目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第8話 シルフィーネ村 ~ソフィアサイド~

ウォーウルフキングをあやつが倒したあとから数日後……

旅の目的地となっていたシルフィーネ村にようやっとたどり着いたわ。


「ここがあのじじいが言っておったシルフィーネ村か」


思ったことを口にしておると、あやつが窘めにくる。


「じじいって、国王だぞ」


見たままを言っておるのにのぅ。


「あんな老いぼれをじじいと言って何が悪いのじゃ。

 事実を言っておるだけじゃ」


そう反論をすると、あやつは首を振りながら頭を抱えてしまった。


「はぁ……」


何ため息をついておるんじゃ。

あやつは呆れておるのか。


「事実だろうが言っていいことと悪いこととがあるんだって」


怒りながらワシを見て諭すように話してきた。


「…………

 ……って、なんで剣から出てる?」


今頃気づくか。

反応が遅いのぅ。

だいぶ前から外に出ておるのに。


「この間は剣を握ってないと出てこれなかったじゃん」


あやつは驚いた顔をしながら、ワシを見ておる。


「さぁ、何故じゃろな」


ワシにもようわからんが……

出れるようになったみたいだから、出たまでじゃ。


「村の中で、ゾルダが姿を現わしていたら、村の人が怖がらないかな」


血相を変えてワシに顔を近づけてくる。


「まぁ、大丈夫じゃろぅ。

 おぬしがおれば、何せ、勇者御一行様だからのぅ」


ワシは元魔王とは言え、この姿は魔王には見えんからのぅ。

見た目はそう人族の女と変わらんからのぅ。


「それより、今のおぬしの態度の方が怪しいぞ」


あやつは動揺しているのか、挙動不審になっておる。


「いや……でも……元だとはいえ、魔王だったんだし。

 お前のことは魔王と知られているんじゃないのか?」


なんだ。

そんな心配をしておるのか。


「ワシが魔王だったころからだいぶ経っておる。

 たぶん誰もワシの顔なぞ知らんじゃろ。

 一応身なりも人に近いしのぅ。

 おぬし、気にしすぎじゃ。

 器が小さい男じゃのぅ」


こんなもん、堂々としておれば、だいたい気づかれんもんじゃ。


「それより、何か言われておったじゃろ。

 あのじじいに」


旅立つ前にあれやこれやじじいからなんか話があったと思うが……

まぁ、ワシはしっかりと聞いておらんからわからんがのぅ。

何か言っておったぐらいしかわからん。


「じじいは余分だって」


あやつがワシが外に出れるようになったのを気にしすぎるものだから、話をちょっとそらしてみた。

ワシも何故出れるようになったかはわからんしのぅ。


確かあれは数日前のウォーウルフキングを倒した後の晩じゃったかな。

その日の事をいろいろと考えておった時に気づいたのじゃった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

しかし、ウォーウルフキングのとどめをさそうとした時に、剣に戻されたのはなんじゃったのだろう。

封印の力が上回ったためじゃろうが……

たぶん魔力の使いすぎなのじゃろう。


横ではのんきにあやつが寝ておるのぅ。


前はあやつが剣を握っている時にしか、出れんかった。

力もまだまだ出し切れている感じはせん。


でも、最初にウォーウルフを倒した時より、ウォーウルフキングと戦っていた時の方が力は確実に上だった。

あやつのレベルと封印に何かしら関係があるのか……

それとも別の何かがあるのか……


あの時、ゼドのやつがどのような細工をしたのか。

あいつのことだから、凝ったことをやっておるのじゃろうがのぅ。


何にしても、封印が解けないことには、ここからも出られないしのぅ。

でも、あやつが強くなる度に力は取り戻せているのは確かじゃ。

今は、あやつと共に行き、強くなってもらうのが近道かもしれん。


……んっ。

細かいことを考えるのはどうも性に合わん。

あれこれ考えても仕方がない。

なるようにしかならんか。


あやつが剣を握っている時にしか出れんのはなんとかならんのかなぉ……

これでは戦いの時ぐらいしか出てこれん。

あやつは寝ておるし、ちょっと抜けられんか試してみるか。


いつも剣から抜け出す時のように力を入れてみる。

すると、剣が光りだした。

光が収まるころには、ワシの見える景色が変わった。


「おっ、抜け出せたようじゃのぉ」


思わず声が出てしまった。

振り返り、あやつの方を向いて見た。


「むにゃむにゃ……」


良かった。

起きてはおらんようじゃな。


剣を握って無くても抜け出せたようじゃの。

もしや封印が解けた……ということはなさそうじゃのぅ。

そう簡単に解けておったら苦労はしておらん。


どれくらい離れることは出来るのじゃろうか。

握っておるときは戦いの足かせになるようなことはなかったが……


まずは真っ直ぐ離れてみた。

しばらくすると、剣に戻されてしまう。

あまり遠くにはいけないみたいじゃのぅ。


それからあちこち動き回っては剣に戻されを繰り返しみる。

それでおおよその移動範囲はわかった。

そんなに離れなければ、剣から出ていてもよさそうだ。


さて、動ける範囲がわかったところでだ。

この後はどうするかじゃが……

少しの間は自由に外へ出られることは黙っておこう。

村ではいろいろ見てみたし、村に入る直前に外へ出てみようかのぅ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


という感じであの時の事はしばらく黙っておったが……

今、外に出ておったら、あやつはビックリしておったのぅ。

笑いがこみ上げてくる。


「何をそんなに笑っているんだ」


ワシの笑みが気になったのかあやつ問いただしてきた。


「いや、なんでも無いぞ。

 なんでも……ぷっ……」


あやつをからかうのは面白いのぅ。

これからも何か驚かせてやるか。


「それより、おぬし。

 ほれ、じじいに言われておった村の長がどうとか……」


言いかけておるのに、それをさえぎるようにあやつが答える。


「わかっているよ。

 だから向かっているだろ」


村の賑わいの中を早足で駆け抜けていく。

村の人々もこちらのことを気にすることなく、普段の生活を続けている。


「せっかく、久々の人々がいるところなのじゃから。

 少し遊びたいのぅ」


村の活気を見てうずうずしてくるのぅ。


「まずは用事を済ませてからだ」


あやつは堅物なのか、仕事を優先しおる。


「つまらん男じゃのぅ」


あやつは村の長の居場所を確認するために、通りがかりの人に話しかけている。

いろいろな物が売られている市場では話し声や笑い声が絶えない。

絶対的な力での関係の魔族とはあきらかに違う姿だ。


ワシが魔王をやっていたころも、こんなのだったのだろか。

人とだけでなく、同じ魔族とも常に戦っていた気がする。

ギスギスした気持ちが込み上げてくる。


「ゾルダ、そんな怖い顔してどうした?」


昔のことを思い出してか、顔が険しくなっておった。


「っ……ちまちまと頼まれごとなんぞやらんでもいいのではないか。

 この村が無くなれば、村の困りごとも無くなるしのぅ。

 いっそ、この村を消し飛ばせばそうではないか」


ふつふつと破壊衝動がわいてくる。


「やっ……やめろって。

 なんでそんなこと考えるんだ」


あやつが慌てて制止しようとしてきおった。


「なんでって、そりゃ魔王だからかのぅ。

 何かあれば力でねじ伏せれば万事解決じゃ」


そう思うのが、何が悪いのじゃ。


「あのな、ゾルダ。

 力だけじゃない。

 相手の話を聞くことも大事だし、話し合いで解決するならそれが一番だ」


魔族は相手の話なんかあまり聞かんからのぅ。

ようわからんが、この国の人たちは、対話を重んじるのかもしれん。


「村の長の居場所がわかった。

 ゾルダはそんな物騒なこと考えてないで静かについてきてくれ。

 頼むから暴れるのは魔物の前だけにしてくれ」


あやつはワシの手をつかみ、引っ張っていく。

そして、村の長の屋敷へとたどり着いた。


「コンコン」


律儀にドアをノックしたあやつが緊張しながら声を出す。


「アウレストリア王国の国王からの指令で来たアグリというものです」


ドアが開くと、なかからシルフ族の女が出てきた。

ほぅ……

ここはシルフ族の村か。


「お待ちしておりました。

 国王様からは勇者様が来られるとの連絡をいただいています」


背格好はそれほど大きくないが、落ち着いた雰囲気を醸し出しておる。

相当の手練れなのかもしれん。


「私がこのシルフィーネ村の長、アウラと申します」


にこやかな顔をしたシルフ族の女は深々とお辞儀をしてきた。

そして、中の部屋にワシともども通されて、詳しい話を聞くことになった。


「国王からは魔物が増えてきているからという話でしたが……」


「はい。ここ最近いつもと違う魔物が増えてきて、往来も難しい状況でしたが……」


シルフ族の女は難しい顔をしながら話を続けようとしている。

何か他にも問題が起きたのかのぅ。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?