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第6話 旅の始まり ~ソフィアサイド~

さて……

ようやく外にも出れたし、さっさと封印の解き方を探さないとな。


よくわからんのは、あやつがこの剣を握ったときは実体化が出来るようじゃが……

完全に封印が解けている訳ではなさそうじゃ。

あやつが封印を解くカギやもしれん。

どうせまだこの剣からは出られんのだし、しばらくは同行するしかなさそうじゃ。


あと、力も完全に出せている感じはしないのぅ。

さっきのあやつの戦いに使った力も、本来ならウォーウルフごときは姿形も残さないはずじゃがのう。

魔力を探知できる範囲も思ったより狭いな。

あやつがある程度強くなる前に強敵に出くわさないといいがのぅ。


しかし、さっきの戦いは滑稽だったのぅ。

あやつがいた世界には剣も何もないのだろうか。

この世界は己の身は己で守らんといかんから、年端もいかない子供たちですら武器を使うことを教えられている。

あそこのなんとかっていう王もたぶんそれぐらいは出来ているだろうというところで訓練もせずに放り出したな。

これじゃ魔王を倒す前に、あやつが死ぬぞ。


「ゾルダ、この先にはまださっきの狼みたいな怪物はいるのか?」


ワシが考え事しているところだというのに、あやつは尋ねてくる。


「はっきりと感じるだけでも、数十匹はおるようじゃ。

 その先はもっとおるやもしれん」


死なれては困るし、死なぬように教えておかんとな。


「そんなにいるのか?

 いつになったら目的の村につくのやら……」


あやつがため息交じりにつぶやいておる。

たかがウォーウルフごときで何をしておるのじゃ。


「ほれ、そうこうしているうちに、すぐそこに1匹おるぞ」


少しは自信を持ってもらわないとのぅ。

魔王のところまで行く前に、旅を辞めかねん。


「さっき、レベルが上がって、スキルを覚えたじゃろ。

 1匹だし、今度は手助けせんから、1人で戦ってみろ」


1対1だし、なんとかなるじゃろ。

出来るかぎり手助けをせずに、強くなってもらわないとな。

こんなところでくたばりでもしたら、ワシの封印が解けないしの。

いざとなったら手助けはしてやるがな。


「1人でか……」


またボソッとあやつが独り言を言っておる。

相変わらず自信なさげじゃのぅ。


「新しいスキル、新しいスキル……

 これか。この【スピントルネード】ってやつは……」


字のごとくそのままじゃろ。

何を深く考えているのじゃ。

じれったいのぅ。


「あれこれ考えずにまずは使ってみろ!

 あっ、あとスキル使うには、詠唱が必要じゃからのぅ」


この世界に不慣れじゃから、いろいろと教えておかんと。


「詠唱?

 何を言えばいいんだ?」


そんなことは考えればすぐわかるじゃろ。


「そのスキル名を言えば発動するはずじゃぞ」


「えっ、そんな恥ずかしいことするの?

 子供の時に遊んだヒーローごっこみたいにか?」


「うーん。そのヒーローなんちゃらはわからんが、とりあえずスキル名を言え!

 じゃないと発動しないぞ」


「……わかった」


あやつは意を決したようにうなづいた。


「スピントルネード!」


唱えると、あやつの体がくるくる回り始める。


「うぁ~っ……」


そのままウォーウルフに突っ込んでいく。


「目が……目が……回る……」


このまま突っ込んでいっても、致命傷にはならんな。

ちょっと手を貸そう。


「闇のブラックフレイム


これを剣にまとわせておけば大丈夫だろう。


「うぁ~っ……うっ~……う……」


相変わらずだらしがないのぅ。


「ドンっ……」


剣先がウォーウルフに当たるとともに、その場に倒れる。

どうやら倒せたようじゃな。


「ふにゃふにゃふにゃふにゃ……」


あやつはろれつが回ってないような声を発しとる。


「ほれ、倒せたぞ。おぬし」


「き……気持ち……わ……悪い」


あやつは目が回ってフラフラしているようだ。


「そのうち慣れるから、まずはどんどん使え」


「え……勘弁してよ……」


「こんな調子で進んでいったら、全然目的地にはつかないぞ。

 まだまだおるようだし、心してかかれよ!

 はっはっはっはっは」


「気楽だな、ゾルダは」


おぬしこそ、こっちの苦労もしらずに言えたものじゃ。

気楽な訳ではないが、おぬしを鍛えていかないとこの先がやっていけないからのぅ。


「さっさと進むぞ

 先はまだまだ長いからのぅ」


そんなこんなで、ウォーウルフを撃退しながら、シルフィーネ村までの道中を急ぐ。

ここまででどの程度倒したかのぉ……

あやつのレベルもそこそこ上がったようだ。

だいぶ1人で倒せるようになってきた。


倒せるようになってきたこともあるようじゃが、だいぶ構えもまともになってきたな。

自信とは恐ろしいものじゃ。

ただちょっと浮かれているようじゃな。

痛い目をみなければいいのじゃが……


しかしあの技には慣れんようだな。

他のスキルも覚えたんだし、それを使えばいいのに。


それにしても……

この辺りにこんなウォーウルフがいたのか?

なんかこの森は変だぞ。


……っ

この気配……


「おぬし、ちょっと隠れろ」


「なっ…なんだ、急に」


「あそこを見てみろ。

 あれは、ウォーウルフの頭領のウォーウルフキングだな」


「でかっ

 あれが親玉?」


あやつは目を大きくして驚いた顔をしておる。


この辺りにいないウォーウルフがこれだけいるのも、合点がいく。

これはちょっとやっかいかもしれんのぉ。


「親玉だろうがなんだろうが、ここまで強くなってきたんだから、大丈夫だろ」


「ちょい待て、おぬし。

 今までのウォーウルフとは訳が違うぞ」


「ちょちょいってやっつけてやるよ」


あのバカはワシの話を聞いとらんな。

ワシのフルパワーなら、なんともない相手じゃがな。

ただ、あやつが強くなるにつれ、少しずつ力も戻ってきている感覚もある。

あやつのレベルと封印とどう関係あるかはわからんが、もしかしたらこれなら……


「うりゃぁぁぁぁ」


あやつ、何も考えず突っ込みおった。

相当、天狗になっておるな。


「ガシッ…」


ウォーウルフキングに剣があたる音が響いたが……


「あれ?」

「全然効いてなさそう……」


ほれみたことか。

ウォーウルフキングは微動だにしておらんじゃろ。


剣をブンブン振っておるみたいだが、かわらんぞ。

かるく尻尾であしらわれておる。

今までは剣の中からサポートしていたが、本格的に実体化した方が良さそうだのう。


「おぬし、少し引け。

 ただし、絶対に剣を持ったままにしておけよ」


「わっ…わかった」


ひょいっと剣から姿を表す。


「お前、こっちだ。

 ワシが相手をしてやるぞ。

 ありがたく思え」


そう言いながらウォーウルフキングの前に立ちふさがってみた。


「グルルルルゥ……」


「そう血気盛んにならんでもよいのにのぅ」


あっ、いいことを思いついたぞ。


「おい、30秒くれてやる。

 その間に、逃げるなら見逃してやってもよいぞ」


ちょっと煽りすぎたかのぅ。

余計にグルグルいっておる。

さて、どの程度まで力が出せるか試してみるか。

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