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第76話


海の神は暴れていると、大地の神は言っていた。

しかし、神殿に足を踏み入れたサイモンが感じたのは――。


「随分……賑やかだな……?」

「あー、いろいろあってな。今ちょっと忙しいんだ」

「いろいろって?」

「いろいろはいろいろだ」


海ガニ兵士の言葉に、サイモンは首を傾げる。意味深な言い回しに、疑心が浮かぶ。だがここで臍を曲げられてはかなわない。サイモンは何も言わずに海ガニ兵士の後ろを着いていくことにした。


赤い手すりに、白い床。上に吊るされた大きな灯りは、提灯と言われるものらしい。見た目は良いが手入れが大変なんだと海ガニ兵士はぼやいていた。違うものにすればいいのにと思わないでもないが、こだわりがあるのだろう。

廊下ですれ違う魚や甲殻類、それに魚人が忙しなく動いている。何をしているのかと聞けば、一週間に一度の宴の準備をしているのだとか。

(宴が出来るほど元気なのか?)

荒れているとは程遠い状況に、サイモンだけではなく、アリアたちも首を傾げてしまう。


「あの、海の神様は、その……怒ってる? んじゃないんですか?」

「怒ってるゥ?」

「あ、いえっ、そんな感じのお話を聞いたので……」


アリアは海ガニ兵士の反応に徐々に声を下げていく。そういえば海が初めてだったアリアに取って、生物と接するのは初めての経験なのではないだろうか。海の住人は、生体のせいで表情がわかりづらいことがある。最初はサイモンもそうだったし、怖がるのも無理はない。

海ガニ兵士は視線を彷徨わせると、「あー、そういうことか」とサイモンを見た。心当たりがあるらしい。


「何でもいい。何か情報があれば教えて欲しい」

「あー……つってもなァ、ここの事は他言無用なんだよ。言ったらオレ様が処罰されちまう」

「……内密にってのも出来ないのか?」


海ガニ兵士は首を横に振る。


「アンタは知らないかもしれないが、ここの住人にはやたらと耳がいい連中がいるんだ。このオレ様でも、それを掻い潜って禁忌を侵そうとは思えねーな」

「そうか」


それは残念だが、仕方ない。

(他のルートを探すしかないか)

サイモンは周囲を見回しながら、作戦の基盤になりそうなものを目で探すことにした。ふと、廊下の外に見えた物に足を止める。どうした、と海ガニ兵士が足を止める。


「なあ、あれはなんだ?」

「ん? どれだ?」

「あの辺の、少し暗くなっているところに立ってるやつ」


珊瑚が生えていない暗い地には、僅かに白く見えるナニカが数本立っている。柱にも見えなくはないが、それにしては置かれている場所が不規則だ。海の植物という線もあるが、揺蕩っている様子もない。

隣に来たカイリが「ホンマや。幽霊みたいなんがたくさんおる!」と声を上げた。サイモンはその頭を引っぱ叩いておいた。やめろ。アリアが怖がるだろう。


「ああ、あれか。あれは禊だ」

「禊?」


海ガニ兵士はそう告げると、肩らしき部分を落とす。呆れているのはわかるが、やはり人間と比べるとわかりづらい。


「姫様の神域に入って来た挙句、オレ様たちの物を盗もうとした連中を、ああして凍らせて放置しているんだ。人間は放置しておくと狩りつくすまで持ってきやがるからな」

「「「!!」」」


忌々しそうに言う海ガニ兵士に、サイモンたちは目を見開く。

(……なるほど)

つまり、あれは海の神の神域に入って無体を働いた人間の末路なのだろう。これだけ綺麗な物が揃っているのだ。自分達のテリトリーに持って行ったら大金も目じゃないだろう。


「迷い込んだ奴らもいるだろう。そういう奴らはどうしているんだ?」

「あ? そりゃあ当然、オレ様たち兵士が巡回している時にバレないように追い返しているぞ」

「そうなのか」


ちらりと横目でカイリを見る。唇を強く噛んでいる彼の拳は怒りからか、震えている。

(もしかしたら、船員の誰かが誤って手を付けたのかもしれない)

もしくは第三者がそうして持って帰った物を、カイリの船が運悪く運んでいたのか。あるいはカイリの話が嘘だったか。

どちらにせよ、持って帰ってもいいことはないだろう。此処にある珊瑚たちには多かれ少なかれ、海の神の魔力が込められている。感知するのは簡単なはずだから。


「アンタ等もここにあるもんに手ェ出したらああいう風になるから気を付けろよ」

「ああ。……ちなみに、禊は通常どれくらいの期間で解放されるもんなんだ?」

「さぁ、知らねーなぁ。姫様の気分次第なんじゃないか?」


「オレ様もありゃあやり過ぎだっては思うが、姫様がやってることだしなぁ。変に口答えも出来ねーんだ」と続ける海ガニ兵士は、憐れむような視線を向けている。海ガニが憐れに思うほどの時間だ。数年じゃ済まないのだろう。人間の体が朽ち果てる時間など、神には関係ない。

(……神様ってのは、時々非情なほど残酷だな)

サイモンは手すりから身を離し、「足を止めて悪かった。行こう」と告げた。サイモン一行は再び城の中を歩き出す。






城の中は思っていた以上に広かった。

漸く辿り着いたのは、大きな広間。宴に使えそうなほど広いそこは海ガニ兵士曰く客間だそうで、「ここで待っていてくれ」と丁寧に茶を淹れてサイモンたちに告げて行った。どこに行ったのかまではわからない。


「なあ、兄ちゃん。海の神さんってどないな人なん?」


海ガニ兵士の淹れていった茶を有難く飲みつつ、カイリが問う。サイモンはその問いにどう答えるべきかと思考を巡らせる。


「そうだな……一言で言えば、気難しくてプライドがやたらと高い箱入り娘って感じだな」

「それ一言なん?」


一言だろ。息継ぎしてないし。

サイモンは茶を啜った後、茶請けとして置いてあるスルメに手を出した。茶請けとしての組み合わせはいかがなのかと思う反面、同族を食べるような行為は大丈夫なのだろうかと不安に思ってしまう。まあ、出されているのだから大丈夫なのだろうが。

アリアは初めて食べるスルメの触感を楽しんでいるらしい。グレアは強い匂いが駄目なのか、恨みがましそうにサイモンたちを見ていた。何もないのは可哀想なので、サイモンはバッグから干し肉を取り出してグレアに渡しておいた。


「元々人間嫌いってわけでもないし、むしろ人間は好きな部類だぞ。ただ……好きになるのは良いんだが、距離感を間違える奴でな」

「? どういうことなん?」

「あー……好きすぎるが故に愛情が強すぎるっていうか、何でもかんでも手元に置きたくなるタイプというか……」


サイモンはつい言葉を濁してしまう。なんと言えばいいのか。彼女の性格を表現する言葉を、サイモンは知らない。


「でも、一度懐に入れた奴が傷つくのを一番許さない奴だよ」

「……ふぅん。ほな、あんなことしても許したれって言いたいん?」


カイリの言葉に、サイモンはスルメを裂く手を止める。カイリは悔しさを隠すことなく、サイモンを見ていた。……さっきの事がカイリの中で引っかかっているのだろう。

(若いなあ)

元気で何よりだが、サイモンの言葉の意図としては少しずれている。サイモンはスルメを裂くのを再開する。


「いや、あれは神故の感覚だろうな。俺たち人間が悪いことをしたとはいえ、それを一生をかけて償うってのは、簡単な話じゃない。だが、それを海の神はわかっていないし、わからない。神だからな。どうしようもない。だが、君が許せない気持ちもわかる。だから、理解してくれとは言わないし、お前は許さなくてもいい。もちろん許してもいい。君の好きにすればいいさ」

「……あんさん、変わっとるって言われへん?」

「? 言われないなぁ」


しれっと答えたサイモンの横で、アリアがスルメを口に咥えながら首を振る。どうやらよく言われているらしい。


サイモンたちが食事をしながら海ガニ兵士の帰りを待っていれば、扉がノックされた。海ガニ兵士が帰って来たのだろうか。「はい」と応えれば、扉が開く。しかし、見えたのは海ガニ兵士よりも小さい生き物だった。


「やっほー☆ 君たちがカニちゃんの言ってたお客さんたちぃ~? え、めっちゃ人間じゃん! すごぉーい! あーし人間って始めて見たかもぉ!」

「「「えっ」」」

「あははは! すっごい反応! メチャブサなんだけどぉー!」


耳を劈くような甲高い声に、恐ろしく長い鋭利な爪。ぱっちりとした目は大きく、迫力がある。靡くピンク色の髪は緩くウェーブを描いている。その容姿と声のインパクトにはかなり驚いたが、それよりも驚いたのは彼女の下半身だった。


「に、人魚……?」

「あ、あーしのこと知ってんのー? マジ? めっちゃうれぴー」

「うぇっ!?」


呟いたカイリに、ぐっと顔を寄せる彼女。突然のことにカイリが驚き、身を強張らせた。真っ赤な顔の理由はそれだけじゃないみたいだが。

(人魚族なんて見るの、何百年ぶりだ?)

サイモンは内心、久しぶりに見る彼女たちに驚いていた。


――人魚族と言えば、一時期人間の勝手な欲で乱獲された歴史を持つ。故に希少種であり、ほとんどの人魚が未だに人間を深く恨んでいるのが現状だ。

スクルードが世界を統一した時に一番に〝奴隷解放〟と〝戦争の廃棄〟を宣言したが、同時に〝人魚の権利の尊重〟も宣言していた。それくらい人魚族との確執は深く、未だにそれは根深く残っている。

そのため、地上で人魚族を見ることはなく、また人魚族に手荒なことをしていた奴らは全員捕まえて死刑になっているため、次第に人間たちの中ではおとぎ話の存在になっている。


胸元に付けた艶やかな貝殻に、下腹部から繋がる魚の尾。手入れが行き届いているのだろう。鱗一つ一つが綺麗に輝いている。

腕に引っ掛けるようにして着ている上着は意味があるのかないのか。寒そうだな、と内心呟いていれば、彼女のマリン色の瞳がアリアを捕らえた。


「あっれー、女の子もいるじゃん! えー、めちゃ可愛いんだけどぉー!」

「ひゃっ!?」


カイリを押し退け、アリアに抱き着く女性。彼女は「かわいー!」と声を上げ、アリアに頬ずりをする。慣れない出来事に、慌てるアリアの顔が真っ赤に染まった。


「赤い髪めちゃかわなんだけどー! ねえねえ! あーしの妹になんない?」

「あ、あのっ」

「ね? なろー?」


「ねーねー!」と抱き着いたアリアごとユラユラと揺れる彼女は、非常に上機嫌だ。人間との確執を考えれば警戒しても可笑しくないのに、サイモンはその光景に少し驚く。アリアの目が涙を浮かべてサイモンを見上げる。……分かったから。そんな泣きそうな目で見ないでくれ。


「すまないが、その子はそういうのに慣れていないんだ。少し放してやってくれないか?」

「ま!? ごっめーん、あーし全然知らなくって! 嫌いにならないで~!」

「だ、大丈夫です」


パッと離れた彼女に、アリアは目を回しながらコクコクと頷く。ちょっと助けるのが遅かったのかもしれない。

(悪い、アリア)

サイモンは内心謝りつつ、人魚族の彼女を見つめる。何の悪意も感じられない受け答えは、正直好感が持てる。だが、あまりにも悪意がなさすぎるのが気がかりだった。

(人間との確執を知らないのか?)

もしくはそういうことに興味を持っていないのか。どちらにせよ、騙されていないとは限らない。サイモンは警戒をしつつ、席を立つと彼女の元へと歩み寄った。


「サイモンだ。この子はアリア。さっき話していたのがカイリで、あそこでジャーキーを食べているのがグレアだ」

「あーしはマリン。マリーって呼ぶ子もいるよっ☆」


「よろしくね、モンち!」と笑い、手を取るマリン。長い爪に一瞬身構えたが、すぐに杞憂だったと肩を下ろす。

向けられる彼女の笑顔はとても眩しくて、サイモンは面食らってしまう。いろいろと聞きたいことはあるが、それよりも。


「……モンちってなんだ?」

「〝サイモン〟だから、モンち! かわいっしょ?」

「……」


ウインクをする彼女に、サイモンは何も答えなかった。……彼女の言う〝可愛い〟はサイモンにはわからなかった。

(女性からしたら可愛いのか?)

アリアを見るが、特に反応している様子はない。サイモンは考えるのを放棄した。


「それで、マリンはどうしてここに来たんだ?」

「そーだそーだ! 実はカニちゃんがエビセンに捕まっちゃってぇ、その間にここの事を教えるように頼まれたんだよねー」

「エビセン?」

「エピ先輩! カニちゃんの上司なんだよぉ~」


両手でピースを作り、チョキチョキと指先を動かすマリン。

(あいつ、上司に怒られるようなことでもしたのか?)

そういえば門から離れる時、他に兵士がいなかったのに普通にサイモンたちを案内していた気がする。もしかしたらそれが原因かもしれない、なんて考え、サイモンは一人頷いた。

(よし。気づかなかったことにしよう)

巻き込まれるのは御免だ。サイモンは話を進めることにした。


「ここの事を教えるって言っていたけど、粗方あの海ガニから聞いたぞ? 他にも何かあるのか?」

「うーん? どうなんだろ?」


「詳しいことは聞いてないんだよねぇ」と笑う彼女は、流れるようにアリアを抱き締めた。さっきは戸惑っていたアリアも二回目ともなれば慣れて来るのか、虚無の表情でサイモンたちを見ている。助けてやれなくて申し訳ない。

ふよふよと浮いて近寄って来るカイリが、サイモンの肩をちょんちょんと突っつく仕草をする。


「な、なぁ、アレ信じてもええん? なんやめっちゃテキトー感出とるんやけど」

「大丈夫じゃないか? お前と会った時よりはマシだし」

「え!? 俺あんなんよりやばかったん!?」


胡散臭さで言えばカイリの方が圧勝だろう。サイモンは言いそうになった言葉を飲み込んだ。これ以上騒がしくなるのは勘弁願いたい。

(とはいえ、今のところ聞きたいことといえば海の神の事についてくらいだが)

それを聞いて教えてもらえるとは到底思えない。


「マリン、この家? 建物の事を教えてくれないか?」

「? 竜宮城のことぉ? なんで?」

「ここに来るまで見てきたが、此処かなり広いだろ。出来れば要所だけでも把握しておきたいんだ」


サイモンの言葉に、マリンは「ふーん? ま、イイけど」と頷く。その言葉にサイモンは内心でガッツポーズをした。

粗方の場所がわかれば、海の神のいる場所までこっそり辿り着くことも出来るだろう。見たところ、大地の神とは違いダンジョンのようになっているわけではなさそうだし。

(隠し通路に隠れるようなやつじゃないしな)

というかやっぱりここは竜宮城なんだな。


マリンは近くのソファに腰かけると、アリアを隣に座らせた。頭を撫でられているアリアは、どうしたらいいのかわからないという顔をしている。……余程気に入ったのだろう。アリアがいればマリンの機嫌を損ねることはなさそうで、サイモンは安堵した。

マリンは長い爪をした指先を机に付けると、「ここが今の部屋ね」と指先で円を描いた。簡単に地図を書いてくれるらしい。サイモンたちは彼女の手元を覗き込んだ。


「この下はみんなの寝床になってるよぉ。そんでこっち行くとキッチン、こっちに行くとみんなの大浴場があるの。ま、あーしらは人魚は使わないんだけどね。火傷しちゃうから」

「火傷?」

「うん。あーしら人魚はデリケートだからさぁ、ぬるま湯でも火傷しちゃうんだよねぇ」


「だから特別にお風呂が用意されてるの」と言う彼女に、サイモンはなるほどと呟いた。人魚族といえば見た目はもちろんだが、その能力値も高い。泳ぎは世界最速だし、声を使った催眠は人魚族特有の特技みたいなものだ。これには魔法も効かないのだから、恐ろしい。

そんな完璧な存在にも思える人魚族だが、どうやら彼女達にも大変なことはあるらしい。


「あ、カニちゃんたちの宿舎はこっちねー。何かあったらここに駆け込めば大体カニちゃんかエビセンがどうにかしてくれるから!」

「そうか。それは心強いな」

「んで、こっちが――」


マリンの言葉に、サイモンは何度も相槌を打つ。右往左往する会話の中から必要な情報だけを抜き取りつつ、この城の間取りを脳内で完成させていく。広いだけあって覚えきれないところもあるが、要所さえわかっていれば問題ない。


「そんでここが宴会場」

「? この辺りには何があるんだ?」

「あー、やっぱそこ気になっちゃう?」


苦く笑うマリンに、サイモンは頷く。頭の中で間取りを作っていたから余計にわかりやすかった。

その光景を見ていたアリアとカイリが首を傾げる。よくわからないと言わんばかりの視線に、サイモンは苦笑いを浮かべた。


「こっちの方に大きな空間が残されているだろ? たぶん、ここが海の神がいるところなんだろう」

「あ、ほんとだ」

「ホンマや。よぉ気づいたなぁ、兄ちゃん」

「大方の間取りを取れれば、誰でもわかるぞ」

「あ~あ、これだからあーしは向いてないっていったのにぃ」


むうっと口を尖らせるマリン。誤魔化すことも出来たのにそれをしなかったのは、彼女の言う通り誤魔化すのが苦手だったからか、それとも。


「で。それをわざと気づかせて、俺たちに何をして欲しいんだ?」


サイモンはマリンを見つめ、問うた。「単刀直入だねぇ」と笑う彼女は、長い爪先を器用に使って自身のピンク色の髪を指に巻き付けている。


「うーん。何をして欲しいっていうか、助けて欲しいっていうか?」

「? どういうことだ?」


首を傾げるサイモンに、マリンは視線を下げる。その顔はとても意味深で。


「なんて言ったらいいんだろ。……最近ね、海ちゃんがずーっと荒れてるの」

「荒れてる?」

「荒れてるっていうか、悲しんでるっていうか?」


「あーしもよくわかんないんだけど」と笑う彼女に、サイモンは眉を寄せる。


「でもすっごく苦しそうなの。だから少しでも元気づけられればって、毎日宴を開いたり余興をしたりしてるんだけど、最近は部屋からも出てこなくなっちゃって……」

「? 神さんが引き籠っとるってこと?」

「ちょっ、カイリさん。そんな言い方、失礼じゃないですかっ」

「えぇ? ホンマ? そうなん?」


コクコクと真面目な顔で頷くアリア。

それを見て「すまん、そんなつもりはなかってん!」と両手を合わせるカイリに、マリンは「気にしないで~」と穏やかに笑っている。

(あの海の神が引き籠りか……)


「……部屋から出てこなくなったのは、いつ頃からだ?」

「えっ? えーっと。いつだろ。よくわかんないかも」

「じゃあ、引き籠る前に海の神は嵐を起こしていかなかったか?」


サイモンの問いに、彼女はパッと笑みを浮かべる。


「ああ、うん! やってたよぉ。結構大きかったみたいで、あーしらもびっくりしちゃった! それがどうかした?」

「たぶんだけど、その時の嵐は地上でもかなり話題になったんだ。だから時期がわかると思ってな」

「あー、なるほどぉー」


マリンは両腕を組むと、ウンウンと頷く。アリアが声を上げた。


「もしかしてその嵐って、サイモンさんが巻き込まれたやつじゃないですか!?」

「ああ。恐らくな」

「じゃあ海の神様が引き籠ったのって……」


アリアの言葉に頷く。時期を考えると、間違いないだろう。――海の神が引き籠ったのは〝祝福〟が無くなってからだ。

(出来れば杞憂であって欲しかったんだが)

そう上手くはいかないらしい。サイモンはため息を吐いた。


「事情はわかった。それじゃあ、海の神の部屋に案内してくれ」

「えっ!?」

「このままここで話していても埒が明かないだろ」


サイモンはそう告げると立ち上がる。

マリンは目を瞬かせると、ニンマリと笑みを浮かべた。心底嬉しそうな表情に、今度はサイモンが驚いた。


「えへへへ! じゃあマリンが案内してあげるっ☆ ちゃんと着いて来てねぇ~?」

「そ、そうか。それは助かる」


上機嫌に鼻歌を歌う彼女はソファから立つと、宙を泳ぐようにして歩き始めた。カイリみたいだなと思っていれば、宙を浮くカイリを見て「オソロじゃーん!」と絡み始めている。同じ思考回路だったことに少しだけ複雑な心境でいれば、部屋の扉が開けられた。

「早く早く!」と声を掛けられ、サイモンたちは部屋を出た。


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