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第5話 何かがおかしい

(休日なのに、クラスメイトと過ごしている……なんだ、この異常事態。おかしなことになった)


 いきさつは当然分かっているのだが、なんとも腑に落ちない。


 俺は、そんな思いがありながらも、ノートにペンを走らせ続ける。


 今日は土曜日。約束していた勉強会が行われている。

 俺の家の、俺の部屋で。


 勉強会は、仲のいい人同士でやるのが普通だと思うのだが、目の前で勉強をしているのは、あまり話したことのないクラスメイトたち三人。

 それも全員異性。


 横に座っているのは美沙みさ。一昨日、初めて話をして連絡先を交換した相手だ。


 そんな相手から勉強会の誘いが来たのは昨日のこと。

 美沙が俺に話があるといって、俺の席まで来て、呼び出しを受けた。

 場所を変えて話すことになり、向かったのは、人気があまりない廊下。


 そのとき誘われたのが、今日の勉強会。

 急に『勉強会をしないか』と切り出されたのだ。


 とても驚いた。

 なんせ今回も、前回と同様、花菜絡みの内容かと思って行ったのだから。

 もっと驚かされたのは、数分間の会話うちに、いつの間にかやる方向になっていたことだ。


(俺の部屋でやるなんて聞いてませんけど!?)


 俺は心のなかで叫ぶ。もちろん、問題を解く手は止めずに。


 てっきり、図書館かなんかで勉強するものかと思っていたのだから、朝にメッセージが送られてきたときには驚いた。


(俺の部屋でやる意味は……?)


 そう思ったが、どんなに考えても、俺は勉強会というものをしたことがない。

 経験豊富そうな彼女に合わせるのが良いだろう。


(散らかっているわけでもないしな)


 日頃から姉さんに、部屋は「綺麗にしておくべき」と言われているので、散らからないようにしている。

 それに、部屋が綺麗だと気持ちいい。


(これが、こんな形で役立つとはな)


 心のなかで、感謝した。

 本人には言わない。



 ◇



「ねえ、これ、どうやって解くか分かる?」

「私も教えてー」


 勉強を始めて一時間ほど。何回目か分からない、教えてコール。

 三人とも頻繁に質問してくるものだから、全然集中できていない。


 教えることも勉強になるから、鬱陶しいわけではないが。


「これは――」


 教える度に、距離が必要以上に近い気がするが、他意はないのだろう。

 特に美沙は、横にいるのもあって、距離が近い。


 もともとは前に座っていたのだが、教えてもらうたびに移動するのは面倒だからと横に移動していた。


(意識したらダメだ。ダメだ……。ダメだ……………)


 だから、俺は意識しないように務めるのだが


(やっぱり無理だ)


 ことごとく失敗するのだった。

 なお、今まで全敗。


(それにしても……もう一人が来るって行ってたが、誰なんだ……?)


 彼女の話だと、誘っていた人のうち、一人が遅れて来ると言うのだが……。

 一体、誰が来るのだろうか。



 ◆



『潜入に成功しそう』


 そんなメッセージが送られてきたのは朝のことだった。

 潜入というのは、昨日、美沙に話した作戦のこと。


悠一ゆういちの部屋に潜入して、彼女の痕跡を調べる」


 という作戦。

 悠一に彼女がいるかはっきりさせるこの作戦を、美沙は快く引き受けてくれた。


 善は急げということで、美沙は、今日にもその作戦を実行してくれる。


(勉強会の約束を一日で取り付けるなんて……)


 私は、美沙の凄さを実感する。

 彼女が本気になれば、悠一は彼女にメロメロになってしまうだろう。


 そうはいっても、悠一に彼女がいるかもしれないと伝えているので、そんなことはないのだが。


 私は「悠一に彼女がいない」という僅かな可能性に期待を持ちつつ、半ば諦めの気持ちで美沙からの連絡を待つ。



 ◆



 私は、気を紛らわすために小一時間ほど勉強していた。

 勉強のペースは遅く、進んだのはニページだけ。それも、標準的な問題。


(私も参加すれば良かったかな……)


 現実を受け止められる気がしなくて、私は勉強会には参加せず、美沙たちに任せることにした。


 仮に、悠一の彼女の私物やツーショット写真を見つけたとしよう……

 そうしたら、私は勉強を続けようとは思えない。


(十一時か……。ってことは、一時間半も経過してるってことだよね)


 美沙からの連絡が一向に来ない。

 もうとっくに判明しているだろうに。


(途中で抜けて連絡するって言ってたのに……)


 私は、あの人が悠一の彼女だったのか気になって仕方ない。


(もし、悠一に彼女がいたら……って、あっ!)


 私の頭には、この状況をうまく説明できる仮説が浮かぶ。

 悠一に彼女がいなかった――そんな事実が判明した…………もし、そうなら?


(もし、悠一に彼女がいないのなら……)


 もう一つ私の頭に浮かぶのは、予想外&最悪のシナリオ。


(もし、美沙たちの中の誰かが悠一を好きだとしたら……?)


 この仮説なら、美沙が連絡をしてこないのも頷ける。

 確証を得るため、美沙だけでなく、悠一にもメッセージを送る。


(このシナリオが正しいとしたら、いまごろ、美沙たちと悠一は……)


 私は、居ても立っても居られなくなって、家を飛び出していた。


(何で自分が行かなかったの……? どうして早く気が付かなかったの私!)


 油断していた。

 気が付かなかった。

 そこまで頭が回っていなかった。


 私は一分一秒でも早く着くために全速力で住宅街を駆け抜ける。

 一昨日の記憶を頼りに悠一の家へと。

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