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第14話 スケルトンって大きいんですね

 先に動いたのはスケルトンだった。ポールアックスをゆっくりとあげて、勢いよく振り下ろす。人を両断するには十分すぎるほどの威力が込められた一撃だが、動きがわかりやすかった。雑な攻撃が直撃するはずもなく、横に飛んで回避する。


 ドンッと、空間全体を揺らす大きな音ともに地面に大きな亀裂ができた。衝撃で小石が飛び、正人の身体を傷つける。


「これは……」


 ポールアックスの直角の刃は完全に埋まっており、予想を上回るほどの威力だったことがわかる。ここが洞窟の外であれば、木々を盾にして相手を翻弄することもできただろう。逃げることも容易だったはずだ。


 だが、障害物はなく密閉した空間では、隠れることも逃げることもできない。


 ポールアックスを振り回すには十分な空間は確保されている。スケルトンの戦闘能力はいかんなく発揮され、敵対者は逃げられない。処刑場のような場所だ。


 チャンスは攻撃直後に硬直している今しかない。

 正人の決断は早く、魔石を狙って走り出す。


「――――!」


 だが、スケルトンの方が上回っていた。

 口が開き、無言の雄たけびが衝撃となって正人を襲い、硬直して身動きが取れなくなる。ポールアックスは地面から離れ、スケルトンの目が赤く光った。


 周囲に火の玉が浮かび昼間のように明るくなる。一つ一つはサッカーボールほどの大きさだが。数は五つ。当たれば火傷どころではすまない。


「スキルを使うのか……」


 ファイアーボールと呼ばれている有名なスキルだった。探索者でも使える人は多く、能力は判明している。スケルトンのように周囲に出して待機させることや、動きを操作することもできる。


「くッ!」


 スケルトンの周囲を守るように待機していた五つのファイアーボールの内、二つが動き出し、正人を襲う。スケルトンの周囲を回るようにして逃げると、背後に次々と着弾すると、地面が燃えた。


 ファイアーボールの火は、なかなか消えない。ガソリンを燃料にして燃える火のように、地面を焦がし続ける。


 後ろを見てホッとする正人だったが、危機を脱したわけではない。

 正面から一つ、側面から一つ、ファイアーボールが飛んでくる。


 進行方向と逃げ道、この二つを邪魔するような軌道だ。走っているだけでは回避は不可能。火は消えてないので後退は不可能。残された最後の道を走り、壁際まで追い詰められる。


「だぁぁ!」


 悩み考えて動く時間はない。ファイヤーボールをギリギリまで寄せ付けてから、跳躍、さらに壁をけって高度を上げた。


 眼下は火の海だ。先ほどまで立っていた場所が赤く燃え上がっている。少しでも行動が遅れていたら、丸焼きになっていただろう。


 ぶっつけ本番で回避できた安堵もつかの間、最後に残ったファイアーボールが、空中で身動きが取れない正人を襲う。


 ――回避不可能。


 とっさに左腕を前に出すと、ファイアーボールを叩き落とした。


 当然、無事では済まない。ダンジョン鉄で作られたガントレットが燃えている。着地と同時に外すが、正人の左腕は赤く焼けただれてしまっていた。指を動かそうとするだけで痛みによって意識が飛びそうになる。状態を詳しく確認したい欲にかられそうになるが、そんな暇はない。頭上に影が差した。


 ポールアックスが振り下ろされる途中だった。


 転がるようにして避けると、直角の刃が再び地面に深い傷を作る。


 間一髪だった。一瞬でも判断が遅れれば両断されていただろう恐怖を押し込める。


 跳躍してポールアックスの柄の上に乗る。さらにそこから跳躍し、スケルトンの腕に着地して駆け上がる。横に回転しながら三度目の跳躍をして、顔面付近まで行くと、こめかみを全力で蹴った。


「――!?」


 ミシッっと音がなる。強烈な回し蹴りを食らったスケルトンは、体制を崩してしまい、巨体がぐらっと体が傾いた。


 チャンスだと思った正人は追撃する意思を固めると、落下の最中にナイフを抜き取り、うっすらと輝く魔石に向けて投げる。


 過去最高のできだった。弾丸のように、魔石に向かって一直線に進む。対象が動かぬ的なら、必中だったのは間違いない。


 だが相手は人知を超えた存在のモンスターだ。人間であれば絶対に間に合わなかった早さでラージシールドを動かすと、ナイフをはじく。さらに邪魔なハエのように正人を叩き落した。


 幸いなことに力はそれほど込められていなかったが、地面にたたきつけられ、バウンドしてからゴロゴロと転がる。


「ゴホッ」


 咳とともに血の塊が吐き出された。全身の痛みで意識が飛びそうになる。絶好のチャンスが反転してピンチに変わってしまったのだ。


 二、三度、咳き込んだ後に周囲が再び明るくなった。顔を上げると、スケルトンの頭上にファイアーボールが一つ。


「幻覚でも見えるようになったのか……?」


 正人は意識が朦朧とするなか、スケルトンの全身から出ているモヤが立ち上っているのが見えた。それらは頭上のファイアーボールに吸い込まれていく。サイズは変わらないが、時間の経過とともに熱気が強くなった。


 正人は、今までにないほどの強烈な魔力を間近で浴びたことにより、魔力の動きが視認できるようになったのだ。


 珍しいことではあるが、探索者のごく一部に、同じような能力を持っている人はいる。正人と同じようにある日突然、見えるようになるのだ。スキルが使われる予兆が分かるようになるのだが・・・・・・その動作を中断するような能力はない。


 スケルトンは、使える魔力をかき集めて強化したファイヤーボールをついに放った。


「クソッタレが!!!!」


 残った一本のナイフを投擲する。ファイアーボールと衝突、爆発した。


 一般的な金属であれば対抗できなかったが、魔力を含んだ鉄であれば、一部スキルに対して物理的に干渉は可能だった。とはいえ、威力はスキルの方が強い。正人を守ることを引き換えにして、お気に入りのナイフは蒸発してしまう。


 熱風で全身が刺すように痛い。打撲と相まってコンディションは最悪。環境面も悪化。ここは地獄ではないかと錯覚してしまうほど、辺り一面に地面が燃えていた。


「買ったばかりなのに!!」


 声を出して気合を入れる。震える膝を無理やり動かして立ち上がった。正人の目は死んでいない。


 ポールアックスの攻撃を潜り抜けて、脛を攻撃する。腕は力が入らないため蹴りだ。


 ダンジョン鉄を使ったブーツとスケルトンの骨が衝突すると、金属がぶつかり合う音がした。削られた骨の破片が宙に舞う。


 ――打撃なら倒せる。


 計二回の攻撃によって、正人は確信を得た。


 ポールアックスは中に入られてしまえば使いにくい。ラージシールドも同様だ。足を攻撃し続けても、スケルトンからの反撃はできない。二度、三度と同じ個所に蹴りが入るたびに骨にひびが入り、ダメージが蓄積されていく。


「――――!!」


 スケルトンは無言の咆哮で正人の動きを止めると、バックステップで一歩距離をとる。両手に持っていた武具を手放した。


 魔力が回復するまでファイアーボールは使えず、ポールアックスの大雑把な攻撃は当たらず、内に入り込まれて一方的に攻撃されてしまうと学んだのだ。


「素手で勝負しようってわけね」


 ようやく相手が同じ戦い方を選んだことで、正人はニヤリと笑っていた。

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