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第4話 叔父さんの本音

 思い詰めた表情の太一が 、一瞬の沈黙を弱々しく破る。


「姉さんから託された俺の子供····とは思えなくなってた。いつの間にか、可愛くて大切で····守りたくて」

「僕、男だよ? 彼女にはなれないし、血も繋がってるんだよ」

「俺も気の迷いかと自分を疑ったよ。でも、誤魔化しようのない気持ちはどんどん膨れ上がるんだよ。俺なぁ、恋ってたぶん初めてなんだ」

「なっ····、何言ってんだよ。バツイチのくせして」

「あれは、流されてというか、唯香に押し切られたというか····」


 押しに弱い太一らしい。怪しいツボとか財布とか、押し売りされたら半笑いしながら買いそうなお人好しなのだ。

 きっと、この見た目のおかげで、これまで押し売りとかに引っ掛からなかったんだろうな。と、そんな事はどうでもいい。

 ····あれ? そういえば、叔父さんと結婚ってできんの? 違う違う、男同士なんだから、そもそも無理なんだよ。


「いくら僕がヒョロいからって、女と勘違いはしてないよね?」

「してないぞ? お前はれっきとした立派な男の子だもんな」

「良かった。そこはわかって言ってんだ」

「お前、俺の事バカだと思ってるだろ」

「まぁ、賢いとは思ってないかな」

「酷い言われようだな、はは。あ! それとな、俺たち血ぃ繋がってないぞ」

「······はぁ?」

「俺と姉さん、もといお前の母さんな、本当の兄弟じゃないんだよ。あれ? 聞いてなかったのか?」


 聞いていないぞ。そもそも、母さんとまともに会話した記憶が無いのだが。

 なんでも、太一は本当の拾われっ子らしい。確かに、あのクソ真面目な仕事人間の母さんや、堅物のじいちゃんばあちゃんと太一じゃ違いすぎる。

 36年前のまだ薄らと肌寒さが残る春先、玄関の前に藤籠で眠る生後間もない太一が居たそうだ。手紙の内容から、夜逃げしたじいちゃんの知り合いの子と思われた。だが、その知り合いとは音信不通で真相はわからないらしい。

 太一はあっけらかんとしていて、気に病んでいたり、負い目に感じている様子は無いようだ。何があったって前向きでクヨクヨしないのは、太一の良いところだと思う。僕には無いものだ。

 とにかく、僕と太一は他人なのだそうだ。これはチャンスなのだろうか。

 浅はかな淡い期待を胸に灯らせてしまったではないか。大前提として、僕たちは男同士だ。こんなの、世間が許してくれない。



 世の中のことわりに反してしまう。それでも、この気持ちを抑えきる自信はない。

 誰からも祝福されない。認められない。なのに太一は、まっすぐ僕の目を見つめて言うんだ。


「俺はコタが好きだ」


 まいった。観念するしかないみたいだ。僕よりも大人な太一が言ってくれた。そんなの、甘えちゃうじゃないか。


「······僕もだよ」

「え?」

「だからぁ、僕も太一が好きなの」

「うっそだ〜」

「ほんと。いつからかわかんないけど、いつの間にか好きになってたんだ。まぁ、自覚したのはキスのおかげだけどね。一晩、寝ずに自分と向き合ったから」

「コタくん、怒ってます?」

「ぜーんぜん」

「怒ってんじゃん」

「怒ってないよ。だから、もう1回····キスして? そんで、今度はちゃんと覚えてて」


 僕と太一は恋人として、再び唇を重ねた。

 1枚ずつ仮面をはずしていくかのように、僕の知らない太一が次々と顔を見せる。太一の恍惚な表情かおは、まだこの先を知らない僕でさえたかぶらさせた。

 腰を引き寄せる手の温もりから、ゾクゾクとしたものを感じる。きっと、僕もそんな表情かおをしていたのだろう。太一が頬を紅潮させ、そっと僕のTシャツに手を忍ばせた。

 そうだ、ちゃんと言わなくちゃ。


「太一、ちょっと待って。先に言わなくちゃいけなくって」

「ん? なに?」


 ねっとりと絡みつくような、耳元で響く甘い低い声。大人の男の人だ。耳が熱くなって思考が止まってしまう。

 ダメだ、言わなくちゃ。


「あのさ、僕が昨日太一に犯されたの、口だけだよ」

「······ん? え? え!? 俺、お前の口に突っ込んだの?」

「······っ! ばっ、ばーか!! 違うから! キスしかしてないんだよ! まぁ、めっっっちゃ濃いやつだったけど!?」

「はぁぁぁぁぁ!? そんだけ? いや、充分問題だけれども! なーんだ、てっきりイクとこまでイッたのかと······」

「バカ太一」

「じゃあまぁ良かったわけだ。これからちゃんと、初めてを食べれるんだよな」


 太一はそう言って、また僕に跨った。そして、厭らしい大人の表情かおで僕を見下ろす。


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