時計の針がカチカチと音を鳴らして時を刻む。時間はどんどん進んでいくのに、目の前には真っ白な原稿。寝不足のせいか、どうしようもない現状のせいか、冷汗と動悸が止まらない。ペンを握っているのに、頭の中は真っ白でなにも浮かんでこない。机の端っこでは、スマートフォンがブルブルと震えている。担当の中林さんから、催促の電話が何件も入っていたが、ずっと無視している。それもまあ、いつものことだ。
眠気は限界。精神も限界。体力なんて残っていないし、今すぐ逃げ出してしまいたい。けれど、逃げ出す体力も残っていない。
三日前から睡眠を捨てて机に齧りついている。食事はカップラーメン、風呂に入る時間すら削って原稿に向かっているけれど、出てこないものは出てこない。ここまで遅いと、はっきり言って間に合わないのは解っていた。当然、アシスタントを呼べる状態でもなく、目の前には書き殴った痕跡のある白い原稿用紙が、ただただ並んでいる。
「無理だ…! 無理無理! ネームだってちゃんと切れてないのに、描けるわけねー!!」
もう逃げるしかない。夜逃げだ。ストレスで禿げそう。胃がキリキリと痛む。絶望しかない。最終手段だと、窓に脚をかけて逃亡しようとした矢先だった。逃亡を察したのか、玄関の方でチャイムが鳴り響く。
「!!!」
窓に脚を掛けたまま無言を決め込んでいると、がちゃり、と鍵の開く音がした。〆切後には屍になる俺の為に、担当の
「
逃げようとしたことなどツッコミもせず、中林さんはいつも通りの様子だ。実にいつも通りの光景だから、今更言うこともないのだろう。にっこりと笑う中林さんに、俺は乾いた笑みを浮かべて原稿用紙を渡した。当然、何も描いていないその原稿用紙を、である。
「? 何ですか? コレ」
「頭の悪い人には見えない原稿です」
「椋木先生……」
中林さんがハァ、とため息を吐いた。
「あんた、またかよ! ちゃんと原稿描いてくれなきゃ困るよ! 今日何日だと思ってんの!? 昨日もちゃんと確認しましたよね!?」
「昨日は何か
「開き直るな!」
まったく、と言いながらも、中林さんは携帯を取り出した。おそらく印刷所に確認の電話を入れるのだろう。もしかしたら編集長かも知れない。ちなみにそんなことをされても俺の寿命は延びない。だって描けないし。
精神的摩耗が激し過ぎて、もはや逃亡も諦める。中林さんと一緒に土下座する準備なら十分に出来ている。俺はふと、中林さんの抱えてきた原稿の封筒に目をやった。表紙には『週刊少年ファイアー15号』の文字と、作品名が描いてある。描いてあった名は、『
俺は電話で平謝りしている中林さんの横で、こっそりその原稿を盗み見る。それから――ひらめいた。
「花も嵐も」はラブストーリーだ。それほど特徴のある話ではないが、結構テイストが気に入っていてちゃんと読んでいる。コレならば。
そう、この時の俺は、原稿がもう間に合わないこと。担当が同じ中林さんだってこと。それから、この新人作家の白石先生よりも、五年以上連載している自分の方が大先輩だと。ついでに自分はギャグマンガだ。もう一つついでに言えば、眠気と疲労の限界で――それを言い訳にしたのだ。
◆ ◆ ◆
『椋木やってんなwww』
『今週の『あずだん』『花も嵐も』完全にパクっとるww』
『これは酷いwww』
SNSの反応を見て、俺はホッと息を吐いた。原稿はなんとか書き上げた。まあ、印刷所にかなり迷惑をかけたのだが。人気急上昇中の『花も嵐も』に、思いっきりネタ被せをした回は、思ったよりも好評だった。
「ふぅー、俺に掛かればこんなもんよ! しかもこのネタ次週にも引っ張っちゃうもんね」
締め切りが終われば何が待っていると思う? 締め切りだ!
ってな具合で、永遠に終わらない負のループの真ん中に居る身としては、この状況に藁にも縋るしかないのである。負のループを立ち切れれば良いのだが、それはイコール収入を断つのと同じだ。書けないからといって、書かないわけには行かないのだ。ままならないね。
中林さんによれば、15号掲載の「花も嵐も」の方も人気を伸ばしたらしい。コラボ最高。だが、それを伝えて来た中林さんの様子は、少しおかしかった。その原因を、翌週の作家通信欄を見て知ることになる。16号の巻末通信欄を見て、俺は押し黙った。
「椋木先生、人の飯の種で飯食わないで下さい。(白石)」
ズバリ言われた一言に、雑誌を手にしたまま、真っ赤になって押し黙る。そりゃあ、無許可だし。一言も言ってないし。いや、言えば良かったのかも知れないけど、白石先生のこと何も知らないし。
「あーあーあー! クソっ! 解ったよ!」
ここで素直に「ごめんなさい」も出来ずに「もうやらない」も選択できないのが、椋木
その後、三週遅れて俺は、もう一度「花も嵐も」にネタをぶつけた。幸い、白石先生は原稿が早い。「協力しろ」と秘蔵のフィギュアをダシにして、中林さんからちゃっかり内容を確認し、どどんと原稿を掲載して見せたのだ。今度はどういう反応があるのか、と思い、わくわくと久し振りの休日を楽しんでいた。(パクっているので余裕がある)
そこに、ドアチャイムが鳴り響いた。
「? はーい?」
ドアを開いたところに立っていたのは、中林さんだ。中林さんはなにやら挙動不審な態度で、青白い表情を地面の方に向けていた。まだ締め切りまで間があるので、何をしに来たのか解らない。
「中林さん? どうしたんですか?」
「椋木先生……あの。自業自得ですからねっ! 俺、じゃあコレで!」
「はっ!? おい!」
驚いて逃げた方を見るが、既に人影が無かった。なんて素早い。
俺はわけが解らず、ドアを閉めようとして、男が立っていたことに気がついた。妙に綺麗な顔をした優男が、にこりと笑みを浮かべて立っている。あまりの美形に、俺は同じ人類で居ることが恥ずかしくなってきた。
今日は髭こそ剃っているが、〆切中はジャングルから出てきたオッサンとアシスタントに言われるほど、ボサボサのなりだ。目の前の青年とは随分違う。なんだか良い匂いがしそうだし、服もオシャレだ。ここ数年着倒しているヨレヨレのTシャツ姿の俺とは雲泥の差である。
「あの?」
「椋木先生ですね」
「はあ」
「初めまして。白石克司です」
「ごぶっ!」
その言葉に、俺は思いっきり吹き出した。
目の前に、まさか本人が。
しかも想像していたのと随分違う。こんな人間が漫画描くのか! てっきりキモオタ系だと思っていたのに、当てが外れた。まるで漫画の中の登場人物見たいじゃないか。詐欺だ。
「え、えっと」
「今日はお休みだそうですね。どうですか、一緒にお食事でも」
「はっ……?」
「奢って下さいね」
クスリと笑う白石先生に、俺はほっと胸をなで下ろした。どうやら白石先生は、俺のやったことを笑って許せる器量の人間のようだ。巻末で怒られたので、てっきり訴えられるかと思ったが、そんなことはなかったらしい。
(ん? じゃあ、中林さんは何で逃げたんだ……?)
「勿論」
俺はそう言うと、一張羅に着替え、出来るだけまともな店に連れて行こうと銀座へと誘った。
◆ ◆ ◆
銀座の寿司屋で寿司をご馳走し、そのまま高級クラブへ飲みに行った。案の定、美形の白石先生の登場に、ホステス達が蝶の如く群がってしまったので、はっきり言って面白くはない。ソファの端っこで一人チビチビとお酒を飲む。
(良いけどね。接待だし。良いけどね)
鼻息荒く酒を飲みながら、ジロリとホステスたちを睨む。白石先生が意味深に笑った。マジで顔が良いなこの人。
締め切り明けで気持ち良かったことと、酒が久し振りだったこと、一人飲みのせいでペースが怪しかったことが重なって、俺はすっかり酒に飲まれてしまった。店を出る時にはフラフラで、足元がおぼつかない。タクシーに乗せられてからも酔いは覚めず、結局、白石先生に支えられるようにして部屋へと戻った。
「う~~すみません、白石先生……」
「大丈夫ですか?」
初対面なのに、白石先生は優しく、喋りやすい人だった。それが、余計にやってしまったことの罪悪感を生む。
(ネタにしたの、悪かったなぁ……。ああ、そう言えば、まだ謝ってな……)
うつらうつらと、眠気も襲ってくる。白石先生が俺をベッドに横にする。面倒をかけっぱなしだ。
「シャツ、皺になっちゃいますね」
そう言ってボタンを外し始める白石先生に、俺はハタとして、慌ててその手を遮った。
「や、大丈夫ですっ、そこまでしていただかなくって!!」
初対面のイケメン先生に、そこまで面倒を見て貰うわけにはいかない。そう思い、起き上がりかけた俺の肩を、白石先生がベッドに押し沈めた。
「は?」
「椋木先生」
「へ?」
「僕はキレイで柔らかい女の方も大好きなんですけど」
「ああ。まあ……」
急に何の話だ。気に入った嬢でも居たのかと、首を捻る。
「バイなんですよ」
「うん?」
と、思っている矢先に、白石先生の唇が俺の口を塞ぐ。舌が咥内に侵入してきて、俺はキスされていることに気づいて、慌てて腕を振り回す。だが、肩を抑えられていてびくともしない。舌が歯列をなぞり、逃げる舌を追いかける。クチュと音を立てて舌を絡まされ、ビクンと肩を揺らした。
正直に、経験が少ないせいで、あっという間に翻弄される。
「う、んっ……!」
(ヤバ、いっ……!)
エロいキスをされている。「何で」という思考が、「気持ち良い」に上書きされて行く。上口蓋を舐められ、続々と背筋を震わせた。
「んぅ、んっ」
やがて、ゆっくりと唇が離れる。唇から唾液が、糸のように二人の間を繋いだ。唇の甘い痺れが、夢ではないと伝えて来る。
あまりの出来事に、俺は頭が真っ白になって、呆然と白石先生を見上げた。白石先生は先ほどまでの優しげな表情をすっかりどこかへしまい込んで、意地の悪そうな表情で俺を見下ろしている。
「白……」
「先生、知ってます? ああいう原稿って、僕じゃなくて、ファンの子への裏切りだって」
「え」
「コレに懲りて、二度とそんなことしないように、少し痛い目見ましょうね」
「はぇっ!?」
白石先生の手がするりとシャツの裾を滑って侵入する。抵抗する腕をあっさり封じられ、ベッドに縫い留められる。
俺は状況が呑み込めず、頭がパニック状態になった。
(え。どういうこと? これ、どういう状況?)
混乱する俺の唇を、再び白石先生が塞ぐ。
何となく、貞操の危機だというのは解っていた。けど、思考は酒でぐるぐる回ってるし、先生の顔が綺麗すぎるし、先生のキスが上手すぎるし――最近シてないし。
任せるしか、なかったのだ。
◆ ◆ ◆
『コレに懲りて、二度とそんなことしないように、少し痛い目見ましょうね』
その言葉が、頭をぐるぐる回っている。
白石先生にエロイことをされてしまってから、10日ほど。どうやって先週の〆切を終わらせたのか、自分でも本当に解らない。ボンヤリしたまま原稿を書いて、ボンヤリしたまま怪訝な顔をする中林さんに原稿を渡した。そのうちにだんだん思考を取り戻して、ようやくあの時の状況を思い出すに至り――。
『あ、あっ……、白石先生っ…』
『こんなにして……。いやらしい人ですね』
『ひぁ、んっ……!』
思い出して赤面して、机に頭を打ち付け、落ち着いたと思ったらまた思い出して柱に頭を打ち付ける。俺の様子を怪訝そうに見ているアシスタントを横に、あれから俺はすっかりおかしくなってしまったらしい。
(痛い目って……またやったら、また白石先生にエロイこと
俺はすっかり、頭の中が白石先生一色になってしまっていた。声が格好いい。顔が綺麗過ぎる。指先がキレイで、すごくエロイ。ついでにテクニシャンだ。生来のM気質が、白石先生のS気質に反応しまくって、完全に白石先生に落とされてしまっていた。
(もう一回逢いたい。どうやったら逢えるんだ? 中林さん? はあの一件以来白石先生の名前を出さないし、原稿も見せてくれない。何で連絡先聞かなかったんだっ)
「ぬあああっ! もうダメ、どうしちゃったの俺!?」
「先生?」
アシスタントの芦田くんと飯田くんが驚くほどに、叫び声を上げる。原稿待ちで待機していた中林さんも見ている。
「もーヤダ、俺気持ち悪い。白石先生好きすぎてキモイ!」
「ああ、『花も嵐も』いいですよねー」
解っていない芦田くん達と、何かを察している中林さんの反応の差がギャグマンガみたいだが、そんなことよりも原稿がヤバイ。
「もうダメだ、落ちる。マジで落ちる。今なら楽に死ねる! 最後に一目会いたかったのに!」
そういう俺に、中林さんが何かをあきらめたようにため息を吐いて席を立った。マンションから出て、しばらくしてから戻ってくる。どこかに電話してきたようだ。それから数十分後、中林さんが原稿がすぐには出来ないと判断したのか、席を立った。
「俺はこれから編集部に戻りますので、原稿お願いしますね」
「無理……」
「大丈夫。スペシャルな助っ人用意しましたから」
「助っ人……?」
スーパーアシとかだろうか。そう思って、気力無く玄関を見やったときだった。
脳が一気に活性化し、血圧が一気に上昇する。危険。主に生命が。
「こんにちは。椋木先生」
「し、し、ししししし、白石先生!!」
俺の言葉に、アシスタントの二人も驚いてそちらを見る。
「お手伝いに来ました」
「だっ、なっ……もー! お前ら帰れって言いたいっ!!」
「ええっ!?」
俺の理不尽な叫びに、芦田くんたちが困惑する。白石先生がせっかく目の前に居るのに、イチャコラできない。本当は飛びついてキスして、好きって言いたいぞ俺は。
その様子に、白石先生がくすりと笑う。
「良いですよ椋木先生。僕そういう露骨なアピール嫌いじゃないです」
「えっ。そう?」
「そうですね。でも、彼らが居ないと原稿が進みませんから、返さないで下さいね」
「うん」
仕方がなしに素直に頷く俺に、白石先生がゆっくり近づいてきた。
「僕、今日は一日時間ありますから。早く終われば二人きりになれるかも知れませんね」
「!!!」
白石先生のその言葉に、俺は今まで見たことのないスピードで原稿を描き始めた。やれる。俺はやれるぞ!!
「うおぉぉぉぉおおお!!」
「椋木先生が早いっ!」
「遅筆の先生なのに!」
芦田くんたちが驚く声を上げるが、そんなことにはかまってはいられない。白石先生はクスリと笑って、アシスタント用の席に座って道具を揃え始めた。
◆ ◆ ◆
「……はい、確かに今週分頂きました」
確認し終えて、中林さんがにっこりと微笑む。まさか本当に今日中に出来るとは。しかもまだ八時だ。
俺がまれに見るスピードだったこともそうだが、白石先生が恐るべき速筆だったこともある。芦田くんたちも先生から学ぶことが多かったようで、随分プラスになったようだ。
「芦田くんと飯田くんも、お疲れ様。今日はコレでご飯でも食べて帰ると良いよ」
そう言って、さりげなくお金を渡している姿がスマートすぎて、思わず見入る。芦田くんたちも感動しっぱなしだ。お礼を言って、元気に帰って行った。
いつの間にか、すっかり二人きりになる準備が出来ていて、心臓がバクバク言い始める。これは、期待しても良いということだろうか。チラリ、白石先生を見上げる。
「っ……白石先生っ…!」
「はい?」
「あの、その」
緊張する。心臓がドキドキしている。体温が上がる。目の前にいる白石先生に、涎があふれて、俺はごくりと喉を鳴らした。
ヤバイぞ。先生の肌に触れたい。キスしたい。触れられたい。
――この前みたいに、エロイことをされたい。
「先生、〆切終わったんだから、休んだ方が良いですよ」
「うえっ?」
そりゃそうなのだが、この状態でそれを言われるとは思わず、俺は少なからずがっかりする。
だが、確かに三日ほど風呂に入っていない。この体で白石先生に近づくわけにはいかない。
「そ、そうですねっ。俺お風呂入ってきますっ」
そう言ってカクカクと風呂場へ直行する俺の手を、白石先生の指が絡め取った。
「洗ってあげましょうか?」
そんなことを耳元で囁かれて、落ちない人間が居るんだろうか。
俺は真っ赤になりながらも、「お願いします」と答えていた。
シャワーを浴びさせられながら、バクバクと心臓が鳴り響く。心音が大きすぎて、白石先生にも聞こえて居るんじゃないだろうか。痩せこけて貧相な身体に、シャワーが当たる。自分は裸なのに白石先生は袖を捲っただけで、心もとない気持ちになる。
俺はソワソワして、恥ずかしくて、白石先生の顔がまともに見られなかった。なにかエッチな事を期待したわけだが、白石先生はそんな雰囲気は微塵もない。先ほどの雰囲気は何だったのか。非常に残念だが、縋る勇気もなかった。
手入れの悪い髪を丁寧に洗われ、注がれるその指先の心地よさに、半ばうっとりと瞼を閉じる。白石先生の顔が、近くにすり寄ってきた。
「眠くなっちゃいました?」
急に耳元で聞こえた声に、吃驚して顔をあげる。
「いやっ! そんなことはっ!」
「そうですか? 疲れてるんだから無理しないで下さいね?」
「大丈夫……です」
俺は白石先生に促されるままに立ち上がる。色々見られるのが恥ずかしいような気もするが、生来の性格では、「そんなもん隠すもんじゃない」というタイプだし、どうせ白石先生には既に見られているし、開き直っている。あまりじっと見られると流石に恥ずかしいが。
白石先生はソープを手に取って、今度は身体を洗い始めた。泡で体を洗われているときも大して気にしていなかったのが、さすがに下半身に触れたとき、びくっと体を震わせて逃げ腰になってしまった。
「何処行くんですか」
「や、そこは、自分で」
「何、馬鹿なこと言ってんです」
ぐい、と引き寄せられて、握るように洗い始める。「あ」と声が漏れた。白石先生の態度に絶句しながら、器用な指と泡のぬるりとした感触に、言いしれぬ快感を覚える。
「っ…白石先生……」
そもそも何故、体洗いを使わないのか。白石先生は最初から素手で洗っている。ああ、そうか。アホか俺は、そういうことかっ。
「何ですか?」
「濡れ……」
「いいですよ、別に」
白石先生は濡れるのもかまわずに、そのまま丁寧に洗い続ける。やがて、先生の指が、にゅるりと、尻の間に滑り込んだ。
「ひっ……」
そこはまだ、この前の感覚を覚えている。先生が指でほぐす感覚に、それが強烈に思い出された。
「あっ。や……先生っ…」
擽るように、指が動く。体の芯がぼうっと熱くなるのを感じ、俺が白石先生のシャツをぐっと握りしめた。先生が不意に、指をずるりと抜く。そのまま太ももを滑って、手が離れていった。
「っは……」
「じゃ、流しますね」
「へっ?」
平然とそう言ってシャワーをかける白石先生に、俺は熱をもてあました中心を痛々しいほど勃起させて、どうしたらいいか解らないまま白石先生を見つめた。
「白石先生っ」
「はい、終わり」
「終わりじゃ、無いですよっ……こんな……!」
白石先生はくす、と笑うと、俺の頬を包んでキスをしてくる。その甘さに、俺はまた先生に酔ってしまう。
「続きは、ベッドへ、でしょう?」
先生の言葉に、俺は無言で頷いた。
完