北西部周辺に出立する前に、村の長であるアウラさんのところへ行った。
「これから北西部周辺の魔物の殲滅と調査をしてこようと思います」
元気よくアウラさんに挨拶も兼ねて伝える。
「早速ありがとうございます」
アウラさんも深々とお辞儀をして、俺に感謝の言葉を言ってくれた。
「俺もまだまだ強くならないといけないので、時間をいただくことになるとは思います。
ただ、必ず正体を突き止めて、村を平和にしていきます」
まだ俺自身の力に自信があるわけではない。
でもゾルダと一緒ならなんとかなるかもしれない。
「期待しています。
私に力がなれることがあれば、いつでもおっしゃってください」
アウラさんからそう期待されるとついつい強気になってしまう。
でも俺の力だけではどうにもならないこともあるかもしれない。
ゾルダの力でもだ。
まぁ、ゾルダは戦闘では負けないと思うけど、力だけでなんとかならないこともありそうだ。
「その時はお力を借りると思います。
では行ってきます」
アウラさんとの話が終わると、北西部に向けて歩き出した。
「おぬし、用は済んだか。
さて、どんな強い魔物がいるのか楽しみだのぅ」
ゾルダは戦いが出来そうなこともあって、上機嫌だ。
機嫌がいいうちに、少しでも力を借りて魔物の殲滅をしていかないといけない。
「さぁ、どんな魔物がいるか、様子を見ながら進んでいこう」
北西部の森に入り、しばらく進んでいく。
俺ではなかなか魔物の気配は察知できないので、ゾルダに確認をする。
「ゾルダ、周りに魔物はいるか?」
「…………」
あれ?
ゾルダから反応がない。
「おい、ゾルダ」
「……………………」
返事がない。
寝ているのか。
ゾルダの援護がないなら慎重に進まないと……
恐る恐る歩を進める。
周りを警戒しながら。
さすがにちょっとビビり過ぎかも。
でもこの間のウォーウルフキングみたいなのが突然出てこられてもな。
拓けた道ではあるが周りの様子を伺いながら進めていく。
すると大きな木がたたずむ場所へと出た。
「ずいぶんと大きな木だな。
なんの木だろう」
上を見上げてみる。
ガサガサ――――
ガサガサガサ――――
大きな木の枝が揺れる。
「グォーーーー」
1頭の熊が落ちてきた。
落ちてきたのではない、降りてきたのだ。
「うぁっ。なんだ、この熊は」
慌てて剣を構える。
大きさとしては2mぐらいか。
俺をはるかに上回る大きさだ。
「ガーー」
鋭い爪を振りかざして襲い掛かってきた。
剣で受け止めたが、力で吹っ飛ばされる。
「ぐっ……、なんて力だ……」
接近戦では厳しいかもしれない。
えっと、確かレベルがあがって魔法をいくつか覚えていたような。
使ってみるか。
「フレイム」
手を熊の方に向けて唱える。
炎の玉が手から飛び出し、熊にあたる。
「グォ……」
少しは効いたかな。
続けて打ってみるか。
「フレイム、フレイム、フレイム」
続けざまに炎の玉が熊に向かっていく。
そして炎に包まれる。
が……それも長くは続かなかった。
「グォーーーー」
熊が咆哮すると、炎が消えてしまった。
ホントに少しだけしか効かなかったみたいだ。
そのままこちらに熊が突進をしてくる。
盾を構えて受け堪えようするが、軽く俺を吹き飛ばす。
「うぁぁぁーーーー」
大きな木に背中を打ち付ける。
その振動からか、ゾルダが目を覚ましたようだ。
「おぬし、何をやっておるのじゃ」
「何をやっているって……、見りゃわかるだろう!
この熊と戦っているんだよ」
ゾルダはここまでずっと寝ていたのか。
本当に呑気だな。
「何、戦い?
で、相手はどこにいるのじゃ」
剣の中で興奮して辺りを見回すようなしぐさしていそうだ。
「そこだよ」
剣を熊の方に向ける。
「なんだ……
グリズリー1匹だけかのぅ」
ゾルダは落胆したような声を出す。
「なんだ……って結構なパワーだぞ。
しかしあの熊、グリズリーって言うんだな」
ゾルダははーっとため息をつき、落ち着いた声を頭に響かせる。
「この間戦ったウォーウルフより、ちょこっと上じゃな。
でもパワーはかなり上じゃからのぅ。
正面からは避けた方がいいぞ」
俺に対してアドバイスを送る。
「さっきから正面で受けっぱなし。
どうすればいい?
力は貸してくれないのか?」
俺の今の力では難しいように感じた。
打開策が見えない俺はゾルダへ頼んでみた。
「いいや、まだワシの出番じゃないのぅ・
だから、いろいろ考えて戦え」
興味を失ったのか、どうでもいいような声で俺に言ってきた。
本当に簡単に言うなぁ。
「ならもう少しアドバイスぐらいはしてくれてもいいんじゃないか」
直接力を貸してくれないのなら、知恵だけでもいい。
そう思った俺はアドバイスを求めた。
「そうじゃのぅ。
まずはすばしっこく動き回りながら、魔法で攻撃してみたらどうじゃ。
隙が出来たところで、剣に相手が弱い属性を付与して切り込む」
ゾルダは具体的に俺に指示をする。
「弱い属性を付与してって……」
一瞬、なんのことだろうと思った。
「おぬし、この間覚えたはずじゃぞ。
たしか……アトリビュート(付与)だったかのぅ」
ゾルダからの言葉をヒントに思い出す。
「あっ、確かに一覧にあったような」
さらにゾルダがヒントを続ける。
「そして、グリズリーの弱点は雷じゃ」
全てを理解した俺は
「了解」
とつげ、戦闘態勢に入った。
そして俺はグリズリーから間合いをとって、弱点の魔法を繰り出す。
「サンダー」
グリズリーが怯む。
これは効きそうだ。
「サンダー」
魔法を打ち込みながら間合いを詰めていく。
グリズリーは防戦一方になっている。
ここまで詰めれば、剣でいけるか。
「アトリビュート、サンダー」
剣が雷をまとう。
「はぁっっっっ」
一気に間合いを詰めて斬り込んだ。
「グォー……」
魔法の攻撃も効いていたのか、最後の一撃で倒すことが出来た。
「はぁ、はぁ、はぁ」
動き回ったこともあり、息が切れる。
「ほれ、やれば出来るじゃろ。
おぬしは圧倒的に実戦が足りておらんからのぅ」
ゾルダが上から目線で言い放つ。
「いや……
ゾルダが寝てなければ……」
本心がポロっと出てしまった。
「はぁっ?
ワシが寝ておったじゃと。
寝てなぞおらぬ」
半分切れかけたゾルダの声が頭の中でこだまする。
「いくら声かけても、返事がなかったんだけど」
それでも反応がなかったと食い下がった。
「……
決して寝てはおらぬぞ……」
思い当たる節があったのか、ちょっとばつが悪そうに答える。
「はいはい」
適当にあしらうように俺が答えると、
「このあたりはグリズリーが徘徊しておるようじゃな。
周りにもまだまだおりそうじゃな」
話の話題を変えてきた。
あっ、ゾルダのやつ、話をそらしたな。
「とりあえず戦い方はなんとかわかった。
この辺りのグリズリーを殲滅しよう」
森の平和を守らないといけないのもあるので、グリズリー討伐を続けるようとした。
「おぬし、調子に乗るなよ。
グリズリーにも親玉はおるからな」
ゾルダからの忠告である。
「わかった、わかった。
ただ、一気に来られても困るし、まずは一匹ずつかな」
それから、ゾルダが周辺の魔物の様子を伺ってくれるようになった。
グリズリーはあまり群れでいることはないようで、一匹ずつのところを狙って仕留めていった。
十数匹は倒しただろうか。
最初に比べるとだいぶ楽に勝てるようになってきた。
「これなら、2、3匹来ても大丈夫だろう」
グリズリーを倒した後、ドヤァとしてみた。
「それが調子に乗っておるっていうんじゃ」
ゾルダが釘をさしてきた。
強くなった実感もあるのに。
「そうかなぁ
この戦闘の間にもレベルはあがったようだし、力はつけてきてるはずだけど」
俺は手応えを感じていた。
決して調子に乗っているわけじゃなく。
「それはそうなのじゃが……
だが、今度のヤツはそうもいかんと思うぞ」
ゾルダが何かを感じ取ったらしい。
「何かいるのか」
周りを見渡す俺。
「そうじゃのぅ……
強い気配があちらからする。
たぶん、親玉じゃろう」
ゾルダが薄暗い森の奥地を指さす。
そちらの方へ向かってみる。
木の陰から除くと、そこには大きな熊らしき魔物がいた。
「ほぅ、あれは……
魔獣アウルベアだのぅ」
なんか初めて聞く名前だ。
「アウルベア?」
ゾルダに聞き返してみる。
「頭がフクロウ、体が熊の魔獣じゃ。
ちと厄介じゃのう」
ちょっとだけゾルダは困った顔をしていた。
「厄介?
今までの魔物と違うのか?」
何がそんなに問題があるのか。
俺にはさっぱりわからなかった。
「ちょっとばかり知能もあるから、いろいろ考えおる。
まぁ、ワシが出れば造作もないことじゃがのぅ。
さてと……、今まで休ませてもらったし、ここはワシの出番かのぅ」
ゾルダはそう言うと姿を現わし、にやりとしながらつぶやいた。
「さて、体を動かすかのぅ」