アリシアは歩きながら、妙な高揚感と反省を引きずる己を感じていた。
(正直、予想外だったわ)
アリシアの感情にあれほど
(これもマンジュ卿が言っていたように、より複雑に
アリシアが
(魔法って、不可思議なものね)
魔法のメカニズムについて、仮説は様々に存在するが実際の詳細の全ては解明されていない。そもそも
(さっきの私は、あの生徒達を傷付けることが目的ではなかったけれど、相手をどうにかしようという感情が先走ったのは間違いないわ。以前のアリシアは木の
アリシアは自分なりに考察しながら、奇跡と魔法が存在するこの世界の神、ライザの言葉を思い出していた。
──義を尽くし、愛を為せ。
あの教えに
かつてのアリシアなら、侮辱してきた相手に対して舌鋒のみで済ませたこと自体が寛容な愛だと表現して悪役令嬢らしい笑みを浮かべていたかもしれない。だが、今のアリシアにそんな風に開き直れるような余裕はなく、晩餐会の席で失態を演じたりニナを傷付けたりした自分に対する失望を拭えないままだ。
考えはまとまらない。やがてアリシアが到着したのは、自分の所属する教室ではなく事務員が詰めている学務室だった。
「失礼いたします」
凛と響くアリシアの声。それを聞いた数名がややざわめいたのが、令嬢にも分かった。
(生徒だけじゃなく、職員の方々の耳にもすでに入っているようね)
アリシアは何食わぬ顔で、学務室入ってすぐのカウンターに向かう。カウンターは同時に複数人に対応できるよう横長の造りになっていて、今も生徒や教師が必要な手続きを願い出たり、資料を確認したりしている。そんなカウンターの向こうにある机から、アリシアの姿を目に留めた事務担当スタッフが対応しにやって来た。
「おはようございます。お尋ねしたいことがあるのですけれど」
「おはようございます、ポーレットさん。何の御用でしょうか?」
スタッフは年配の男性だ。小さめの直径の眼鏡をかけた白髪の彼から、こちらを
「あの、わたくし、一身上の都合でしばらく学院を休みたいと考えているんです」
「ほう。期間はお決まりですか? 三ヶ月以上授業に出ないということであれば、休学願いを提出して頂き、学院長が判断することになります」
スタッフは、カウンターの裏から関係書類をさっと取り出してアリシアの前に示す。
「三ヶ月以上……」
教えてもらった期間をアリシアは復唱した。自分が辺境の荘園で謹慎となる日数はどれくらいになるのだろう、と考える。王子達からのその後の沙汰はまだ知らされていないし、場合によっては長く王都を離れることもあり得るだろう。
アリシアは、自分が懸念していたことを聞いてみる。