「うぎゃいあああああ!!!」
一瞬前までまで余裕綽々だったジェイソンが悲鳴をあげる。大の男が情けないわねーーと言いたいところだけど、肩から腕を切り落とされればこうもなるか。
私は彼をせせら笑いながら、その傷口に蹴りをぶちかます。
「うぎゃいあ!! い、いてえ!! いてえ!? な、なんでだ!? おいらの身体は竜の爪でも傷つけらんねぇんだぞ!?」
のたうち回るジェイソン。衝撃吸収だかなんだか知らないけれど、体内は鍛えられないのね。ウインが手を置いて、体内に風の刃を形成したら簡単に斬れたわ。
ウインが両手から風の刃を飛ばす。ジェイソンは慌てて躱すが、その動きを読んでいた私が膝蹴りを傷口を抑える手に叩き込む。
「んがげがらげげげけんちゃ!!!」
ワケの分からない叫び声をあげたジェイソンは、半泣きになりながらも立ち上がる。
「お、おいらの身体に傷をつけたな……!? 許さん、許さねぇゾゾゾぉぉぉごががぎがぁ!?」
透明になっていたウインに、今度は左腕を斬り落とされるジェイソン。傷口を押さえることも出来ず、膝から崩れ落ちた。
「あ、あがが……」
「思ったより強かったわね。改造人間なんてものがこの世界にいるなんてね」
ウインが両膝に手を置き、切断。手足をもがれて動けなくなったジェイソンは、地面で蠢きながら涙を流した。
「ま、まっでぐれぇ! お、オイラはオルカの命令で動いてただけなんだぐぁぎゃいああああ!!!」
「そうなの。安心して? ちゃんとオルカの手足も斬り落とすから」
そう言いながら、ジェイソンの頭を蹴り飛ばす。手足の傷口をフレアの炎で焼いて血を止める。
「ひっ、ひっは、ひいっ!」
「まだ殺さないわ。さて、最後は……」
そう言いながらオルカを見ると、彼は懐から箱を取り出した。箱……というよりもカメラみたいな形状をしている。
彼は冷徹で冷静な表情で私に目を向けると、レンズ部分を私に向けた。
「失礼しましたな、イザベル様。貴方を見誤っていたようだ」
そして箱をこちらに向け、宝石のような物を取り出し――
「っ! 使わせんな! 全員死ぬぞ!!」
――壁際で寝たフリをしていたマリンが飛び起きて叫ぶが、オルカは蔑むような目を彼に向けた。
「いいや限界だ使うね! さらばだイザベル様、再起したらまたお会いしよう!」
狂気の笑みを浮かべて叫ぶオルカ。手を緩めることなく宝石を――ジェイソンの尻に挿入した。
「おうっ」
「……は?」
呻くジェイソンと間抜けな声を出すオルカ。そんな彼らを見て、私の後ろでカーリーが笑い出した。
「あはははは! ちゃんと確認しないからそうなるんですよ。お風呂上りはそういう事故が多いそうですから、気を付けてくださいね!」
ああ、なんか肛門科の人が言ってたわねぇ……。
「なっなっ、何をしている貴様!! 役立たずなだけでなく私の邪魔をする気かジェイソン!?」
「お、オイラなんもしてねぇ」
「あはははは! いやー、おかしいですねーイザベル様」
上機嫌なカーリー。よく見てみると、後ろの方は完全に壊滅状態だった。全ての男たちが呻きながら地に伏せており、悪夢を見ているかの如く藻掻いている。
「悪夢で正解ですよ。ボクが倒した男たち全員、今まで自分がやってきたことを被害者側として追体験させています」
なかなかえげつない魔法を使えるようだ。この領地最強の魔法使い(自称)は伊達ではないらしい。
カーリーはさっきジェイソンと位置を入れ替えた謎の箱をじっと見ると、何度か指で叩いて落胆のため息を漏らした。
「なんだ、ただ煙を散布するだけですね。中にはクスリとか睡眠薬が入ってるんでしょうけど。催眠とかをかけれるのかと思ってちょっと期待してたんですけどね」
彼女はそう言いながら指を鳴らすと、オルカがジェイソンの尻に突っ込んだ魔石が転移してくる。地面に落ちるそれを足で踏み、少しだけ目を輝かせた。
「うわあ! これいい魔石ですね! これだけ純度が高いと、相当な値段したでしょうねー。下手したらちょっと変な魔力の流し方しただけで魔力暴走が起きて爆発しますよこれ」
そんな危険物を足で踏まないで欲しい。というか、何で足で踏んでるのかしら。
「素手で触りたくないんですけど、純度を確認するためには触れておかないといけないですから。あ、これ持って帰っていいですか?」
「いいわよ」
私は微笑みながら彼女の頭を撫でる。嬉しそうにしている女の子っていうのは、やっぱり可愛いわね。ちょっとだけ笑顔が邪悪だけど。
彼女から手を離した私は、ゆっくりとオルカたちに近づいていく。
彼は這って逃げようとしていたが、カーリーが元の位置に戻した。再度逃げるが、やっぱり元の位置に戻される。
何度やっても逃げられないと悟ったか、オルカは今度は私の足に縋りついて来た。
気持ち悪いし汚いので、思いっきり蹴飛ばして壁に叩きつける。それでもオルカは私に土下座するようにして叫ぶ。
「ま、待ってくれ、いや待ってくださいイザベル様!」
悪党のテンプレートらしく、そう叫ぶオルカ。私はニッコリとした笑みを浮かべると、ウインと共に彼の前に立つ。
「なにかしら」
「きょ、協力しましょう! わ、私は金も人脈もあります! それを失わせるのは、貴方にとっても痛手なはずです! ここで私を殺しても、貴方には何の得も無いはずだ」
「いや借金を踏み倒せるし悪くは無いと思うわ」
「いえいえいえ! 他の、もっと様々な事業をやっていますから! クスリ、奴隷、売春、娼館だけじゃありませんとも! 清掃業とか運営しているんですよ!?」
私はそれでも笑顔のまま、オルカの胸倉をつかんで持ち上げる。
「あんた、なんで今から私に殺されるか分かる? 小物過ぎるからなのよ。数日前からとはいえ――こっちは中ボスの悪役令嬢よ? 格が違うのよ、格が」
殺される――というワードに体を震わせるオルカ。その目はまるで子犬のように怯え切っている。
「やってることは外道で下衆で畜生以下のくせに、目的はお金だけ。出してきた奥の手は筋肉ダルマと脱出用の煙。全部全部、噛ませ犬以外の何物でも無い。要するに格下なわけ」
私の言っていることが理解出来ないのだろう。オルカは困惑した表情で愛想笑いを浮かべる。そんな彼を壁に叩きつけると、私は怒鳴りつけた。
「そんなクズのために! 可愛い女の子が! 生きながら地獄に叩き込まれた!」
ウインの拳が太った腹に叩き込まれる。続いてのパンチで壁に完全にめり込んだ。
今度は私の蹴りを心臓に。片足で立ったまま追撃を顔面に!
私とウインでほとんど同時に、パンチとキックをぶちかます!!!
「彼女らはこれからクスリを抜くのにどれだけかかると思う!? お金も、時間も! やりたかったことも何も出来ない! 生きている方が辛い! そんな環境を生み出したのよあんたは!」
生かしておけない。
生きていてはいけない。
閻魔様の生み出した地獄以上の地獄を作る奴は。
私がもっとえげつない地獄に叩き込んでやる!!!
「地獄の底の底で! 今までの人生を悔い改めなさい!」
「ひいいいいいいいいいいい!!!!!」
左右の拳と私の足。それらが人智を越えるスピードでオルカの全身に突き刺さる。後ろが壁のせいで吹っ飛ぶことすらできないオルカは、泣くことも許されずその全てを自らの身で受けることとなった。
「ヤッダァバアアァアアアアア!!!」
断末魔を上げ、顔面から倒れ伏すオルカ。それを見たジェイソンは泡を吹いて倒れた。完全に戦闘不能ね。 静まり返る室内。私はウインの姿を元に戻すと、髪をかきあげて悪い笑みを浮かべた。
「これが格の違いよ。わかったかしら?」
消えぬ傷を脳に刻み込み、私はカーリーを連れて部屋を出ていくのであった。
「こ、これがオラオラのラッシュ……!」
それを言っちゃダメでしょカーリー!