目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第9話

 四角く切り取られた画面上に、赤い瞳の小さな黒ウサギがいる。黒ウサギは狭い真四角の部屋の中を行ったり来たり、ときおり毛繕いをしたりしてくつろいでいる。

 空間には、大音量でラヴェルの『亡き王女のためのパヴァーヌ』が流れている。

 画面上にドーナツのアバターが現れた。それまで画面上でくつろいでいた黒ウサギの耳が、ぴんと立った。

『黒ウサギの君に依頼したい。家族を奪ったテロリストを殺したいんだ。赤いオオカミの本拠地を突き止めてくれ』

 赤い瞳が、怪しげにすうっと細められる。黒ウサギはカラフルなおもちゃ箱を漁り、真っ赤なボウリングボールを取り出した。

『さぁ、ショータイムの始まりだ』

 黒ウサギは、まんまるの手でボウリングボールを掴み、かまえる。

 画面上には、『LADY』の文字。

 黒ウサギは、持っていたボールを素早くスライドさせた。

『COROCOROCORO……』

 黒ウサギの手から離れたボールは、画面上をまっすぐに滑り、やがて……。

『BAN!!』

 ビィーッとけたたましいアラーム音が鳴り響いたあと、画面が暗転した。

 黒ウサギは今日も、『HAKONIWA』の中で暗躍している。

 * * *

 ――赤い瞳を持つ黒ウサギを見つけたときは、よく目を凝らすべきだ。

 それが敵なのか味方なのか、はたまたそのどちらでもないのか、きちんと見定めなくてはならない。

 見定めるには、影を見ればいい。黒ウサギが微笑んでいるのか、それとも嘲笑っているのか、きちんとその影を見て判断するのだ。

 もしも影が嘲笑っているのなら、追いつかれる前に必死に逃げた方がいい。

 その赤い瞳にとらわれてしまったら、もうおしまいなのだから。

 黒ウサギは、可愛い草食動物などではない。愛でるべきものでもない。それは、笑顔で誰かの血肉を貪り喰らう、冷酷で獰猛な獣なのだ。

 みなさん、街中で美しい瞳の黒ウサギを見かけたら、くれぐれも気を付けて。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?