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Re-volution-ムサシ、起動。
逢神天景
異世界ファンタジー戦記
2024年07月23日
公開日
22,233文字
連載中
「俺は兄の出涸らしだ」
優秀な兄と比べられ、ずっと絶望してきた主人公、ユーヤ。
彼が唯一兄に勝てたのは、テレビゲームの腕前だけだった。
そんなある日、彼がテレビゲームの大会で優勝すると……その賞品として、異世界へ連れ去られてしまった。
なんの説明もなく放り出され、絶望するユーヤ。諦めようとしたその瞬間、彼の前に現れたのは蒼い巨大ロボットだった――。

蒼いロボットの操縦方法は彼が元の世界で愛していたゲームとそっくりだった!
唯一の武器は、ゲームで培った操縦技術のみ。
これは彼が、戦場で出会った王女を救うためにロボットで戦う戦記。

1話 New Champion

『うらああああ!』

 ヘッドホンに大音量で轟く敵の咆哮。うるさい――なんて思いつつ、俺は目の前に迫る剣の横っ腹を自分の刀で叩いた。

 ガギンッ!

 目標を失った剣が、地面にぶつかり派手な音をあげる。

(よし!)

 斬!

『ぐっ……っ!』

 敵機の右腕を斬り飛ばす。まだ残る左腕でこちらを掴もうとするが、俺は跳躍してそれを回避。空中で一回転して――頭から真っ二つに両断した。

『くそぉぉぉ!!』

「残念、ゲームオーバーだ」

 ドォン! 激しい爆発音の後、敵機がポリゴンになって消えていく。これで残り二機――もう少しで、優勝が手に届く。

(ふぅ……集中だ)

 世界大会の決勝戦。一瞬たりとも気は抜けない。ただでさえ自分は敵が多いのだから。

『よし、挟め!』

『おう!』

 青と赤の機体が、左右から現れる。突出しすぎるとこうしてヘイトを買ってしまうのが、バトルロイヤルの嫌なところだ。

『死ねェ!』

「――ッ!」

 アサルトライフルが俺の機体めがけて何十発もの弾丸を放ってくる。挟み撃ちか――俺はその辺にあった瓦礫を掴み、青い機体の方へ。それを簡易的なシールドにしつつ、赤い機体の懐へ飛び込んでいく。

『ぐっ……なんて速さだっ!』

「テメーが遅いだけだ」

 斬!

 敵の武器を斬り落とし、そのまま左手の刀で赤い機体を袈裟斬りに。これで後一機。

『嘘だろ……ッ! く、来るな……来るなぁああああ!』

 狂ったように銃を乱射する青い機体。よく見ると、両手にアサルトライフル――弾幕を張って俺を近づかせないつもりか。

 俺は咄嗟に壁の陰に隠れる。自分のシールドゲージを見ると……結構、挟み撃ちで削られてしまったようだ。

 でも――

「甘いぜ」

 このゲームの性質上、こうして弾幕を張るのはあまりいい手ではない。だいたいの機体が盾を装備しているからだ。俺のように両手に刀、なんていう馬鹿なビルドをしていない限り。

『はははは! そんなピーキーなビルドをしている奴……! 対策しないわけが無いだろう!』

 ピンの外れる音。ああ、なるほど。こうして壁に釘付けにしてグレネードで倒すつもりか。さてどんなグレネードを使う気やら。

「……そんなピーキーなビルドをしていて、ここまで勝ち抜いてきたんだから……それ相応の理由があるんだよ!」

 セオリー外れ、ピーキー。予選でも何度も何度も言われたよ。ギャラリーからは馬鹿にされ、舐めプかと袋にされるのが日常だ。

 だが、しかし。

「それを全部切り開いてきたから――俺はこの場所に立ってるんだよなぁ!」

 敵が投げたグレネード――を、俺は一刀両断する。爆発の数フレーム前でのみ、『衝撃による爆破』ではなく『切断』が適用されるのだ。

 稀に起こるこの現象、狙ってやれるのは俺くらいだろう。

『んなっ!?』

「おらぁ!」

 キンキンキンキンキンキンッ!!

『バカな!』

『あ、あいつ……』

『弾丸を斬っているだとぉっ!』

 俺は二本の刀を高速で振り、自分の機体に当たりそうな弾丸をすべて斬りながら、敵機へと近づいていく。

このゲームにおいて、機体のスピードを上げる方法は唯一つ。高速で指令をタイピングすることだ。そして、自慢じゃないが――俺は、今大会で一番の操作速度を誇るプレイヤーだ。真っ直ぐ飛んでくるだけの弾丸なんて、俺にとっては棒球に等しいね。

『ふ、ふざけるな……ふざけるなああ! そんなの……そんなのあり得ない! タイピング速度が間に合ったとしても、指令が間に合ったとしても――弾丸を見切るなんて、人間に出来るはずが無い』

 狂ったようにマシンガンを連射する青の機体。

 人間に出来るはずが無い?

 そんなわけが無いだろう。

「サルに、ゴリラに、こんなこと出来るのか? ――人間以外にこんな芸当出来るかよ」

 下がりながらマシンガンを乱射する敵機。ジリジリと……どうも、屋内に誘導したいらしい。なるほど、そこなら俺の速さは役に立たない。ゲリラ戦なら、遠隔攻撃手段のあるそっちが有利かもな。

 いい戦略だ。

 何とも健気だな。

 だが、無意味だ。

「はぁっ!」

 ここに来て、俺は射撃武器、盾装備を入れていない強みを活かす。それは――そのどちらも使わないことで、エイムアシストなどに充てるリソースを、機体の速度に使うことが出来るのだ。

 これぞ超ピーキー戦術、超速二刀流だ。

『――なぁっ!』

「こっから先は、俺の距離だ」

 鬱陶しい二丁のマシンガンを一度に斬り捨てる。武装を無くした敵機は、咄嗟に盾武装と剣武装を実体化させる。しかしそれは二手も三手も遅い。右手首を斬り、片手を使い物にならなくする。盾を上げるが、遅い。

「十字斬り!」

 斬々!

 俺は左手の刀で横一文字に斬り払い、さらにそれとほぼ同時のタイミングで――右手の刀で、機体を上から真っ二つにする。

『出たああああああ! YUYA選手の十文字斬り!』

 敵機が爆発し、ポリゴンとなって消失した。それと同時に、画面いっぱいに『GAME SET』の文字が躍った。

『試合終了ォォォォォ!! 当初は他のプレイヤー全員からその首を狙われ、優勝は不可能かと思われた! しかぁし、この男はそれを嗤うかのように! 見事全員打ち破った! ワールドロボットバトルチャンピオンシップ優勝者は、YUYAだぁぁぁぁぁ!!』

『『『『『おおおおおおおおおおお!!!!』』』』』

 司会の声が轟き、会場が揺れる。俺は筐体から立ち上がり……思わず、拳を握った。へとへとだったが、やってやったぜという気持ちが心の底から湧いてくる。

(やった……やってやった!)

 司会が、俺にマイクを向ける。

『YUYA選手! 今の感想を』

 俺はそのマイクに顔を近づけ、満面の笑みで応える。

『最高です!』

 その後いくつものの質問が俺に浴びせられていたようだったが、現実感の無いふわふわとした気持ちで……気づくといつの間にかインタビューは終わっていた。

『さあ、もう一度YUYA選手に拍手をお願いします!』

 わああああああ、と大歓声とともに拍手される俺。

 もう一度、俺に勝ったんだという実感が湧く。

「ああ……」

 全身にスポットライトを浴びる。会場中の視線が俺に集まる。

 光と、声と。ありとあらゆるものが俺を祝福してくれている。

「今日は……最高の日だ」

 思わずつぶやいた俺は、何も間違ってはいないだろう。キラキラと眩しい世界。きっと俺が一生手に入れることが出来ないと思っていた光景。

 大歓声に包まれながら、俺は檀上を降りていく。

 ――これが最初で最後の栄光とは知らずに。

『では次のニュースです』

『一週間前に開催されたロボットゲームの世界大会、その初代優勝者である山上雄哉さんが行方不明になりました』

『現在、警視庁の調査によると――』

 ぴろりん

 山上雄哉さんがログインしました。

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