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第3話 モテ期到来!?

悠一ゆういちがモテ始めた……)


 私は、美沙みさに話しかけられている悠一を遠くから見つめる。


 思い返すのは朝、あの話を友達の美沙たちにしたときのこと。


(あーあ、何でこんなことになっちゃうのかな……)


 自分が原因なんだから自業自得なんだが。


(それにしても、なんで言っちゃったんだろう……)


 自分自身に問いかけるが、答えなんて分かりきっている。


 浮かれていた。

 悠一が遅れながらも誕生日プレゼントを渡してくれた。


 そして何より、悠一は誕生日を忘れていたわけではなかったのだ。

 嬉しかった。

 友達に話したくなるくらい。


 勘違いが解けて、心から良かったと思った。

 このことを誰かに伝えたくて、思わず話した。


 そしたら美沙は言ったのだ。

「興味が湧いたから話しかけてみよう」と。


 そのとき、少し後悔したが、気まぐれな美沙のことだから結局、話しかけないかもって思っていたら……


 今日、悠一と親しげに話していたのは、美沙だけではない。


 悠一が、他の女子とも親しげに会話をしていたのを私は見た。


(なんで、このタイミングでモテ始めるのかなぁ。それも急に)


 今まで、大丈夫だと思っていた。

 悠一は自分から人と関わろうとするタイプじゃないし。

 だから、油断していた。

 迂闊だった。


(悠一がモテるなんて、当たり前のことだけどさ……)


 私はなんとも言えない気持ちで悠一を見つめ続けていた。



(というか、悠一って本当に彼女いないのかな……? いないほうがおかしいよね。いてほしくはないけど。いたら、もう話せないよ……)


 悠一は、私がこんなことを思って見つめているなんて、夢にも思わないだろう。

 視線が向けられていることにすら気が付いていないだろうし。



 ◇



 今、俺の目の前にはクラスメイトの女子がいる。

 ほとんど関わりがない女子。

 見たことはあるのだが、話した記憶はない。

 だから、「はじめまして」なのだろう。


(そういえば、花菜《かな》とよく一緒にいた気が――。昨日も見かけた気がする)


 何人もいたから、よくは覚えていないのだが。


(それにしてもなぜ?)


 俺が疑問に思うのは、なぜ俺に話しかけてくるのかということ。


 理由は……分からないが、友好的に接してくれていることは分かる。

 そう接してくれるのは、正直言ってありがたい。


(どんなきっかけがあってだ? きっかけがないなら話そうとしないよな……)


「私が、なんで君に話しかけているのか気になる感じ?」


 察しが良くて助かる。

 察しが良すぎる気もするが。


「はい。そうですね。あまり関わりがないですから」


 やはり、人と話すのは苦手だ。特に、一対一であれば。

 初対面なんて以ての外。


 花菜なら気楽に話せるんだけどな。


「それはね――」


 もったいぶってから、彼女は俺の耳元で言う。


「君の渡したプレゼントが気になったから」

「花菜から聞いたんですか?」

「察しが良いみたいで良かったよ」

「で、聞きたいことはなんですか?」

「いや、あれ、本当に君が選んだものかなって。花菜は喜んでたみたいだから良かったけどね。それに……プレゼントが遅れたのもなにか理由があったからだと思ってさ」


 彼女は、俺の渡したものが誕生日プレゼントだと思っているみたいだが、それを除けば、彼女の推理は見事なものだった。

 花菜の話からそこまで想像を広げられるのだなと感心する。


「例えば、誰かにアドバイスもらったから遅れた、とか?」

「姉さんが付き添いで……」

「やっぱり。お姉さん、忙しい人なの?」


(どうしよう……)


 彼女と話していたら、話はどんどん先へ進んでいってしまう。

 誤解を解くのは今しかない。

 誤解を解こうとする俺だったが、頭に一つの疑問が生じた。


(彼女と、花菜自身の誤解を解くべきか?)


 本当のことを言うならば、「あれは誕生日プレゼントではない」というべきだ。

 もし、そうしたら「誕生日プレゼントをあげた」ということではなくなり、話がややこしくなるばかりか、彼女との関係が後退してしまうかもしれない。


(どうするべきか――)

(黙っているのも気が引けるし、でも、関係が冷え込むことになるのは……)


「ねぇ美沙、そろそろ部室に向かって準備したほうが良いんじゃない? 他の子も部室に向かってるよ」


 誤解を解くべきか悩んでいたら、花菜が彼女に向けて呼びかけた。


「そうだった。ごめんね、悠一くん。この話はまた後で――これ、登録しておいてね。あと……この話は花菜には言わないようにねー。もちろん、連絡先を交換したことも」


 彼女の連絡先が書かれた紙だけを渡され、彼女は行ってしまった。



 ◆



 私は、美沙と部室に向かう。


(ちょっと不自然だったよね……)


 時間が迫っていたのは事実だが、時間はもう少しあった。

 それでも二人の話を遮ったのは……


「花菜? 部室通り過ぎてるけど……?」

「本当だね……。ちょっとぼうっとしてて……」

「なにか気になることでも?」

「うん」

「なにが気になってたの?」


 私は言うか迷ったが、聞かなければ、またぼうっとしてしまうだろうから。


「なに話してたの?」

「やっぱり気になるんだね。もしかして、嫉妬かな?」

「そんなわけないでしょ! そんなのはいいから……で、なに話してたの?」

「もちろん、悠一くんに興味が湧いたから話してただけだよ〜」

「どんな内容?」


 やはり内容が気になる。


「趣味の話とか」


 濁されたなと思いつつ、美沙の話の続きを聞く。


「結構盛り上がったから、連絡先も交換したんだ」

「へぇ〜」


(私なんて中学生の時から連絡取ってるし……)


 私は、もう連絡先を交換した二人に危機感を覚える。

 だって、私が悠一と連絡先を交換したのは、話すようになってから半年後くらいなのだから。


(二人が、私の知らぬ間に関係を深めちゃったらどうしよう……)


 私は、そんな不安を抱えながら、部室に入るのだった。

 その後の部活は、いつも通り楽しかった。

 ――いや、いつも以上に楽しかったと思う! 何でかは知らないけど!

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