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第2話 お詫びの品

『大丈夫そう?』


 昼食を食べていると、姉さんから、メッセージが送られてきた。


「大丈夫じゃな」と打ち込み、バックスペースを連打。


 大丈夫じゃないことは事実なのだが、それを肯定するのは躊躇われた。

 今日も今日とて、避けられているのだが、大丈夫じゃないと言ったら、本当に「大丈夫じゃなくなる」ような気がして。


 現時点でも、大丈夫、と胸を張っていえない状況ではあるのだが。

 それに、相談している時点で大丈夫じゃないと認めているようなもの。それでも、相談したこと自体は正解のはず


 だから『遅れずに行くよ』とだけ送信して、お茶を濁しておいた。


 姉さんも何か察したのか、姉さんからの返信は『了解』というスタンプだけ。

 びっくりするぐらい返信が早かった。



 ◇



 放課後、俺がいたのはショッピングセンターの前。

 学校近くにあるショッピングセンターで、姉さんが提案してくれたところだ。ここなら品揃えも豊富。


 プレゼントの候補を絞りながら、姉さんを待っていた。

「なんとかする」という決意と「大丈夫になる」という期待を込めながら。



 しばらくして姉さんが来て、プレゼント選びを始める。

 姉さんはというと、ショッピングする気満々。

 どうなることやら


 姉さんに意識を取られている間、そこそこの時間が経過していた。


 ゆっくりしている時間はない。少なくとも俺には。

 足早に店を見て回る。



 色々な店に入り、選んでは姉さんからのダメ出し、選んではダメ出しの繰り返しだった。


 自分でも分かっている。

 自分のセンスの無さは。嫌と言うほど


 心配されるほどにセンスがないことなんて、とっくに自覚している。

 だから、姉さんと来て正解だとつくづく思うのだった。



 何軒か店を回り、何度ダメ出しされたか分からなくなってきた頃、ようやく「まあいいんじゃない」が出た。


 その間に姉さんの買った商品の量も増大していったのだが。あら不思議。

 それと同時にに、いつの間にか数時間が経過していたのに気が付き、どっと疲れが出た。



 プレゼントを買って帰宅――とはならず、俺は絶賛、姉さんの荷物持ちと化していた。

 姉さんの想定通りに事が運んだような気がしなくもないが


 結構多いなと思いつつ、表札に「杉本」と書かれている部屋の前まで運ぶ。


 そこで、改めてお礼を言い、家へと帰るのだった。



 今日買ったプレゼントが関係修復の助けになればいいと思う。

 それに――原因を聞き出さないとな



 ◇



(それにしてもいつ渡そうか)


 翌日のホームルーム前、俺は頭を悩ませていた。

 もちろん、プレゼントに関することで。

 渡すタイミングをどうしようかと、思案する。


(昨日みたいに放課後――いや、また囲まれてるだろうし、今日も電話をするのは……)


 みたいな感じで考えて考えて考える。


 結果、シンプルな結論へと辿り着いた。



 放課後に渡す。


 これが最適だろう。



 そう決まったものの、呼び出せないまま放課後を迎えてしまう。


 今日も今日とて、花菜かなの周りに集まっていた人は少なくなっていき、花菜は部室へ。


(今日こそは直接)



新井あらい!」

「何? 前も言ったけれど、杉本すぎもとは何も悪いことしてないよ……」


 そんなはずはない。

 絶対に、俺は「なにか」をしてしまった。


 プレゼントを渡したところで、どうにもならないかもしれない。

 それでも、手がかりを掴まないことには――


 だから、プレゼントを渡す。


「やらかして悪い!」


 数秒して、彼女が受け取ったタイミングで顔を上げる。


「祝うのが遅れたからって、機嫌取るために誕生日プレゼント?」


 花菜から返ってきた言葉には「誕生日」という予想外のワードが入っていた。

 はてさて、誕生日がこの出来事になにか関係しているのだろうか。


(誕生日……誕生日……? あれ? 祝ったよな? ちょうど六日前に。メッセージ、送ったよな?)


 花菜の「祝うのが遅れた」という言葉が引っかかる。

 数日前の彼女の誕生日には、例年通りメッセージを送ったのだが……


「メッセージ、送られてきてなかったのか」

「ええ」


「ちょっと、待ってくれ」


 そんなことはないと思いつつ、断りを得てから確認。

 そして、俺はメッセージを確認して唖然とすることになる。


「(ち、父親に送ってる……)」


(いや、ミスりすぎやろ)


 自分の間抜けさに呆れて、独り言みたいな小さな声とため息しか出てこない。


「ごめん……メッセージ、送る相手、間違えてたわ……。本当にすみませんでした」


 俺は、自分のミスを素直に認め、頭を下げる。


「ほんとよ」


(終わったわ)


 そう、思わざるを得なかった。



 ◆



「新井!」


 私は、悠一ゆういちに声をかけられる。

 急に声をかけられてドキッとする。それだけではないのは、自分でも明白なのだけれど。


「何? 前も言ったけれど、杉本は何も悪いことしてないよ……」


 彼の言いたいであろうことは分かっているので、本当に知らないような態度をとる。



「やらかして悪い!」


 そう言われて目の前に差し出されたのはラッピングされた小物――プレゼントだろうか。


「祝うのが遅れたからって、機嫌取るために誕生日プレゼント?」


 遅れながらも誕生日を祝おうとしてくれて嬉しいという気持ちもあった。

 それも確かにあったのだが、口から出てきた言葉は、悠一を責める言葉だった。


(なんでこんなにキツくあたっちゃったの……)


 自分でも分かっている。その原因が何かだなんて。

 原因は――要するに嫉妬だ。


(ただ、自分だけが祝われないのが少し寂しかっただけなのに……。〝あの子〟や〝あの子〟みたいにちゃんと誕生日を祝われたいってだけなのに……)


「メッセージ、送られてきてないのか?」


 きょとんとした様子で言う悠一に「ええ」と短く答えておく。


「ちょっと待ってくれ」


 そういって、悠一はスマホを取り出して、操作を繰り返す。


「ごめん……メッセージ、送る相手、間違えてたわ……。本当にすみませんでした」


 そう言って、深々と頭を下げる彼を見ていると、申し訳ない気持ちが湧いてくる。

 それとともに、こんな態度をとる自分が嫌になる。


「ほんとよ」


 この言葉に続いて、私の本心が漏れ出す。


「(忘れてたと思ったじゃない……)」


 その後、お互いの誤解がとけた。



 ◆



(あいつのプレゼントにしてはセンスいいじゃない!)


 家に帰った私は、悠一から貰ったプレゼントを見て、そんな感想を抱く。

 私は、プレゼントが嬉しくて嬉しくて、明日、友達に話してみようと思った。


 それはそれとして、私は一つだけ気がかりなことがあったのだが、直後にそれを否定した。

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