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11話――今日から女騎士!①

 というわけで、2日後。

 私はカーリーとレイラちゃんを連れ、トミサに来ていた。


「あー、疲れた。久しぶりの長距離移動はやっぱ腰にくるわねー」


 前世で事務仕事していた時のことを思い出す。人間、ちょっとくらい動かないと逆にストレスが溜まるものだ。

 私が馬車から降りて伸びをしていると、憮然とした表情のカーリーが御者席から降りてきた。


「いいじゃないですか、イザベル様はふかふかの椅子に座ってたんですから。ボクなんて固い御者席ですよ?」

「そうね、ありがとうカーリー。一応、運転手伝ったんだから許して」


 そう言って私は使い魔にしていた手綱をもとに戻す。名前はレインズ、これまた初めて使い魔にした物だ。

 最初はどう運転すればいいのかレインズも分かってなかったけれど、カーリーが使っているのを身体で覚えたようで最後の方はレインズだけで運転していた。

 馬車って運転でいいのか分からないけど。


「流石は貴族の馬車ですね。ふわふわでした」


 そう言いながら降りてくるのはレイラちゃん。彼女は欠伸をしながら、伸びをしている。

 いくらいい馬車と言えど、現代ほど舗装されていない道に馬車だ。とてつもなく揺れる。

 だというのに熟睡出来るなんて、どんな神経しているのかしら。


「わたし、どこでも寝れるんですよね」

「それは良いことだけども」


 この子のキャラが掴めない。

 町長さんの家まではレイラちゃんが案内してくれるとのことなので、馬車を止めた私達は彼女の後ろに付いていく。


「ここですね」


 彼女が示すのは、大きめな屋敷。住居スペースと、恐らく公民館のような施設を兼ねた建物みたいね。


「じゃあ行きましょうか。ごめんくださーい」


 扉を叩くと、中から大きな足音が。勢いよく扉が開き、禿げ上がった老人が私達を睨んだ。


「何の用じゃ!! こっちは愛娘が拐われて気が気じゃないんじゃ! これでテキトーな用件だったらただじゃおかな――い、イザベル様!?」


 流石に私の顔は知っていたらしい。目が明らかにイッちゃってる老人……町長さんは、大慌てでその場に土下座した。


「も、申し訳ございませぬ!! 愛娘が拐われてしまい、普通ではいられず……! ど、どんな処罰でも受けますが、私の家族だけは……」

「あー、いいからいいから。ほら、女の子だけの騎士団連れてきたわよ」

「なんと!?」


 殆ど悲鳴のようなレベルの声を出しながら顔をあげる町長。彼は私達を押し退けて外に出ると、周囲を血走った目で見回す。


「ど、どこにいますのじゃ!?」

「目の前よ、目の前。ちゃんと三人いるじゃない」


 私が言うと、町長はあんぐりと口を開けてフリーズした。


「何、不満? 全員、実力は粒ぞろいよ」


 原作最高の身体能力の持ち主、マイターサ最高の魔法使い、賢者の石を作れる錬金術師。ゲームの初期メンバーでこんなのがいたら、ヌルゲー間違いなしのメンツだ。

 私が睨んだからか、町長は気を取り直して音が出そうなほどの勢いで首を振る。


「い、いえ滅相もございません! しょ、少々驚いただけでして……」


 口ごもりつつ、目線を泳がせる町長。まぁ私が逆の立場なら「何言ってんだこの小娘」ってツッコミを入れるし、それを我慢できただけ大人かもしれない。

 そう思いつつ、しかしいつもの毅然とした態度を崩さないでいると――彼はまた目を狂気に染め上げ、カーリーを睨んだ。


「しかし……そちらのお嬢さんには行って欲しくありませんな!」


 一瞬前までのしおらしい姿はどこへやら。私が虚を突かれて言葉を詰まらせると、町長は口角泡を飛ばさん勢いでまくし立ててきた。


「ゴブリンの巣ですぞゴブリンの巣! そこにそんな少女を連れていくなんて言語道断! 絶対にあってはならぬことです!」


 いや女の子だけでゴブリンの巣に行かせようとするのも大概ヤバいんじゃないかしら。

 私が呆れてそう言おうとしたところで……カーリーの表情が真剣な物に変化した。何かに気づいたような、そんな雰囲気だ。


「ちょっと、どうし――」

「分かりました! ボクもおかしいと思ってたんですよね。ってことで、イザベル様がんばです! ボクは馬車に戻ってますんで!」

「――えっ!?」


 まさかの展開に困惑するが、カーリーはウインクをしてさっさと戻ってしまう。

 彼女のことだから本当に帰ってしまうことは無いと思うが、どうしたのだろうか。


「では、イザベル様。中へどうぞですじゃ」


 去って行ってしまったカーリーが心配なので、こっそりウインを呼び出して彼女のあとをつけさせる。そしてレイラちゃんと一緒に、町長宅へ入っていくのであった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 町長宅の中は割と普通の民家だった。リビングらしきところに通され、私とレイラちゃんの前にお茶が置かれる。


「粗茶ですが……」

「ありがとうございます」


 お茶を出してくれた奥さんに笑顔を返し、改めて町長さんを見る。年齢は五十代くらい、ハゲてはいるけど普通の優しいおじさんって感じだ。見た目だけは。


(さっきからちょこちょこ、目がおかしいのよね)


 異様な狂気を感じる。カーリーを追い出そうとした時なんてまさに操られているかのようだったし。


「それで、その……この度はイザベル様にお越しいただいて……」

「ああ、そういう儀礼的なのはいいわ。私は事件を解決しに来た冒険者とでも思ってちょうだい」

「は、はぁ……」


 緊張した面持ちの町長、私はそれをスルーしつつ話を進める。


「では概要なのですが、かくかくしかじかでございまして」


 町長の話は、レイラちゃんから聞いた物と殆ど合致した。違う部分で言えば、被害者くらいだ。


「今朝から2級の冒険者が一人、戻って来てない!? ちょっとどういうことよ……」


 3級が一流冒険者なら、2級は超一流だ。貴族や豪商ならまだしも、一般人が依頼できるランクとしては最高峰と言っても過言ではない。

 それが……。


「ちょっと信じられませんね。上位個体、いるかもしれませんよイザベルさん」


 私と同じ感想を抱いたらしいレイラちゃんが、笑顔で言う。随分と余裕そうだ。


「あんた、上位個体と戦ったことあるの?」

「ありませんよ、わたしは錬金術師ですから」

「自信ない?」

「まさか」


 それならヨシ。

 私はレイラちゃんに頷いてから、腕を組んで町長に目を向ける。


「現状はわかったわ。それじゃあ報酬についてなんだけど」

「えっ!?」


 報酬と聞いて目を見開く町長。そういえば領地騎士団って名乗ったんだから、金を取るのも不自然ね。

 ……ま、いいか。


「大丈夫。お金が欲しいんじゃなくて、資金運用して欲しいだけだから」

「い、いやその……すみません、無学なものでシキンウンヨウとやらを存じないのですが……」


 困惑した表情の町長。私は少し考えてから、懐からコインを取り出す。


「例えばここに100ミラがあるわ。これを私に預けるだけで、1年後に1ミラ増えるの。預ける金額が倍になれば、増える額も倍になるわ」


 さらに困惑する町長。うーん、凄く詐欺っぽい言い回しになってしまったわね。


「えっとね、貴方から借りたお金を別の人に貸すの。その時に出た儲けと、貴方に預けられた金額を貴方に返す。これを何度も繰り返して、貴方のお金は減らさずに、お金を増やすのが資金運用よ」


 ここまで説明して、意味が無かったなと悟る。銀行の無い世界で預金の概念について説明しても理解してもらえるわけがない。

 これじゃあたぶん、「お金を借りたいのかな?」としか思われない。


「えっとつまり……わ、私に金貸しになれということでしょうか……?」


 やっぱり。

 詳しく説明したいところだけど、冷静に考えたらここでちんたらしてる方が良くないわね。

 私は咳払いしてから、レイラちゃんの方を見る。


「まぁ私の方はそれでいいわ。んでレイラちゃんは」

「私はこの家に飾ってある、あの魔石が欲しいんですよね」


 そう言って彼女が指さしたのは、庭の方角。


「池の中にある、あの魔石をください」

「池の中に……? よ、よく分かりませんが、それてよろしいなら」

「やった」


 ぽふと手を叩いて喜ぶレイラちゃん。その仕草は年相応と言った感じで、可愛らしい。


「じゃあ話も纏まったし、行きましょうか」

「い、イザベル様! 本当に……お二人で行かれるんですか? その、もう少し人数を募って行くべきでは……」

「あんたが女性限定でとかワガママ言わないなら、連れてくわよたくさん」

「それはだめです! 娘の肌を男に見せるなどとんでもない!」


 頑として意見を曲げない町長。私はため息をついて、立ち上がった。


「まぁ、ドンと構えてなさいよ。私達、最強だから」


 ゴブリンごときに遅れは取らない。

 不安げにしている町長を置いて、私とレイラちゃんは外へ向かうのであった。

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