頬に強烈な痛みを感じて目が覚めた。
「んぇ····え? 僕、何かした?」
「あ? 朝になったら起こせっつぅから起こしてやったんだろ」
「なんで引っ
頬を抱えて痛みを訴える。イにも返さない奔放な狩人は、僕の戸惑いを凌駕してくる。
「斧が降ってこなかっただけありがたいと思えよ。親父ン時はそうやって起こしてたんだ。けど流石に、お前じゃ
「ナメないでよ? 君の攻撃ごときで、僕の防護魔法を貫けると思ってるの?」
「ビンタ食らっただろ」
「素手だもん! 僕の防護魔法は対武器と対魔法なの! 夕べ説明したよね!?」
「あぁ、なんか言ってたな。それよか飯食え。ベーコンマッシュポテトだ」
「······その炭が?」
「あぁ、ちょっと焦げた。けど、こんくらい大丈夫だろ。親父は食ってたぞ」
「君のお父様、なんか色々と凄いね」
「あぁ、親父は偉大だった」
「ねぇ、死んだみたいな口振りやめな? お父様、今朝方
「侮るんじゃねぇぞ。海は危険だ。予定通り帰って来るとは限らねぇからな。毎回、生きて帰ってくるとは思ってねぇ」
「うん、それは分かるけどね。でももう少し信じてあげな? 僕、昨日お父様に加護の魔法も付与しといたから。ね? なんだかんだ不安そうな顔してたからさ、君よりお父様がね。可哀想になっちゃって」
「そうなのか。それはありがてぇな。で、飯は食うのか?」
「うん。いただくけど、少しだけ時間を戻そうね。そうだなぁ····きつね色になった頃くらいに」
「おぉ····、魔法って便利なんだな」
「寝起きからMP削られてるけどね」
「えむぴー····? なんだそれ」
「魔法を使う為に必要な····えーっと、体力的なものだと思ってくれたらいいよ」
「なら無限だな」
「そんなわけな····うん、上手く使うよ」
僕は全てを諦め、この人狼の少年に従う事にした。思い込みが激しく、モフモフの耳をピクピクとよく動かすクセに、人の話なんて殆ど聞いていない。少し頭が悪いのか、それとも知識がないだけなのか、はたまた特殊な環境のせいなのか。
まだ判断はしかねるが、なんにせよ一筋縄ではいきそうにない。
彼は父親と2人、森の奥深くで密かに暮らしている。
それと言うのも、その昔、父君の所属していたパーティが魔王討伐に失敗したかららしい。勇者から全責任をなすり付けられ、罪に問われたのは父君だけだったと聞く。
魔王城から戻った2年後に出た判決の結果、父君は有罪とされた。それで、街から追放された挙句、妻を奪われ隔絶されたこの森に幽閉されたそうだ。
僕は、彼らに出会う為この森へ迷い込んだ。探し人の光が彷徨うまま連れられ、森の最奥にあるこの小屋を見つけた。阻害魔法がかけられていて、見つけるのに苦労したんだ。
ノックをし、斧を構えた父君が出てきた時は正直ビビった。それ以上に、僕を見た父君は大層驚いていたけれど。
僕のこの尖った耳と真紅の瞳を見て、父君は僕を小屋へ招き入れてくれた。
僕の素性について、深く聞かれなかったのは幸いだった。怪しまれないよう繕った適当な自己紹介を聞き終えると、父君は少年を紹介してくれた。うら若く、いや、まだ幼さが残る仔犬の様な愛らしい少年だ。
そして、この少年が人間への復讐を企んでいるようだと、夕べ酒を酌み交わしている時に父君が漏らした。けれど、その方法さえ分からないでいる、と。
僕は、父君が不在の間、少年が軽率な行動に出ないよう監視役と教育係を仰せつかった。復讐など、無意味な事をさせたくないらしい。さしずめ、禍々しい血を知らぬ少年に、無垢を失ってほしくないのだろう。
少年が抱く復讐心。それはおそらく、父を
この少年の母はエルフで、一族ごと攫われ捕虜····いや、苗床として使われていた。まだ幼かった彼女は、少年の父君と出会う百年ほど前に、一度だけ魔族に孕まされていた。そして、それはそれは愛らしい男の子を産んだという。
赤ん坊は魔族に取り上げられた。その後も状況は変わらず、バタバタと死んでいく同族を、彼女は正気で見ていられなかった。
数年の後、薬漬けにされ玩具のように扱われていた彼女を、父君が魔王城から逃げ落ちる際に救い出して
彼女が産み落とした赤子は、求められていた素質を備えていたらしく、魔族の王に厳しく育てられた。魔王と同じ深紅の瞳が輝きを放ち、どの種族も魅了するほど麗しい青年の姿となった。
その数十年後、反抗期を迎えその王の首を落としたそうな。魔族はそれをバカみたいにひた隠し、幹部が奮闘しつつこの世の混沌を保っている。
まさかこの僕が、君の兄だなんて名乗るのも烏滸がましい。この純粋無垢な少年に、こんな穢れた血を語れようか。
ただ願わくば、母にひと目会いたかった。ここまで来た目的は、ただそれだけだった。旅の途中、彼らの実状を知った時は、ぶっちゃけ帰ろうかと思った。
けれど、今度は弟という