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14話――サイミン×ト×ハンゲキ②

「どうしますかね、これ」

「どうもこうも、術者を倒すのが一番早いですよ。倒しに行きましょう?」


 シンプルな答えを出すレイラさん。ボクは腕の中で幸せそうに寝ているイザベラ様を見ながら、首を振った。


「この呪術――暗示をかけてるわけですけど、対象を物凄く絞ることで素早く強く相手にかけられるようになってるみたいなんです。その対象が分からないと、木乃伊取りが木乃伊になりかねません」


 呪術は門外漢だけれど、魔力の感覚からどんな効果を持っているかくらいなら分かる。

 そして簡単で単純な呪術なら、専門外のボクでも簡単に解呪出来るけど……。


「これはそれなりに腕のある聖女じゃないと無理ですね」

「解呪の魔法石……試したけど、ダメですね」

「これは魔法じゃなくて呪術の分野ですからね」


 聖女の使う回復の祈りなんかは、分類するなら呪術に入る。精神に作用させ、自然治癒力を劇的に引き上げることで怪我や傷を治すからだ。

 一方、ボクら魔法使いの使う回復魔法は状態を戻す。ちょっとした呪術ならボクらの魔法でも治癒させられるが、このレベルだと難しい。


「しかもイザベル様の様子を見る限り、認識をずらされてる感じでしたからね。かけられたことに気づけないかもしれません」

「遠くから一撃で仕留めますか」

「出来ます?」


 ボクの端的な問いに、ちょっと小首を傾げるレイラさん。


「あの巣穴ごと平らげていいなら」

「ボクもそうなんですよね」


 全部を無視して巣穴ごと『クロス』で超上空に放り出して殺したり、水の中に沈めたりは出来る。でもそうすれば、中で囚われている人たちが死ぬわけで。

 町長さんの娘を救出するというミッションである以上、それは出来ない。


「誘き出すような魔法石とかありませんか?」


 レイラちゃんはカバンの中を探す。そして変な――赤紫色の魔法石を取り出した。それを寝ているイザベル様の上に置くと、なんと彼女の分身が現れた。服は着ていないけれど。


「鼻が赤くなっていること以外は、まんまコピー。名付けてコピー〇ボット」

「その名づけはマズいんでやめてください」

「じゃあコボットで。ほい」


 レイラさんが手を叩くと、コボットが起き上がる。二足で立ち上がると、ボクらに優雅に一礼した。

 イザベル様からは絶対に出てこない、まるで貴族のような優雅な立ち振る舞い――。


「こっちが本物でしたっけ」

「諦めましょう。わたしたちのリーダーはあの豪快な方です」


 やれやれと首を振るレイラさん。なんとなく先輩であるボクよりも分かった風な態度なことが気に喰わない。


「これで誘き出すと」

「まぁ呪術が精神に作用するっていうなら、効きませんし。出てきたところをカーリーさんが呼び寄せて、わたしが潰します」


 潰す、とは何とも穏やかではない表現。

 ボクはこくりと頷いて、立ち上がった。


「じゃあまぁ、呼び寄せますんで」

「分かりました。じゃあコボット、ごー!」


 コボットはしゃなりと礼をしてから、ゴブリンの巣穴に向けて歩き出す。女が出て来たということでゴブリンが数体出てくるが――それらはボクが魔力弾で狙撃して撃ち殺す。


「正確ですね」

「このくらいならまぁ」


 褒められて少し得意になっていると、コボットが巣穴の入口に到達した。そして屈んだところで――先ほどイザベル様に暗示をかけたゴブリンメイジの杖が見えた。


(呪術を使えるゴブリンメイジなんて聞いたことが無い)


 右手を上げ、指と指を合わせる。


(何かがおかしい、何かが変だ)


 もっと警戒すべきだった。それが分かった上で――ボクは指を鳴らした。


「『クロス』」


 一部でも見えていれば問題ない。視界内ならば、全部の物の『位置』を入れ替えることが出来る。

 指を鳴らすと同時に、杖だけがまずボクらの前に出現する。それを蹴飛ばし、驚いたように巣穴から顔を出したゴブリンメイジにもう一度魔法をかけた。


「『クロス』! レイラさん!」

「はーい」


 出現する、ゴブリンメイジ。普通の奴と違い、脳に何かが刺さっている。

 それが原因か――ボクが『クロス』でその刺さっている何かを手元に取り出すと同時に、レイラさんが呟いた。


「『プレス』」


 空間を握り潰すレイラさん。するとその腕の動きに合わせるように、ゴブリンメイジの顔が圧し潰された。

 潰れたトマトのように血を流しながら、地面に倒れ伏すゴブリンメイジ。ボクはそれをさっと躱し、レイラさんの方を見た。


「今のは?」

「お二人も持っていると思いますよ、転生者チートです。わたしのは、圧力を自在に操れるみたいです」


 規模にもよるけれど、確かに簡単に地形ごと破壊出来るだろう。そう納得させられる程の威力が見て取れた。

 ボクは軽く口笛を吹いて、肩をすくめる。


「強いですね」

「そりゃ勿論。わたしも最強らしいですから」


 イザベル様の方を見ながら笑うレイラさん。イザベル様の言う『私たち』に含まれる人が増えたのは少しだけ嫉妬してしまうけれど、頼もしい仲間なら大歓迎だ。


「それじゃ、イザベル様を起こしましょう」

「そうですね」


 ゴブリンメイジの死体を燃やし、イザベル様を揺する。

 ボクらがコンビネーション抜群で倒した事、報告したら嫉妬するだろうなーなんて思いながら。




「……そういえばさっき、なんで口をすぼめたんですか? タコさんのモノマネですか?」


 口笛ですよ! 吹けなくて悪かったですね!!

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