウォーウルフの残党と戦いながら祠に向かいました。
懐かしさもあってか、魔物との戦いが楽しくて仕方ないですね。
たまにはこうやって暴れてみるのもいいですね。
「アウラさ……アウラ、なんだか楽しそうだな」
「ええ、なんだか凄く楽しくなってきましたわ。
長の仕事を投げ出して、またこうやって冒険してみたわ、勇者様と」
自然と笑みがこぼれます。
本当はフォルトナをいかせるんじゃなくて、私が行きたかったわ。
その方がもっと楽しかったかもしれないですし。
「さすがに長を辞めるのはどうかと……」
「それは冗談よ。
さすがに村の事を捨ててまでとは思いませんよ」
「でも、アウラは昔から変わらないな。
戦いの最中、ずっとニコニコ笑っていた。
真の戦闘狂なのかもと思ってみたいよ」
昔も笑っていたのなら、こんなに楽しい気持ちだったのかもしれないですね。
でも人の事を戦闘狂って言うなんて……
「あら、ひどいわ。
仲間との共同作業が楽しいのであって、戦闘が楽しい訳ではないですよ」
無二の仲間たちとのかけがえのない旅。
それが楽しかったんですよ。
若いっていいなと……
そんな話をしながら、道中を進んでいきました。
しばらくすると、祠が見えてきました。
「まぁ、結構ひどい状況ですね」
祠の形は残されているものの、あちこちが壊されています。
この一帯はウォーウルフがいたとのことだ
「カルム、修理をお願いできる?」
「わかったよ、アウラ」
昔からカルムは手先も器用だったし、不得手なことはあまりなかったわ。
森で野宿するときもさっと屋根付きの寝床を作ってくれたし。
これぐらいの祠の修理なら、早々と終わるでしょうね。
ホントにこの森は居心地がいいわ〜。
樹々の匂い
木洩れ日の光
穏やかな風
このままずっと感じていたいわ~。
「アウラ様、祠の修理が終わりました」
「さすが、カルムね。
仕事が早いわ、ありがとう。
でも、『アウラ様』になっているわよ」
「申し訳ございません」
いろいろと立場を分かって行動してくれるのはカルムのいいところだけど……
一緒に冒険した仲なんだしねぇ。
誰もいないところでは昔と同じようにしてくれてもいいのに。
「じゃ、風の水晶を祭壇においてっと……
これでここは完成っ。
カルムのお友達にお願いしたところは連絡が入っている?」
「はっ、さきほど伝達の者がまいり、修復と設置が完了したとのこと」
「さすがあなたのお友達も仕事が早いわね。
あとはこれで北の洞窟の勇者様だけね」
勇者様のことだから心配はしてないけど……
フォルトナの方が心配だわ……
勇者様の足手まといになってなければいいんだけど……
「じゃあ、カルム。
戻りましょうか」
「はっ」
しばらくぶりの外出だったので、まだまだ楽しんでいたいのだけど……
村の事もあるし、そろそろ帰らないとね。
またいつかこうやって冒険してみたいわ。
今度は勇者様とご一緒にね。