(
私は、
思い返すのは朝、あの話を友達の美沙たちにしたときのこと。
(あーあ、何でこんなことになっちゃうのかな……)
自分が原因なんだから自業自得なんだが。
(それにしても、なんで言っちゃったんだろう……)
自分自身に問いかけるが、答えなんて分かりきっている。
浮かれていた。
悠一が遅れながらも誕生日プレゼントを渡してくれた。
そして何より、悠一は誕生日を忘れていたわけではなかったのだ。
嬉しかった。
友達に話したくなるくらい。
勘違いが解けて、心から良かったと思った。
このことを誰かに伝えたくて、思わず話した。
そしたら美沙は言ったのだ。
「興味が湧いたから話しかけてみよう」と。
そのとき、少し後悔したが、気まぐれな美沙のことだから結局、話しかけないかもって思っていたら……
今日、悠一と親しげに話していたのは、美沙だけではない。
悠一が、他の女子とも親しげに会話をしていたのを私は見た。
(なんで、このタイミングでモテ始めるのかなぁ。それも急に)
今まで、大丈夫だと思っていた。
悠一は自分から人と関わろうとするタイプじゃないし。
だから、油断していた。
迂闊だった。
(悠一がモテるなんて、当たり前のことだけどさ……)
私はなんとも言えない気持ちで悠一を見つめ続けていた。
(というか、悠一って本当に彼女いないのかな……? いないほうがおかしいよね。いてほしくはないけど。いたら、もう話せないよ……)
悠一は、私がこんなことを思って見つめているなんて、夢にも思わないだろう。
視線が向けられていることにすら気が付いていないだろうし。
◇
今、俺の目の前にはクラスメイトの女子がいる。
ほとんど関わりがない女子。
見たことはあるのだが、話した記憶はない。
だから、「はじめまして」なのだろう。
(そういえば、花菜《かな》とよく一緒にいた気が――。昨日も見かけた気がする)
何人もいたから、よくは覚えていないのだが。
(それにしてもなぜ?)
俺が疑問に思うのは、なぜ俺に話しかけてくるのかということ。
理由は……分からないが、友好的に接してくれていることは分かる。
そう接してくれるのは、正直言ってありがたい。
(どんなきっかけがあってだ? きっかけがないなら話そうとしないよな……)
「私が、なんで君に話しかけているのか気になる感じ?」
察しが良くて助かる。
察しが良すぎる気もするが。
「はい。そうですね。あまり関わりがないですから」
やはり、人と話すのは苦手だ。特に、一対一であれば。
初対面なんて以ての外。
花菜なら気楽に話せるんだけどな。
「それはね――」
もったいぶってから、彼女は俺の耳元で言う。
「君の渡したプレゼントが気になったから」
「花菜から聞いたんですか?」
「察しが良いみたいで良かったよ」
「で、聞きたいことはなんですか?」
「いや、あれ、本当に君が選んだものかなって。花菜は喜んでたみたいだから良かったけどね。それに……プレゼントが遅れたのもなにか理由があったからだと思ってさ」
彼女は、俺の渡したものが誕生日プレゼントだと思っているみたいだが、それを除けば、彼女の推理は見事なものだった。
花菜の話からそこまで想像を広げられるのだなと感心する。
「例えば、誰かにアドバイスもらったから遅れた、とか?」
「姉さんが付き添いで……」
「やっぱり。お姉さん、忙しい人なの?」
(どうしよう……)
彼女と話していたら、話はどんどん先へ進んでいってしまう。
誤解を解くのは今しかない。
誤解を解こうとする俺だったが、頭に一つの疑問が生じた。
(彼女と、花菜自身の誤解を解くべきか?)
本当のことを言うならば、「あれは誕生日プレゼントではない」というべきだ。
もし、そうしたら「誕生日プレゼントをあげた」ということではなくなり、話がややこしくなるばかりか、彼女との関係が後退してしまうかもしれない。
(どうするべきか――)
(黙っているのも気が引けるし、でも、関係が冷え込むことになるのは……)
「ねぇ美沙、そろそろ部室に向かって準備したほうが良いんじゃない? 他の子も部室に向かってるよ」
誤解を解くべきか悩んでいたら、花菜が彼女に向けて呼びかけた。
「そうだった。ごめんね、悠一くん。この話はまた後で――これ、登録しておいてね。あと……この話は花菜には言わないようにねー。もちろん、連絡先を交換したことも」
彼女の連絡先が書かれた紙だけを渡され、彼女は行ってしまった。
◆
私は、美沙と部室に向かう。
(ちょっと不自然だったよね……)
時間が迫っていたのは事実だが、時間はもう少しあった。
それでも二人の話を遮ったのは……
「花菜? 部室通り過ぎてるけど……?」
「本当だね……。ちょっとぼうっとしてて……」
「なにか気になることでも?」
「うん」
「なにが気になってたの?」
私は言うか迷ったが、聞かなければ、またぼうっとしてしまうだろうから。
「なに話してたの?」
「やっぱり気になるんだね。もしかして、嫉妬かな?」
「そんなわけないでしょ! そんなのはいいから……で、なに話してたの?」
「もちろん、悠一くんに興味が湧いたから話してただけだよ〜」
「どんな内容?」
やはり内容が気になる。
「趣味の話とか」
濁されたなと思いつつ、美沙の話の続きを聞く。
「結構盛り上がったから、連絡先も交換したんだ」
「へぇ〜」
(私なんて中学生の時から連絡取ってるし……)
私は、もう連絡先を交換した二人に危機感を覚える。
だって、私が悠一と連絡先を交換したのは、話すようになってから半年後くらいなのだから。
(二人が、私の知らぬ間に関係を深めちゃったらどうしよう……)
私は、そんな不安を抱えながら、部室に入るのだった。
その後の部活は、いつも通り楽しかった。
――いや、いつも以上に楽しかったと思う! 何でかは知らないけど!