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第4話 またもや避けられてる?

(姉さん……)


 玄関先で俺が見かけたのは、座り込んでいる姉。

 姉さんもこちらに気が付いたようで目が合う。


「姉さん、また鍵忘れたのか?」

「まあね」


 姉さんは悪びれる様子もなく答える。


「2ヶ月くらい前も忘れてたよな」

「うん。だから泊めて」

「学習しろよ!」


 これが初めてのことであれば、何も思うところがないのだが。


「いいでしょ、減るもんでもないし」

「それはそうだが……」

「一緒にお風呂入るって条件なら良いかな〜?」

「どうしてそうなる!」

「子供の頃は一緒に入ったでしょ」


(やっぱり酔ってるな)


 酒臭いわけでは無いが、やはり酔っているらしい。

 顔が赤かったから、そうかなとは思っていたが。

 酔っぱらいには冷静に、言い切るように言うのが一番。


「子供の頃の話だろ。そんなことしなくても、一晩くらいなら泊めるか――」


 言い終わりかけたところで、姉さんが倒れた。

 正確に言えば、姉さんが俺に倒れてきた。

 倒れてきた姉さんは今、寝息を立てている。


(立ったまま寝るな!)


 どれだけ寝不足なのだろうか。

 心配だが、今は起こさなければならない。


「起きろ!」

「あと十分……」

「朝じゃないからな!」

「お姫様だっこで運んでぇ」

「…………」


 俺は、こんな様子の姉の相手を、何とか最後までやり遂げ、姉さん自身の足で室内へと向かわせることができた。


 酔っぱらいかつ、寝ぼけている姉さんの相手はなかなか大変だった。


(この前も、似たような感じだった気が……。もしや……)


 鍵を置き忘れてなどいなくて、ただ家に帰るのが面倒なだけなのでは、という可能性が浮かんだ。


(ひ、否定できねぇ)



 ◆



(あれって……)


 部活を終えた私は、家へと向かっていた。


 普段と変わらない風景の住宅街でたまたま見かけたのは、私の真正面にいる、二人の人影。

 一人は友達。もう一人は……

 二人は玄関前で何やら話しているようだ。

 それもなにやら親しげに……


 今日の放課後のことが思い起こされる。

 嫌でも感じてしまう。あのときの感じ。


 私は、あの感情を感じながら二人の様子を見ていた。


 私の頭の中は大混乱していた。


(だ、抱きついてない!?)


 あの二人は抱きついていたのだから。

 どう見ようとも、抱き合ってるようにしか見えない。

 好きな人が誰かと抱きついている姿を見て、混乱しない人などいないだろう。


(というか……悠一ゆういちと抱きしめ合っているあの人、悠一の彼女さんだよね……)


 彼女でないと思いたい。


 だが、あの距離感でカップルでないと主張するのは無理がある。

 慣れてそうなあの感じも、普段からラブラブだと思わせる。


 あの人の顔が赤くなっているのが分かった。

 それに、彼女は目を閉じて、なんとも幸せそうな表情をしていた。

 そんな彼女を前に悠一はどんな表情をしているのだろう。


 私は、思わず足を止めてしまっていたという事実に気が付き、歩き始める。

 早くこの場を離れたいと思うのに、足取りは重い。


(やっぱり悠一、彼女いたんだ……)


 もしかしたらとは思っていたが、実際に見てしまうと辛い。


(プレゼントをくれて浮かれてたけど、あのプレゼントは……)


 私は、彼のセンスの良さを知った気でいたけれど……


(もしかして、デートのついでだったのかな……)


 悠一に彼女がいると判明したことで合点がいった。

 私はそんな、想像してもきりがないことをずっと考えていた。


 翌日、心のなかで叫ぶことになるとは知らずに。

 その内容は、もちろん「どう接したらいいのか」というもの。



 ◇



(もしや、避けられてる……? 誤解は解けたよな!?)


 この状況、少し前のアレと同じだ。つまり、二回目。

 数日前のあの日以来、関係が元通りになっているのではないかと思っていたが……


 避けられているといっても、あのときみたいに、丸一日話さないわけでもないし、メッセージでのやりとりも続いている。


 前回とは違う。

 だが、避けられている気がする。

 話すときに少し距離を感じたり、一回あたりの会話時間が少なくなったり。


 メッセージでいえば、一言で返されることが多くなった。一ターンで終わってしまうから、確実にメッセージの回数も減っている。

 ――夜、返信できなかったというのもあるが。姉さんの相手に疲れて熟睡していたし


 あからさまに避けられているわけでは無い。

 だからこそ、何が原因なのか――


 誕生日の件みたいに、無意識的に、俺は何かをしてしまったのではないか。

 そんな、考えてもきりがないことをずっと考えていた。


 本当に避けられているのかも定かではないのだが。

 勘違いと言われてしまえばそれまでだ。



 ◆



「お願いがあるんだけど」


 私は、美沙みさにある作戦を実行してもらうように頼む。


 私には、その作戦をすることができないし、できたとしても、失敗する……と思う。

 美沙ならこういうのは得意そう。


 いきなり、お願いしても「?」って感じになるだろうから、私はまず、簡単な経緯を伝える。



 昨日、私が知ってしまった衝撃の事実から始めて、悠一とどう接すればいいのかわからずにいたこと。

 今朝も悠一が話しかけてくれたこと。

 どうすればいいか分からず、素っ気なく返してしまったこと。

 私は、悠一との適切な距離感が分からなかったことも話した。



 今まで通りでいいのか。

 それで悠一の彼女は納得するのか。

 そして、この選択が私自身が納得できるのか――

 そんな私の感情まで、美沙に伝えた。



 一通り、事情を話すと彼女はあっさり承諾してくれた。

 美沙は「本当に私に頼んで良いのか」尋ねてきたが、私の決意は変わらない。

 全ては真偽を確かめるためだと割り切って――

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