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第10話 勇者様が来られた ~アウラサイド~

昨日は勇者様が来られてバタバタだったわ〜。

国王様から勇者様の召喚に成功したことは聞いていたけど。

こんなに早く来ていただけるとは思っていなかったわ。


たしかあの時は……


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「おい、お前たち。

 急に魔物がいなくなった原因はつかめたのか」


武装した中年の兵士、デシールが、若い兵士に対して声を荒げています。

あらあら、そんな言い方しなくても……


「申し訳ございません。

 まだつかめておりません」


若い兵士は直立不動でそう報告しています。

やだわ……

どうなったか原因を早くつかんでほしいわ。


「さっさと探ってこい。

 それでも、この村の強者たちか」


さらに声を荒げるデシール。


「デシール、そこまで言わなくてもいいですよ。

 もう少し優しくしましょうね」


私はデシールに向かい、そう窘めました。

デシールは頭を掻き、苦笑いをしながら、私に対してぺこぺこと頭を下げます。


若い兵士は、敬礼をしながら


「承知

 さらに手分けをして探ってまいります」


と私とデシールに話すと、足早に森に戻っていきます。


数日前に南の森の様子が変わってきたようでした。

先日までの異様な雰囲気がなくなっていました。


シルフ族の私は風の使い手でもあります。

森を流れる風から、なんとなく様子がわかります。

明らかに風の様子が変わっていたのです。


そのこともあり、村の精鋭たちを集めて、南の森の様子を伺わせに向かわせました。

その者たちからの報告もありましたが…


うろついていたウォーウルフも姿は見あたらない。

徘徊していたウォーウルフキングの姿も数日前から見ていない。


そういう報告があがってきました。

ただ原因はつかめなかていませんでした。

私はこの森の通行を許可していいものかを考えていました。


「原因がわからない以上は、いつ危険になるかわからないしねぇ。

 いなくなった原因さえつかめれば……」


そんな時でしたね。


「コンコン」


扉をノックする音が聞こえます。


「アウレストリア王国の国王からの指令で来たアグリというものです」


扉の向こうから男の人の声が聞こえてきます。


んーっ……国王の指令……?

もしかして……

もしかしてもしかして……

あ……あの……勇者様!?


森でのことがわからず難しい顔をしていた私の顔が、いっきに綻びます。

噂に聞いた勇者様が来てくれたわ。

どんな方なのでしょうか……

心を弾ませ、ウキウキしながら、入口へ向かいます。


いや、すこし落ち着いて。

このまま満面の笑顔で出ていったら、村の長としての威厳がなくなりますね。

ドアを開ける前には落ち着かないと……


気持ちを押さえつつドアを開けました。

そこには畏まった青年と不敵な笑みを浮かべる女性が立っておりました。


「お待ちしておりました。

 国王様からは勇者様が来られるとの連絡をいただいています。

 私がこのシルフィーネ村の長、アウラと申します」


どうです?

みましたか?

この完璧な村の長としての振る舞いを。


しかし、勇者様を初めて見ましたが、なんか神々しく感じるわ。

その横にいる女性はおつきのものでしょうか……。

それにしては、何か高圧的に感じますね……


ひとまず応接に通して話を聞くことにしました。


「改めまして。

 私がこの村の長を勤めているアウラと申します。

 この度は遠路はるばるシルフィーネ村に立ち寄っていただきありがとうございます」


そう挨拶をすると、勇者様はが申し訳なさそうに答えます。


「いえ、こちらも国王からの指令で仕方なく……

 じゃなくて、指令がありきました」


勇者様は何かもの珍しそうに私の方を見ているわ。

そして意を決したように私に質問をしてきました。


「えっと、失礼でを言うようで申し訳ないですが……

 その姿は人とは違うように見えるのですが……」


私の姿が気になっていたのですね。


「私はシルフ族です。

 いわゆる、風の妖精ということです。

 このシルフィーネ村ももともとはシルフ族の村でした。

 今は人とは友好的な立場をとっております。

 私が長となった100年ほど前から、村にも人々が増えてきて、今の村の形になっています」


100年前という言葉に、驚いた様子の勇者様。


「女性にお年を聞くのは失礼かと思いますが……

 アウラさんは、今、おいくつなのでしょうか」


失礼といいつつ、ハッキリ聞くのですね。勇者様は。


「私は今年で132になります。

 シルフ族は人と比べますと、比較的寿命は長いですので、まだまだ若い方ですよ」


私の年齢にビックリした様子の勇者様。


「ひ、ひゃく……132!?」


言葉がうまくでないようでした。

勇者様は異世界から召喚されているとお聞きしています。

この世界のことはまだまだお知りになられていないのかしら。

気をとりなおした勇者様は、改めて国王の指令の話をしてくださいました。


「失礼しました……

 本題の国王からの指令のことです。

 国王からは魔物が増えてきているからという話でしたが……

 今の状況はどうなっていますか?」


勇者様が来られて嬉しいのですが、村のことを考えると、そうも言ってられません。

私も気持ちを入れ替えて話をしないと。


「はい、ここ最近いつもと違う魔物が増えてきて、往来も難しい状況でしたが……」


勇者様は相槌を打ちながら、話を聞いてくださいました。


「状況でしたが……?」


勇者様は続きが気になる様子です。


「数日前から王都セントハム方面の森に出ていた魔物が突然姿を消したとの報告がありました」


今の状況を落ち着いて勇者様にお伝えします。


「突然姿を消した……」


何か考えていらっしゃる様子の勇者様。

気になることがあるのでしょうか。


「はい。

 腕がたつ者を向かわせ、森の確認をしましたが、やはり魔物がいなくなっていたとのことでした」


すると横にいたおつきの女性がガソゴソとし始めて、何かを机の上に置きました。


「魔物とはこれの事か」


南の森の元凶のウォーウルフキングの頭が出てきました。


「……ヒィッ……」


思わずビックリして、目をそらしてしまいました。

でもそらしたままでは長としての威厳が保てません。

ちょっと怖いですが、しっかりと確認しました。


「は……はい。

 この魔物でございます」


おつきの女性は確認が終わるとウォーウルフキングの頭をしまいました。


「そうか。

 なら、こやつが倒したぞ」


「なっ…なんと。

 さすが勇者様でございます」


尊敬のまなざしを勇者様へ送ります。


「それじゃ、これで問題は解決したのでしょうか?」


勇者様が確認をしてきました。

勇者様はまだ現状を知らないようでしたので、お話をさせていただきました。


「たぶんですが、3割ほどといったところでしょうか。

 さきほどの森と反対の山の麓にかなり奥に広がっている洞窟があるのです。

 そこからかなりの魔物が湧き出てくるとの報告があります」


気を落とした様子の勇者様が私に尋ねてきます。


「だとすると、ウォーウルフキングはそのうちの一部だということ?」


勇者様は現状にお気づき出なかった様子です。


「はい。そうなります」


と私から断言をさせていただきました。


その後、おつきの女性と何やら会話をされている勇者様。

話をされている姿も神々しいです。


「どの程度の魔物がどのくらいいるかとかはわかりますか?」


私への質問が続きます。

私はわかっていることをお伝えするのみです。


「詳細はわかりません。

 ただ湧き出るように魔物がでてくるとのことなので、

 そこには上位の魔物がいるのではないかと思われます」


またなにやらおつきの女性と会話をされた後に


「アウラさん、わかりました。

 すぐに解決できるかはわかりませんが、やれるだけやってみます」


なんと優しい勇者様。

私たちの困りごとも二つ返事で引き受けてくださりました。


「ありがとうございます、勇者様」


思わず勇者様の手を握りしめ、笑顔でお礼を言わせていただきました。

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という感じのやり取りでしたね。

なんだか思い浮かべるだけで、にやけてしまいます。

なんと勇者様の男らしい姿。


この後も問題を解決してくださる勇者様に手厚いもてなしも続けていかないと。


今朝も出かける前に私のもとへ来てくださいました。


「これから北西部周辺の魔物の殲滅と調査をしてこようと思います。

 俺もまだまだ強くならないといけないので、時間をいただくことになるとは思います。

 ただ、必ず正体を突き止めて、村を平和にしていきます」


力強く話をしてくださる勇者様。

なんとか私も力になれることがあるといいのだけど。


「期待しています。

 私に力がなれることがあれば、いつでもおっしゃってください」


大変な状況だからこそ、勇者様を頼りにするしかなさそうです。


「その時はお力を借りると思います。

 では行ってきます」


そう勇者様は私に言うと、村を出発していきました。


まぁ、勇者様から嬉しい言葉をいただきました。

その時は全力でサポートしますわ。

思わず顔がほころんでしまいます。


さて……

まずは今日の勇者様のご無事と健闘を祈りましょう

そして私は村の長としての務めを果たさないといけませんね。

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