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第5話 叔父さんと僕

 僕に股がった太一は、何度も優しくキスをしてくる。徐々に激しさを増すが、執拗いくらい僕の様子を窺うんだ。

 太一はとても優しい。いつだって僕を気遣ってくれる。キスだけでヘロヘロになった僕を見て、ふわっと微笑んだ。

 そして、細い僕の腰を掬うようにそっと抱き上げ、僕を膝の上に座らせる。


「いいのか? こんなオッサンだぞ? それにほら、男だぞ。お前こそ、ちゃんとわかってんのか?」

「ん····わかってるから悩んでたんだよ。でも、気づいたんだ。男とか女とか、そういうんじゃないんだって。太一に惹かれて、太一を好きになったんだ。懐いてるとか、そういうんじゃないのもちゃんとわかってるから大丈夫」

「お前、ホントにしっかりしてんね。なんか俺の方が安心しちゃうじゃないのよ」

「太一は大人だけど、ホント子供だよね」

「なんだそれ、はははっ」


 ちゃんと太一と話をして、お互いに安易な気持ちではないと確認した。そのうえで、改めて恋人になろうとキスを交わした。

 しばらくは秘密の恋人だ。わくわくドキドキってこういうものなのだろうか。



 その夜、上手く眠れない僕達はたくさん話をした。今まで誰とも、こんなに話をした事はなかったと気づいた。

 酒も飲んでいないのに太一は、乙女の様に恥じらいながら僕の好きな所を語る。素直な所や一緒に居て落ち着けるところ、コミュ障のクセにまっすぐ見つめてくる瞳が好きなんだとか。恥ずかしすぎて、暫くまともに太一の顔が見れなかった。


 僕達の関係だが、自然にバレるまでは内緒ということになった。わざわざ言うことでもないし、正直説明とか面倒だと意見が一致した。

 これまでのお互いの事も、全てと言っていいほど語り合った。とにかく多かったのは、母さんの話だった。


 太一は少し年の離れた母さんに可愛がられ、まるで息子のように育てられたそうだ。色々聞くうちに、母さんが悪い人じゃない事はわかった。

 女手一つで、僕を立派に育てなくちゃいけないという、強すぎる責任感の所為で精神的にまいっていたらしい。全てがちょっと上手くいかなかっただけなんだ。これがわかっただけでも、随分な儲けものだ。


 僕達は、いつの間にか手を繋いでいて、互いの温もりに心を委ねながら眠った。



 僕達が恋人になって数ヶ月が経ったある日。話があるとリビングに呼ばれた。


「俺、会社立ち上げるんだ」


 そう言って太一はニカッと笑った。

 何の会社かは言わなかったけど、太一はワクワクしているようで、とても活き活きとしていた。もう殆ど準備は整っているらしく、後は認可待ちだとかなんとか言っていた。



 数週間後の3月下旬。僕は、村の中心辺りに佇む古民家に連れていかれた。

 改築してとても綺麗になっている。庭にはたくさんの手作り遊具があり、さながらアスレチック施設のようだ。

 改築も遊具も、太一が昔の大工仲間と共に作り上げたものらしい。こっちを仕事にすればいいんじゃないのかな。と、僕は思った。


「なぁ、太一さんよ。これって“会社”とは言わないだろ」

「ははっ! 驚いたか?」

「もうさ、どこから突っ込めば良いやらだよ」

「一昨日くらいから通ってる子もちらほら居てな、俺こう見えて人気者なんだぜ? まぁ、本当に目指しているものは、まだまだこれからだけどな」


 そう言って、太一はいつものようにニカッと笑う。夢を目指す少年のような、とてつもなく眩しい笑顔だ。僕も、それにつられて笑う。


『たいちせんせー』


 登園してきた子供が、キラキラした笑顔で呼んでいる。なんでも、体操のお兄さんみたいだとかで人気があるらしい。

 太一はヤンキーみたいな見た目なのに、昔からめっぽう子供が好きなんだそうだ。案外怖がられたりしないらしい。子供よりも大人の方が、見た目で怖がるから寄ってこないんだとか。

 僕もよく女と間違われて、おっさんに痴漢にあったりしたなぁ。男とわかった途端に舌打ちしやがる。僕が悪いのかよって、何度思った事か。



 とまぁ、太一が立ち上げたのは、会社ではなく小さな保育園だった。それも、後々は孤児を保護する支援施設と併せて運営するらしい。

 何が1番驚いたって、太一が資格を持っていた事だ。見た目で採用されなかったので、じいちゃんのツテで大工になったんだそうだ。

 さらに太一は、僕にも免許をとれと言ってきた。そして、ここで子供達に囲まれて賑やかに過ごそうと。

 僕も子供は嫌いじゃないし、太一の夢を手伝えるのは嬉しい。しゃーない、いっちょ頑張るとしようか。


 この『ひまわり園』で子供たちの笑顔がたくさん輝くように。

 ずっと、太一と一緒に。

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