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4話――ラウワの帝王

 昨日の出来事の後、得た情報をもとにいくつかの対策を立ててから……翌日、再びラウワにて。

 私たちは昨日同様変装して、てくてくと歩いていた。

「さて、オルカはいるかしらね」

「いない可能性があるんですか?」

「こういう時、黒幕って最期まで隠れてるイメージあるじゃない」

 なんてことを二人で話しながら歩いて三十分ほど。やっと目的の建物の前に着いた。

 ラウワの主要部にあることを考えれば4階建ては妥当な大きさと言えるが、いかんせん雰囲気が怪しい。

「鬼が出るか蛇が出るか。どのみち善い物は出ないでしょうね」

 私の言葉に頷くカーリー。一旦二人で深呼吸した後、「よし」と気合を込めて扉に手をかけた。

「お邪魔しますわ」

 開けるとドアベルの音が鳴り、中からなんとも言えない空気が流れてくる。淀んでいるというか、荒んでいるというか。

 何にせよ……カタギの空気は流れていない。

「はーい、いらっしゃいませ。冷たいお茶とお茶菓子をどうぞ」

 微笑みの眩しいイケメンがお茶を持って登場した。私たちが男だったら、たぶんカウンターの奥にいる美女が出迎えてくれたのだろう。

 部屋はカウンターで半分に分かれており、奥には明らかにヤクザな従業員たちが。入口側のスペースには三人がけのソファーが二つとローテーブルが置いてあり、商談スペースになっているようだ。

 手続きはカウンター、話はテーブルで……って感じなのかしらね。

 私は咳払いしつつ、イケメンから差し出されたお茶を拒否した。

「お茶しに来たわけじゃないの。オルカさんはいらっしゃる?」

 私が問うと、室内に緊張感が走る。それもやや剣呑な雰囲気だ。いきなりトップを出せなんて言う奴、警戒して当然だと思うけどね。

 とはいえここでモタモタしているのも意味が無い。私はさっさとサングラスと帽子を取った。

「なっ!」

「あ、あなたは」

 途端にざわつきだす店内。ちょっとだけ黄門様の気分を味わいつつも、お茶を持ってきたイケメンの方を見る。

「イザベルが来たと伝えて」

「は、はい」

 慌てつつカウンターの方へ引っ込んでいくイケメン。私はカーリーを連れて、ソファに腰をおろした。

「お茶くらい貰っても良かったんじゃないですか?」

「毒が入ってないとは限らないじゃない」

 流石に毒は無いかもしれないけれど、用心するに越したことは無い。

 数分も経たず、中から禿げ上がった中年男が一人出てくる。ライトとドローが描いてくれた特徴にピッタリ、あれがオルカね。

「これはこれはイザベル様……! 仰ってくだされば、いつも通り使いのものを送りましたのに。今月のご返済の件……ですよね?」

 もみ手をしながら出てくるオルカ。しかしその目はじっとりしており、こちらを値踏みしていることが伝わってくる。

 基本的にヤクザは舐められたら負けなので、どんな相手でも下手に出ない。しかしこの男は平然と腰を折っている。

 半分以上商売人になっているのだろう。プライドを曲げられる男は厄介だ。馬鹿みたいに暴れてくれる方がまだやりやすい。

 私は褌を締め直し(履いてないけど)、オルカに向き合う。

「今回は返済の件では無いの。いえ……まぁ返済の件でもあるんだけど、取り合えず話を聞いてもらっていいかしら」

 ニッコリと笑うと、オルカは元から細い目を更に細める。私は契約書を取り出し、ローテーブルに置いた。

「お金っていうのは簡単に人を狂わせる。そして――金貸しっていうのは、容易に人の人生を乗っ取れる」

「は?」

 私が唐突に変な話を始めたからか、キョトンとした顔になるオルカ。隣に座るカーリーもポカンとしている。

 しかし私はそれを無視して、話を続ける。

「あんた、本当に凄いと思うわ。狡猾っていうか……うん、金貸しっていうのを分かっている。この街にある金貸しの中じゃ、金利は高すぎない方。取り立ては厳しいけれど、それはそういうものだからね」

 何を言いたいのか測りかねているのだろうか、オルカは笑顔を崩して怪訝な表情になっている。

「『暴利では債務者はすぐにパンクする。金に困ってる奴が払えるわけが無いから。そんな貸し方をする奴らは、客の息の根を止めるまで搾り取る殺し屋。真綿で首を絞めるように、生かさず殺さずどこまでも搾り取るのがゼニ貸しだ』って言葉があるの」

 要約しているけど、まぁこんな感じ。東京の金貸しくんも怖いけど、大阪のゼニ貸しも怖いわね。

「この契約内容……絶対に元金が減らないようにしているのに、それが分からないように巧妙に隠されている。まさに生かさず殺さずね」

「……あ、ありがとうございます」

 オルカは怪訝な表情のまま、頭を下げる。真意は測りかねているが……こちらを舐めた雰囲気が消え去った。恐らく、彼の脳内では様々な想定が渦巻いているのだろう。

 私はそんな彼を見て、さらに笑みを深めた。

「勿論、私も毎月首を絞められているわ。……額が額だから、真綿というよりもしめ縄かしらね。どうすればこの縄を外せるのかしら――あ、そうだ」

 胸の前で軽く手を叩く。音も出ないくらい優しく、軽く。

 オルカの目をまっすぐと見据えながら。

「貴方のやっていること全て――違法にしてしまおうかしら」

「……なんですと?」

 今度こそ、目に敵意が宿る。

「領法、ご存じよね? 各領地の領主に与えられた自治権。私は今やこの街の領主、いくらでも作れるわ。それこそ……無辜の民を救うための法律なら、いくらでも」

「はっはっは。ご冗談がお上手ですな、イザベル様」

 表情を一瞬で明るい物に戻し、笑い出すオルカ。そしてニコニコと目を細めると、指で軽くテーブルを叩いた。彼のその行動で、カウンターの向こうがやにわにざわつきだす。

 カーリーも隣で、手をあげた。彼女がどうやって魔法を使うのかは知らないが、荒事に対する準備だろう。

 流石にここでいきなり暴力に打って出ることはあるまい。というか、そんなことをしても無意味だと理解しているはずだ。

 私が死ねば国の立ち入りが必ず入る。かといって暴力を振るって私が生きていても、騎士団が来る。

 どっちみち、私に手を出した時点でアウトだ。それはちゃんとわかっている、絶対に。だからこそ彼がここからするのは……交渉だ。

 笑顔のまま、彼は言葉を続ける。

「イザベル様は何か勘違いされていらっしゃるようだ。私どもは……それこそ、無辜の民のために力を貸しているだけでございます。仰る通り、金貸しの中では手数料も低い。来るものも拒まずですから、皆、涙を流して我々に感謝するのですよ。あなた方に救われましたと」

「巣食うの間違いじゃないかしら?」

「借りた金を返すのは、当然のでしょう。法以前の問題かと」

「ええ。お金のやり取りは信頼が大事ですものね」

 ここまで話して、彼と私たちに茶が運ばれてきた。オルカはそれを一口飲むと、私たちに手を向ける。

「どうぞ、以前取り寄せた、マヤサの茶です」

 マヤサ町は、マイターサ領の西部にある町だ。お茶が有名で、そこそこの産業として成り立っている。

 ここで飲まないのも変か――私はお茶に口を付ける。

「貴方の言う通りよ。信頼は非常に大切だもの。首は回らない、でも信頼は大切。そもそも貴方には恩があるしね。じゃあどうしましょうか? ――逆に考えたわ。貴方を潰すのではなく、商売敵を全部潰してあげればいいんだ、って」

 そう言いながら、私はカーリーに合図を出す。彼女は周囲を警戒しながらも、カバンから数枚の書類を出した。

「……なんでございましょう、これは」

「簡単に言っちゃえば、お金を貸すこと専用の領法」

 私の覚えている限り、前世で決められていたお金を貸す時の法律をまとめた物だ。

 これに則ってお金を貸すことが出来なければ、逮捕してしまう法律。

 オルカはサッと目を通しただけで、内容を理解したようだ。苦笑いしながら、ソファの背もたれにもたれかかる。

「なるほど、なるほど……債務者を守るためにはこれ以上無いほど、都合の良い法律ですな」

 口元は笑うが、眼がいっさい笑わない。日本人は目元で相手の表情を判断し、海外では口元で判断すると聞いたことがある。

 だとしても恐いわね、ヤクザの笑顔。

「まさか、ご自身の借金で首が回らなくなったから……このような法を作ると?」

 はいそうです、とは言えない。私は取り敢えずほっぺたに人差し指を付けてみた。

「そう見える?」

「……」

 口元をほんの少し歪めるオルカ。なんとまぁ、悪い顔。

 私は指を外して、首を振った。

「流石にそんなわけ無いわ。だって、領法を作るよりもお金返す方が楽だもの。ーーさて、私に命令出来るのは誰でしょう」

 明言せず、想像させるような言い方をする。案の定、オルカはほんの少し口を噤んで考えるような表情になる。

「摘発か……稼ぎすぎたか?」

 聞こえるか聞こえないか、ギリギリの声で呟くオルカ。よしよし、引っかかってくれた。

「では何故私どもにこれを」

「簡単な話よ。バカと手を組んでも意味無いし、取引にならないでしょう?」

 メリットとデメリットを天秤にかけて、判断できる相手じゃないなら成立しない。

「恩を売るのに最適なのは貴方――そう踏んだのよ」

「なるほど、概ね理解しました。つまり……先んじてこの事実を伝えるから、借金をチャラにせよと?」

「チャラは無いわね。もう少し返済を待って欲しいのと、新法に則った金利にして欲しいわ。そのうち全額返すけど、今はお金が無いのよねぇ」

 いくらなんでも踏み倒すつもりは無い。ただ無限に養分にされるのは止めたいというだけで。

「お金にお困りでしたら、融通いたしますよ?」

「遠慮しておくわ」

 オルカは怪訝な顔――ではなく、少しだけ嬉しそうな表情になる。

 私が何を言いたいのか察したのだろうか、それとも他の理由でもあるのかしら。まぁ私には分からないからいいけど。

「それともう一つ。協力関係を結びたいのよ」

「…………?」

 たっぷり間を取るオルカ。数秒……何かを考えるような仕草をした後に息を長く吐き、笑みを浮かべた。

 目も口も、しっかり笑っていると分かる笑顔。

「良いですな!」

 オルカは身を乗り出して、目を輝かせる。私は拒否されなかったことにホッと胸をなでおろした。

「詳しい内容は後程決めましょう。というわけで、一旦私たちは失礼させていただくわ。あなた方の都合がよくなったら使いの者を寄越してください。――さ、帰るわよカーリー」

 私が隣に座るカーリーに声をかけると……何故か反応が無い。

不思議に思ってそっちを見ると――

「くー、くー」

「いや寝ないでよ!?」

 ――お子様には難しい話だったかしら。

 私はため息をついて、彼女を揺するが一向に起きる様子が無い。

「……ちょっと、カーリー?」

 話しかけてみても反応しない。嫌な予感が背に巡り、私は立ち上がる。

「すみません、連れが寝てしまったからお暇させていただきますわ」

「いえいえ、イザベル様。お連れ様が起きるまで、奥でおもてなしさせていただけませんか? そう……二、三時間くらい」

 後ろから軽く肩に手を置かれる。私はその瞬間、すぐさまカーリーの首根っこをひっつかんで跳ねるようにソファから立ち上がった。

 何も言わずに入口へ全力で走る。というか襟を掴んで振り回しているのに起きないなんて、確実に薬で眠らされてるじゃない!

(お茶は全部アクアに吸わせておいてよかった!)

 入口の扉に手をかけた所で――顎に衝撃を受け、私は吹っ飛ばされる。ギリギリ手を挟んでガードしたから倒れなかったけど……若干足に来たわね。

 さらに連撃。前からくる左右のこぶしを何とか躱すけど、回し蹴りを受けて壁に吹っ飛ばされてしまった。

「うぐっ!」

 何とか受け身を取り前を見ると、そこには女の子みたいな顔をしたイケメン――昨日出会った、マリンが立っていた。

「アンタは……昨日の」

 少々驚いた顔になるマリン。しかしすぐにオルカの方を見ると、私をクイッと顎で示した。

「親父、捕まえるのか?」

「ああ、マリン。存分におもてなししなさい」

 ……こいつら親子なの!? ってくらい似て無いわねぇ……。片方はカエルで、もう片方はイケメン。

 鳶が鷹を生むってレベルじゃないわよ? もしかして、托卵かしら。

 ……なんてことに驚いている場合じゃない。私は笑みを浮かべ、周囲を観察しながら彼に話しかける。

「昨日ぶりね。挨拶にしては情熱的過ぎないかしら、マリンちゃん」

 さっきのアクロバティックな動き……どう考えても、めっちゃ強い。荒事があるかもと思ってはいたけれど、睡眠薬を使われるとは思ってもみなかった。

 やっぱりヤクザは怖いわね。

「ちゃん付けはよせ、オレは男だ。そっちこそ……今ので倒れてねえとか、昨日も思ったがほんとに女かよ」

「失礼ね、どっからどう見ても女の子でしょ?」

 踏ん張りがきかないし、足も広げられない。運動する格好で来たかったけれど、あんまりそれっぽすぎるとイザベルって信じてもらえないかもと思ってお嬢様っぽい格好だったのが裏目に出たわね。

 っていうか、カーリーが守るって言ってくれたから信じてたのに!

「オレの蹴りで倒せねえ女とか見たことねえな」

「世の中は広いのよ。何せ霊長類最強のレスラーは、206連勝した女性だからね」

 私は仕方がないので、アクアを出して水鉄砲を放つ。それを見たマリンはさっと屈み、背後に立っていたお茶くみイケメンがぶっ飛ばされて窓に突っ込んでいった。

「魔法も使えるのかよ」

 身を低くし、こっちへ突っ込んでくるマリン。前世じゃ素手の喧嘩なんて学生時代のキャットファイトしか経験ないけれど、この体は運動神経抜群、身体能力最強クラスのイザベルの実際、コラボした格ゲーでは攻略キャラや主人公を差し置いてトップクラスの能力値だったし

 使い魔を合わせればカーリーを奪還して――

「そこまでです、イザベル様」

 ――流石にそこまでうまくはいかないか。オルカの声で手を止めると、そこには縛り上げられたカーリーが。ご丁寧に頭にナイフまで突きつけられている。仕方がないので、アクアを引っ込めて両手を挙げた。

「マリンと張り合えるなんて……まさかイザベル様が、ここまで動けるとは驚きです。とはいえ、いくら手柄を一人占めしたいからといって、交渉にブレーンを連れてこないのは悪手でしたね」

「馬鹿だろ、一人しか護衛付けないで」

 イザベルのこと、アホだの馬鹿だのって言うのやめてもらえないかしら。事実陳列罪で極刑に処すわよ。

 とは言えず、周囲を囲まれて後ろ手で縛られてしまった。そして目の前に来たオルカが、ふんと鼻を鳴らす。

「誰がブレーンですかな?」

「私よ」

「別に隠し立てしなくとも。……おい、お前らあの部屋に連れてけ」

「「「へい!」」」

 若い衆が後ろ手で縛られた私を掴んで、歩き出す。カーリーが人質に取られているから、下手な動きも出来ないわね。

「親父、あの部屋ってなんだよ。つかなんで、おじょーさんをやったんだ? 普通に協力した方が旨味あるんじゃねえの」

 マリンがキョトンとした顔で問うと、オルカは首を傾げる。

「ああ、そうか。お前はまだあっちの件には関わってないんだったな。あの部屋を見せれば、なんでイザベル様を捕らえたかすぐに分かるさ。付いてこい」

 不思議そうな顔のマリンを連れ、私とカーリー、そして数名の若い衆はぞろぞろと階下へ向かう階段を歩く。

 私一人なら逃げるのも余裕だけど、カーリーがこうされちゃうとねぇ……。

 そう思いながら彼らについていくと、とある部屋に通された。

 扉を開けるとそこでは――

「クスリ……ッ、クスリをください……」

「あーうー……」

「死にたい……死なせてぇ……」

「クスリぃ……あーう……クスリぃ……」

 ――地獄が広がっていた。

 部屋中に満ちる甘い匂いは、おそらく麻薬。申し訳程度しか布を纏っていない女性たちが、男に群がって……口では言えない、言いたくないような卑猥なポーズでクスリをねだっている。

「げははははは! んじゃあそうだなぁ……そこのテメェ! ほら、犬の真似でもしてみろ。わんわんーってな」

「わ、わんわん! わんわん!」

「おー、うめぇじゃねえか。んじゃほれ、取ってこい」

「わ、わんわんわんわん!」

 麻薬の袋を投げ楽しそうに笑う男。別のところでは、裸の男が卑猥な命令を女性に――

「お、おい! 親父、なんだよこれ!」

 マリンが食って掛かる。オルカは一切感情を浮かべていない表情で、淡々と答えた。

「うちのメイン事業だ。クスリを売って、クスリ漬けにした女を売る。裏の奴隷市場や調教屋を通さんでいいから利益率が良いんだ」

 淡々と、そう。

 彼は……目の前で起きる出来事をなんて事のない『事業』として片付けている。

 人間の精神を破壊し、尊厳を凌辱し、権利を剥奪しておいて。

 ただの『事業』として、扱っている。

 人が人を『商品』として扱うのすら吐き気がするというのに――

「おいおいおい、聞いてねえぜ親父。こんな胸糞悪いことやってたのかよ」

「胸糞悪いとはなんだ。お前は私の跡継ぎだということを忘れるな。しかし、これでイザベル様をおつれした理由が分かっただろう。……ただ協力するだけでは、いずれこれがバレる。金貸しと違って、こっちは摘発されてしまうからな」

 オルカはそう言いながら、私の肩に手を置く。なれなれしく、厭らしい笑みを浮かべて。

「さて、イザベル様。今から貴方にあのクスリを打ちます。そして三日か四日ほど、クスリ漬けにしてさしあげます。ご安心ください、貴方のために特濃の物を用意しましたから」

 依存症にして、クスリが欲しければ……と意のままに操る気か。

「しかしまぁ、まさかこんなに上手くいくとは。まずは借金漬けにして、そして返済手段として少しずつ少しずつ強請るネタを手に入れるつもりだったんですがね」

 なるほど、ヤクザの考えそうなことね。

「はっはっは、貴方がブレーンの言うことを聞くお利巧様じゃなくて助かりました」

「オルカ様、こっちのガキはどうします」

「ああ。そっちはマニア用だ。ちょうどいいし、クスリを使ってきっちり調教しておけ。自我は残ってなくていい」

「へい」

 事務的に、ただ事務的に『処理』するオルカ。

 そんな蛆虫を見て、私の胆に沸々とどす黒い物が堕ちてくる。

「さて、では最初の一本です。気持ちいいですよ、二度とこれ無しじゃ生きていけなくなる。まあ、私は使ったことありませんがね。はっはっは」

 地面が揺れる感覚。平衡感覚を失い、脳だけが沸騰していく。

 この感覚には覚えがある。これは、この感覚は――

「あははははははははははははははははは!!!!!!」

 ――私の笑い声が、部屋の中に響き渡った。

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