「本当に、行ってしまうのか?」
「ああ。そろそろこの街も立て直ってきたしな。俺が居なくても大丈夫だろう」
「そうか……」
スクルードの顔が俯く。
寂しさをたたえたその表情に、男は彼の肩を叩いた。
「そんな顔をするな。いつかきっと、また会いに来る」
「……ああ、待っている」
彼の言葉に大きく笑い、玉座のある階段を下りる。
赤いカーペットは塵ひとつも落ちていない、清潔なものだった。この部屋がいかに丁寧に掃除をされているのかが伺える。
「サイモン!」
「ん?」
「……いや。何でもない」
ふるりと首を振るスクルードに「どうかしたのか」と首を傾げれば、「いや。……体に気を付けて」と告げられた。心配性なところは、昔から変わっていないらしい。
「あたりまえだ!」
そう言って笑って拳を上げ、男は今度こそ王城を後にする。
その時、振り返らず王城を去ってしまった自分を、男は後々深く後悔することになるとは知らずに。
むかしむかし。この世界は戦争であふれておりました。
種や地位、性別。世界のすべて。あらゆるものが火種となり、武器を持ちました。
争うことでしか、彼等は互いを知る術を知らなかったのです。
そんな時でした。
一人の少年が彼等を見て言ったのです。「なんてかわいそうなんだ」と。
彼は争いでしか言葉を交わせない彼等を、ひどく憐れみました。
そして、少年はこの世界から争いをなくすため、旅立ったのです。
少年は旅をしました。
世界を見、土地を見、人々を見、他種族の者たちとも言葉を交わしました。
彼等は少年の言葉に懐疑的でしたが、笑顔で接してくる彼に次第に心を開いていきました。
少年は仲間を募りました。
森で出会う魔物を退治するためです。彼はその自由奔放さで、四人の仲間と出会いました。
一人旅はいつしか賑やかになり、少年は前よりよく笑うようになりました。
少年は仲間と一緒に、世界中を回りました。
魔物退治を請け負い、人々の悩みを解決し、いがみ合う異種族の輪を繋げる。世界からは次第に争いがなくなっていきました。
やがて彼は人々から〝英雄〟と称えられるようになりました。争いがなくなったことで、作物が増えたのです。
少年はいつしか〝神〟に仕える、〝神子〟として有名になりました。
〝神子〟となった少年は、余りある力を〝祝福〟として世界中に分け与えたのです。
病が消え、怪我が消え、死への恐怖さえも、彼は消し去ったのです。
世界は歓喜しました。
そして世界から争いは無くなり、平和が訪れました。
――こうして〝少年〟は、世界の〝王〟となったのです。