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第14話 風の水晶と祠と結界 ~アウラサイド~

勇者様は今頃は北西部を探索していらっしゃるでしょうか。

もう魔物の殲滅は終わっていたりして。

ウォーウルフキングの討伐もさっと終わらせていますからね。

きっとあっという間に終わって帰ってこられるのでしょう。

楽しみだわ〜。


シルフィーネ村の民からのお願いや依頼ごとを確認しつつ、勇者様のことを思い出す。

何故か彼の事ばかり考えてしまいます。

もう少し仕事に集中しないと。


昼過ぎからはなんでしたっけ……

そうそう、集会所の床が抜け落ちそうなのを見に来てほしいと頼まれていたわ。

確認をしてさっさと修理をお願いしましょう。


まずはこの書類の山をなんとかしないと。

集中してさささっさーとこなしていきます。

私にかかればこれぐらいすぐに終わります。

ただ何故か山にならないとやる気がでないのよね。

だから周りからはあのことはどうなった、これはどうなったといろいろと言われてしまいます。


……

…………

……………………

…………

……


さてと、書類も片付いたことですし、集会所に行きましょうかね。

村の中心部を歩いていると、市場の人たちが声をかけてくれます。


「長、いい肉が手に入ったから持っていきな」


お肉屋さんのブルーノさんが威勢のいい声で話しかけてきます。


「ありがとうございます」


ブルーノさんのところのお肉はおいしいので助かるわ。


「アウラさん、うちの子見かけませんでしたか?

 遊びに行ったきり帰ってこなくて……」


今度はオレリーさんが、息子さんを探しているようです。


「えーっと、たしか……

 イリアスくん……でしたっけ?」


「ちがうよ。

 イリアスは、向かいのモスカんちの子だよ。

 うちの子は、プラールだよ」


あら、間違えて名前を憶えていましたね。


「あー……そうでしたねー。

 プラールくんなら、そこの広場で見かけたかなー」


元気よく広場で遊んでいたのを通りがけに見たことを伝えます。


「アウラさん、ありがとう。

 あいつ、何を遊んでいるんだ」


村の人たちはいろいろと話しかけてくれるので嬉しいですねー。

たまにいろいろと忘れたり、ドジしたりしていますが、暖かく見守ってくれます。


村の人たちといろいろと話しながら、集会所に到着しました。

さて、集会所の床はどうなっているのでしょうねー。


「長、わざわざ来ていただいて申し訳ございません」


集会所を管理しているコンラッドさんが、困った様子で話しかけてきます。


「いえいえー。

 それが仕事ですから」


集会所の中に案内されると、だいぶ傷んで今にも穴が開きそうな場所がありました。


「ここなのですが、こんな感じでだいぶ腐ってきているようです。

 なんとかなりませんかね」


改めて確認してもよく今で何もなかったなーと思う床です。


「確かに、これは酷い傷みですねー。

 みなさんが落ちないうちに、修理をお願いしてくださいねー」


これは問題なのでコンラッドさんに修理の指示を出します。


「わかりやした」


さて、これで確認も終わったし、家へ戻ろうかしら。

帰りも村の人たちといろいろと話をしながら、帰りました。

ここでの話も長にとっては大事な仕事ですからねー。


家へ着くと、玄関には勇者様御一行がいらっしゃるではないですか!

私としたことが……

勇者様を待たせてしまいました。


「勇者様、大変お待たせして申し訳ございません。

 だいぶ待たれましたか?」


慌てて近寄っていきます。


「アウラさん、そんなに待っていないですよ。

 ついさっき来たばかりです」


よかった。

それほど待たされていないようでした。


「うそをつくな、おぬし。

 それなりに待っていただろう」


横にいるおつきの女性が勇者様に勢いよくお話されています。


「しぃーっ。

 そういうのは言わないの」


どうやらだいぶお待たせしてしまったようです。


「本当にお待たせしてしまったようで。

 まずは中に入っていただければ」


恐縮しながら、家の中へ案内をしました。


「いえいえ。

 お気になさらずに」


寛容なお方で良かった。

ひとまず応接間にお通しして、紅茶をお出ししました。

勇者様が人のみしたところで、来訪の理由を聞きました。


「ところで、急にお訪ねになったということは何かありましたでしょうか?」


何か問題でも起きたのではないかと思い心配して尋ねます。


「北西部の探索に向かい、調査と魔物退治をしてきたので、そのご報告と思って」


勇者様はいきなり魔物を退治したとの話をします。


「えっ!

 もう終わられたんですか」


こんなに早く終わってしまうなんて、さすが勇者様です。


「終わったというかなんというか……

 まずは魔物の方です」


おつきの女性が大きなフクロウの亡骸を出してきました。


「こいつじゃ。

 あそこら辺りをうろついていたのは」


毎回ビックリします。

この女性は、よく平気でこういったものを持ってこられますねー。

顔をそむけながら、勇者様に話を聞きます。


「こっ……これは、なんの魔物でしょうか……」


私もあまり見たことがないような魔物です。


「アウルベアと言うらしいです。

 グリズリーとアウルベアが北西部辺りにいっぱいいました。

 親玉はアウルベアでしたので、こいつを倒したことで、グリズリーは少なくなったかと」


勇者様の話に、おつきの女性が割って入ります。


「倒したのはワシじゃ……じゃなかった。

 ワシとこいつで倒したんじゃ」


このおつきの方も強いのでしょうか……


「あっ……ありがとう……ございます。

 これで北西部も安全になりましたね」


危険な魔物が減ったようで安心します。


「そうだといいのですが……」


勇者様は何か言い淀んでいます。

何があったのでしょうか……


「そうだといいということは……

 他に何かありましたか?」


「はい。

 知っていたら教えてほしいのですが……

 大きな木があったと思いますが、その中に社がありました」


大きな木?

社……?


「……はい」


思い出そうと考えながら、気のない返事をしてしまいました。


「その社の中に台座がありました。

 形跡を見ると、その上に置かれていたのかなと思いました。

 社の存在とか台座の上に何か置かれていたかとか何か思い当たることは無いですか?」


なかなか思い出せないですねー。


「…………うーん……」


何かあったような無いような……

なんでしたっけ……


「えーっと……

 うーんと……」


あともう少しで出てきそうです。


「なんでも構わないので何か思い出すことはないでしょうか?」


…………

……………………


「あっーーーーーー」


思わず大きい声を出してしまいました。

勇者様とおつきの女性がビックリした顔でこちらを見てきます。

私としたことが……

すっかり忘れていたことがありました。


「思い出しました。

 このシルフィーネ村を守るための社になります。

 そんなに強いものではないのですが、複数の社を使って結界をはっていました。

 ……と先代の長が言っていたかと思います」


そうでした、そうでした。

この村を魔物から守るものでした。


「結界?」


勇者様が聞き返します。


「はい。

 勇者様が通ってこられた森にも確か1つあったかと思います。

 複数の社に風の水晶を置き、弱い魔物は近づけないようにしていました」


どういう結界だったかの説明を勇者様にしました。


「そういうことなのですね。

 ということは、私が見た社にも風の水晶が置かれていたと」


勇者様は納得されたご様子で話を聞いていただけました。


「そうなるかと思います。

 私も聞いただけなので、しっかりと確認したことはないです」


確かシルフ族に伝わる結界魔法を風の水晶と連携して作った簡易な結界だったはず。

その風の水晶が無くなっているということは……


「それで魔物が大量に発生してきたということですね。

 今の状況になった理由がわかりました」


だから魔物が多く出てきていたのですね。


「アウラさん、何故そのことを最初に話してくれなかったのですか?」


勇者様は困ったような顔で、私に問いただしてきました。


「いやー……

 そのー……

 ………………

 単純にですね……

 忘れていました」


本当に恥ずかしいです……


「大事なことを忘れていてごめんなさい」


恥ずかしさのあまり顔が赤くなって、火照った感じがします。


「気にせずに。

 うっかり忘れてしまうことは誰でもあると思うので。

 それで、ただ誰かがその風の水晶を持ち去ったということでしょうか」


勇者様は本当に寛大なお方です。

私の大きなミスにも何も言わずに許してくれて。

そう思っていると、おつきの女性が、


「そんなのは魔王の手の者に決まっておろう」


と話に割り込んできます。


「それはそうかもしれないけどさ……

 アウラさん、他にも同じような場所はあるのでしょうか?」


他ですか……

確か先代から教えていただいていますね。


「そうですね。

 風の水晶が置かれている祠は全部で4箇所だったかと思います。

 その4箇所に風の水晶を置けばもとに戻るはずです」


そうそう思い出してきました。

4つの社で結界を貼っているからと話していました。


「その4箇所の位置は?」


勇者様が具体的な位置を確認してきました。


「えっと、確か、南の森、北西部の大きな木、北東部の丘、北部の洞窟だったと思います」


そう答えると、勇者様は


「北部の洞窟は確か魔物が湧き出るところですか?」


と再度私に聞き返してきます。


「はい、その洞窟です」


あの洞窟にも社がありましたねー。


「わかりました。

 まず、北東部の丘と北部の洞窟は私たちがなんとかします」


勇者様はなんて勇敢なお方なのでしょう。

なんとかしていただけるとのことです。

しかし、おつきの女性は不機嫌な感じになってまた話に割って入ります。


「私『たち』じゃなくて、おぬしだけじゃろ。

 ワシは面倒じゃ」


この人は面倒なことはやりたがらないのかしら。

勇者様の言うことをお聞きにならないのは、何故なのでしょうね。

ただ勇者様は構わず話を続けてくださいました。


「その間に南の森の祠の確認をお願いします。

 あと風の水晶があれば準備いただけると助かります」


これは風の水晶の準備が必要そうですね……

えっと確か結界魔法は……


「……わかりました……。

 魔物の方はお願いします。

 南の祠の確認と風の水晶は私がなんとかします」


なんとかするとは言ったものの……

風の水晶はどうするんでしたっけ……


「ありがとうございます。

 よろしくお願いします」


勇者様は元気よくお礼を言ってくださいました。


たぶんどこかに魔法書があったはずですねー。

勇者様に頼られた以上、なんとかしないとですねー。


話が終わると勇者様は北東部へ行くための準備で宿に帰られました。

勇者様の喜んでくださるところがまた見たい。

なんとかして風の水晶を作らないといけないですねー。


南の森の祠の場所も見つけないと行けないし。

明日もいろいろとやることがありますねー。

勇者様も頑張ってくださっているので、私もなんとか頑張らないといけませんねー。

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