(休日なのに、クラスメイトと過ごしている……なんだ、この異常事態。おかしなことになった)
いきさつは当然分かっているのだが、なんとも腑に落ちない。
俺は、そんな思いがありながらも、ノートにペンを走らせ続ける。
今日は土曜日。約束していた勉強会が行われている。
俺の家の、俺の部屋で。
勉強会は、仲のいい人同士でやるのが普通だと思うのだが、目の前で勉強をしているのは、あまり話したことのないクラスメイトたち三人。
それも全員異性。
横に座っているのは
そんな相手から勉強会の誘いが来たのは昨日のこと。
美沙が俺に話があるといって、俺の席まで来て、呼び出しを受けた。
場所を変えて話すことになり、向かったのは、人気があまりない廊下。
そのとき誘われたのが、今日の勉強会。
急に『勉強会をしないか』と切り出されたのだ。
とても驚いた。
なんせ今回も、前回と同様、花菜絡みの内容かと思って行ったのだから。
もっと驚かされたのは、数分間の会話うちに、いつの間にかやる方向になっていたことだ。
(俺の部屋でやるなんて聞いてませんけど!?)
俺は心のなかで叫ぶ。もちろん、問題を解く手は止めずに。
てっきり、図書館かなんかで勉強するものかと思っていたのだから、朝にメッセージが送られてきたときには驚いた。
(俺の部屋でやる意味は……?)
そう思ったが、どんなに考えても、俺は勉強会というものをしたことがない。
経験豊富そうな彼女に合わせるのが良いだろう。
(散らかっているわけでもないしな)
日頃から姉さんに、部屋は「綺麗にしておくべき」と言われているので、散らからないようにしている。
それに、部屋が綺麗だと気持ちいい。
(これが、こんな形で役立つとはな)
心のなかで、感謝した。
本人には言わない。
◇
「ねえ、これ、どうやって解くか分かる?」
「私も教えてー」
勉強を始めて一時間ほど。何回目か分からない、教えてコール。
三人とも頻繁に質問してくるものだから、全然集中できていない。
教えることも勉強になるから、鬱陶しいわけではないが。
「これは――」
教える度に、距離が必要以上に近い気がするが、他意はないのだろう。
特に美沙は、横にいるのもあって、距離が近い。
もともとは前に座っていたのだが、教えてもらうたびに移動するのは面倒だからと横に移動していた。
(意識したらダメだ。ダメだ……。ダメだ……………)
だから、俺は意識しないように務めるのだが
(やっぱり無理だ)
ことごとく失敗するのだった。
なお、今まで全敗。
(それにしても……もう一人が来るって行ってたが、誰なんだ……?)
彼女の話だと、誘っていた人のうち、一人が遅れて来ると言うのだが……。
一体、誰が来るのだろうか。
◆
『潜入に成功しそう』
そんなメッセージが送られてきたのは朝のことだった。
潜入というのは、昨日、美沙に話した作戦のこと。
「
という作戦。
悠一に彼女がいるかはっきりさせるこの作戦を、美沙は快く引き受けてくれた。
善は急げということで、美沙は、今日にもその作戦を実行してくれる。
(勉強会の約束を一日で取り付けるなんて……)
私は、美沙の凄さを実感する。
彼女が本気になれば、悠一は彼女にメロメロになってしまうだろう。
そうはいっても、悠一に彼女がいるかもしれないと伝えているので、そんなことはないのだが。
私は「悠一に彼女がいない」という僅かな可能性に期待を持ちつつ、半ば諦めの気持ちで美沙からの連絡を待つ。
◆
私は、気を紛らわすために小一時間ほど勉強していた。
勉強のペースは遅く、進んだのはニページだけ。それも、標準的な問題。
(私も参加すれば良かったかな……)
現実を受け止められる気がしなくて、私は勉強会には参加せず、美沙たちに任せることにした。
仮に、悠一の彼女の私物やツーショット写真を見つけたとしよう……
そうしたら、私は勉強を続けようとは思えない。
(十一時か……。ってことは、一時間半も経過してるってことだよね)
美沙からの連絡が一向に来ない。
もうとっくに判明しているだろうに。
(途中で抜けて連絡するって言ってたのに……)
私は、あの人が悠一の彼女だったのか気になって仕方ない。
(もし、悠一に彼女がいたら……って、あっ!)
私の頭には、この状況をうまく説明できる仮説が浮かぶ。
悠一に彼女がいなかった――そんな事実が判明した…………もし、そうなら?
(もし、悠一に彼女がいないのなら……)
もう一つ私の頭に浮かぶのは、予想外&最悪のシナリオ。
(もし、美沙たちの中の誰かが悠一を好きだとしたら……?)
この仮説なら、美沙が連絡をしてこないのも頷ける。
確証を得るため、美沙だけでなく、悠一にもメッセージを送る。
(このシナリオが正しいとしたら、いまごろ、美沙たちと悠一は……)
私は、居ても立っても居られなくなって、家を飛び出していた。
(何で自分が行かなかったの……? どうして早く気が付かなかったの私!)
油断していた。
気が付かなかった。
そこまで頭が回っていなかった。
私は一分一秒でも早く着くために全速力で住宅街を駆け抜ける。
一昨日の記憶を頼りに悠一の家へと。