目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第27話 世辞はいいから情報をくれ

 彼女の言葉を待っていたのだが、いきなり弓を構えて光の矢を作り出した。


「汚染獣の話は、あれを倒してからにしましょう」


 天に向けて矢を放った。ぐんぐんと上昇して一定の距離に達すると落ちていく。その先には五メートルほどの触手があった。テカテカと光っていて相変わらず気持ち悪い。


「汚染獣の一部がこんなところにも?」

「山脈を警備させるために置いたんだと思います。知能が高いですね」


 俺らが話している間に光の矢は触手に当たる。


 強い光属性の力が込められているみたいで一瞬にして触手を消滅させた。


「その弓は魔道具みたいだな」

「はい。光属性が付与されております」


 さすが光教会、過去の勇者に協力してもらって汚染獣対策の武器を作っていたようだ。


 瘴気のことを考えれば剣や槍、斧といった接近戦用ではなく、弓という遠距離武器にしたのも賢い。安全に戦える。


 これなら勇者がいなくても多少は対抗できるだろう。


「ただこれも万能ではありません。魔力の消費量が大きいので多用はできないんです」

「適性がないと使い勝手が悪い属性だからな」


 数は少ないが世界中に光属性が付与された魔道具はある。国宝として保管されているのだ。その中には俺がベラトリックスに渡した布のように、瘴気を浄化する効果があるものも存在するが、使われることはほぼない。


 その理由が発動させたときの魔力消費量にある。


 一般人であれば発動瞬間に尽きてしまうだろうし、ベラトリックスのような人類トップクラスでも長時間の維持は不可能である。光属性持ちでも適性が低ければ、一日保てば良い方だ。


 その一方で俺なら数週間は魔力が保つのだから、光属性の有無、そして適性度というのは非常に重要なのである。


 こういった問題があるから光属性が付与された魔道具はあまり作られず、未だに勇者制度なんてものが継続している理由の一つになっていた。


「安全も確認できたところで、バルドルド山脈に住まう汚染獣についてご説明します」


 ようやく本題だ。どんな情報が飛び出してくるのか気になる。


「ここには二体の汚染獣がいます。数年前に住み着いた小型と百年以上も眠ったままだった大型です」

「やはり大型もいるのか」

「既に気づかれていたとは、さすがポルン様ですね」

「世辞はいいから情報をくれ」


 褒められても嬉しくはない。


 はやく汚染獣についてもっと詳しく知りたい。


「失礼しました。小型については王家に勇者派遣を依頼していましたが、良い返事をいただけず放置されていた個体です。我々の調査で、本体の幹があって枝分かれした触手があると分かっています」


 シスターが羊皮紙を取り出すと渡してくれた。


 この前消滅させた触手を集合したような絵が描かれている。高さはそれほどでもないが触手の長さがすごい。これに間違いがなければ村をすっぽりと覆い囲むことも容易だ。


「触手から黒い塊を吐き出すほか鞭のように叩くぐらいしか攻撃能力はありません。見ての通り小型の中でも大きめですが、ポルン様ならすぐに倒せるでしょう」


 槍を突き刺して光属性の魔力を注ぎ込めば浄化、消滅させられる。確かに彼女が言うとおり苦戦するイメージは湧かない。


「問題は大型の方です。過去の勇者が消滅を諦めて封印したのですが、なぜか結界が解けて活動を再開しているようなんです」


 結界に問題が発生すると、知らせてくれる魔道具がある。それで光教会側は把握したのだろう。


「もしかしてソーブザが倒した大型は生きていたのか!?」

「そこまでご存じとは……っ!」


 言い当てたら尊敬の眼差しを向けられてしまった。偶然、石碑を読んでいただけなんだけど、とは言い出しにくい。


「実は倒したのではなく、浄化で弱まらせてから結界で封印していたのです」


 結界は魔道具や魔法で作り、そこに勇者が光属性を付与させて完成させたのだろう。空気中に漂う魔力を使うようにすれば、半永続的に効果を発揮し続ける。


 自然に壊れるとは考えにくいので外部から何らかの手助けがあったはずだ。


「結界は誰が壊したんだ? 小型か?」

「わかりません。瘴気が濃くて近づけませんでした」


 普通の結界ならともかく、封印用すら突破するとは恐ろしく強い。倒せなかったのも納得できる話だ。


「王家への報告と調査はどうなっている?」


 俺まで話が回ってこなかったから何もしてないと思うが、念のため確認した。


「無視されました」

「大型がいると言ってもか?」

「はい。ソーブザ様が倒してなかったとは認めたくなかったのでしょう」


 実は生きていました、なんてわかったら討伐を発表した王家の名に傷がつく。


 ドルンダは見栄っ張りというか、悪い意味でプライドが高いからそれを嫌がったんだろう。


「くだらない。そのためにこの地は死につつある」

「ええ、本当に」


 嫌悪感を隠すことなく彼女は同意した。


 王家から充分な資金を提供してもらっていたこともあり、最近は光教会とも疎遠だったので気づけなかったが、どうやら両者の関係はかなり悪化しているようだ。


 数年前までは良好だったはずなのに。ドルンダはどうして、そこまで暴走できるのだろう。


 愚かじゃなかったと思ったんだが。


 国が滅んでも良いと考えているのか?


「それで大型はどんなタイプなんだ?」

「光教会の総力をもって調べましたが、ほとんど情報は残っていませんでした。分かっているのは高度な知能を持ち、様々な魔法を使うことぐらいです」


 村にあった石碑と同じぐらいのことしか把握してないのか。


「討伐記録の本もないのか?」

「はい。数年前に資料はすべて破棄されていたようで、何も残っておりませんでした」

「貴重な資料を捨てた? 光教会は何をしてたんだ!」


 浄化させた汚染獣は情報をまとめて、光教会が保有する図書館に保管されるのがルールだ。


 破棄するなんてこと絶対にあり得ないのだが、現に発生してしまっているため俺は驚いていた。


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?