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26話 塔なう①

「それじゃ改めて皆を紹介しよう。人は知っていても、『職』や戦闘スタイルは知らないだろう?」


 天川の号令で、バラバラに話したり武器の手入れをしていたりしていた連中が戻ってくる。

 助かった、正直半分くらい名前しか分からなかったんだよね。


「じゃあ名前と『職』を」


 天川が促すと、まずは白鷺が前に出てきた。


「まずは俺だなぁ! 知っての通り、白鷺常気! 『職』は拳術王だ。主に拳で戦う、前衛職だな。ヨロシク!」


「井川伸也。『職』はテレポーターっていって……あんまり便利じゃないんだけど、一度見たことのある人の所に転移したり、アポートも出来る。若干オレは戦闘に不向きだから……後方から転移で相手の上に岩を降らしたりする。清田、久しぶりだけどよろしく」


 長髪の井川が手を差し出したので、笑顔で俺はスルーして他の人たちに顔を向ける。

 ……利き手を預けるわけにはいかないからね。


「……………………難波政人。『職』は剣豪」


「……阿辺裕哉。結界師」


 この二人は俺から距離をとってぼそぼそと言う。昨日こっぴどくやられたからか、かなり俺を警戒してるね。


「ぼくは加藤聡。喋るのは初めてかもしれないけど。『職』は大賢者で、相手の動きを阻害したり、味方の力を上げたりする魔法が得意」


 ああ、支援型なのか。阿辺の結界師の説明が無かったから分かんないけど、取り敢えず支援系魔法使いが一人でもいるのはありがたい。これがあるのと無いのじゃ雲泥の差だからね。


「あ、新井美沙です。『職』は氷結者です」


 眼鏡の女子がぺこりと頭を下げる。うん、正直この人が教室にいたような覚えが無い。どうしよう、ボケ始めたかな……。


「……えっと、何回か話したことあるから知ってるかもしれないけど、一応。私は空美呼呼心。『職』は聖術士……回復職だよ」


 ……やっと回復役が出てきたね。

 まさかいないんじゃないかと焦った……けど、この人数に対して一人は少ないな。まだ他にいないのかな。


「あー、あたしは木原真奈美。双剣王っつー『職』だからガチガチの前衛ね。ま、よろしく」


 この人は覚えてる。クラスの後ろの方で大きな声で喋ってた女子だ。正直かなり五月蠅かったから印象に残っている。覚えやすいよ、負の意味で。


「で、俺が天川明綺羅。知っての通り、『職』は勇者。中距離、近距離、どっちでも大丈夫だ」


「不要だろうが、一応私も。佐野冬子。『職』は侍だ」


 彼らはさっきまで喋ってたから問題ないとして、あとはクラスメイトじゃないあの二人か。


「……ねぇ、ヘリアラスさん? はともかくとして、王女様も連れて行くの? 正直、足手まといにしかならないと思うんだけど」


 小声で天川に言ったけど、それを耳ざとく聞きつけたのか、王女様が顔を真っ赤にして俺に詰め寄ってきた。


「わ、私は貴方みたいなAG崩れなんかよりもよっぽど役に立ちますわ! 私の『職』は治癒師! 珍しい疲労回復の魔法が使えますのよ!」


「疲労回復。なるほど、そりゃあいい。失礼なことを言ったね」


 王女様の身のこなしからして、DランクAGになれるかは怪しいところだし、魔法もFランク並じゃないか? って思ってたけど、回復役なのか。しかも疲労回復も出来るって、便利だね。

 回復役が二人いることも分かったし、正直前衛にかなり偏ってるとは思うけど、ギリギリバランスがとれてるパーティーじゃないかな?


「で、ヘリアラスさんは何で戦うんです?」


「あたしぃ? あたしはぁ、これぇ」


 そう言って、ビッ! と足を天高く突き上げる。さらに空中で一回転して、ローリングソバット。

 ……これは凄いね。正直、動きを眼で追えなかった。一目見ていた時からなんとなく察していたけど、彼女はかなりの実力者だね。


「こんな感じでぇ、蹴りメインで戦う、ファイター? ってやつぅ」


 ムエタイ選手なのかな?


「そ、そうなんだ……まあ、いいや。どうもありがとう、ヘリアラスさん。で……斥候がいないみたいだけど、誰がやるの?」


「斥候?」


 天川がきょとんと首をかしげる。……え、まさか斥候知らないとは言わないよね?


「……罠を見つけたり、探知したりするんだけど……いないの?」


「ああ、そういうのか。それなら阿辺がいるからな。アイツの結界で大体分かる」


「じゃあ戦う時のフォーメーションとかは?」


「前で戦う人は前に出て、後方の人は下がる」


 何か問題が? みたいな顔をする天川。……そ、それでなんとかやってこれたの?

 え、ええ~……異世界人共どんだけチートスペックなのさ。いや、もしかしたら何も言わずとも連携出来るレベルなのかもしれない。うん、そうなんだろう。


「で、清田の『職』は?」


「ん? あ、ああ。見ての通り槍術士だよ。それと、一応火の魔法が使えるよ」


 本当は水と風も使えるけど、言わなくてもいいだろう。彼らに手の内をすべてバラすつもりはない。


「そうか。じゃあ、皆。今日から数日間、塔に入る。ヤバくなったら井川の転移で戻ってくるから、絶対離れないようにな。それと、清田も一緒に潜る。いいな?」


「「「おう」」」


 ジロリと王女様が俺を睨むけど、天川の決定だからか、特に文句を言ってこない。真っ先に噛みついてくると思ったんだけど……。

 そこのところを、佐野に訊いてみる。


「ん? ま、まあ……皆、清田の事は多かれ少なかれ心配してたからな! 何処かで野垂れ死んじゃいないか、って」


「へぇ。それにしては、感動の再会じゃなかったけどね」


「そんなことないさ。それに、王城に残った奴らも心配していたからな」


 そういうもの……だろうか。取りあえずそれで納得しておこう。


「じゃあ皆、行くぞー!」


「「「「「おー!!」」」」」


 こうして、俺達の塔の探索が始まった。



~~~~~~~~~~~~~~~~



「シッ! ……ん、オッケー」


 四匹のキラーバットを斬り、中の魔魂石を抜き取る。うん、大漁大漁。


「しっかし……凄いね、これ」


 まさに死屍累々といった様子の周りを見ながら、俺はぽつりと呟く。勇者勢のチートっぷりが半端じゃないよ、ホント。


「キラーバットって群れられるとそこそこ厄介な魔物なのはずなんだけどね……」


「どうしたんだ? 清田」


「何でもないよ」


 佐野にそう言ってから、警戒に戻る。

 塔の中に入って三時間ほど経過しただろうか。

 しかしたった三時間にも関わらず、俺達はもう既に三層は上っていた。

 ダンジョンアタックの相場は分からないが、これは相当なスピードだろう。

 何でこんなに速いのかと言うと、『大賢者』である加藤の能力のおかげだ。彼の魔法で、進むべき道が全て分かるらしい。

 塔の中は洞窟のような通路が延々続いていて、迷路のように別れ道が頻繁に出てくる。

 至る所に光る苔ーーライトウィードと言うらしいーーがたくさん生えているので、真っ暗ではない。夕方くらいの明るさは保たれている。

 そしてそこをたくさんの魔物が攻めてくる分けだけど――


「前方に敵。数は十。たぶんソードコボルトだろうな」


 阿辺が言うと、前衛組が我先にと魔物に向かって駆けていき、瞬く間に倒してしまう。連携とか関係ないね、これ……

 ――ホント、勇者勢の戦い方にはほとほと呆れるばかりだ。いい意味でも、悪い意味でも。


 塔の中には、おなじみのホーンゴブリンやモノアイワームに加えて、さらに数種類の魔物が出てきた。しかも――塔内の魔力濃度が濃いからか――全員外で見るのよりも一回り大きく、強くなっている、んだけど……勇者達にはあんまり関係ないようだ。

 出てきたら前衛が殴り、後衛が蹴散らす……それだけで、殆どの魔物をたたきのめしている。

 そうそう、塔に出てくる魔物はこんな感じ。以下、ガイドブックより抜粋。



キラーバット

討伐部位:キラーバットの牙

Cランク魔物

 普通のコウモリより二回りほど大きい、三ツ目のコウモリ。さらに、サーベルタイガーレベルで牙が突き出ている。

 くらいところに群れで存在していて、生き物の魔力を吸って生きている。稀に自分より格上の魔物の魔力を吸って進化するモノもいる。そうなると、ランクはBまで跳ね上がる。

 一匹一匹はE~Dランクといったところだが、群れでいるために厄介さがマシ、Cランク魔物となっている。故に、魔魂石自体は大きくない。


ソードコボルト

討伐部位:ソードコボルトの剣

Dランク魔物

 頭が犬で二足歩行の魔物。毛の色は暗い黄色で、右手が剣になっている。大人の男性くらいの背がある。

 群れで行動する種で、夜行性。亜種として右手が斧になったものや、伸びて槍のようになっているモノもいる。


ホーンホブゴブリン

討伐部位:ホーンホブゴブリンの角

Dランク魔物

 ホーンゴブリンが一回りほど大きくなり、灰色の角が二本生えている。

 ホーンゴブリンよりも更に凶暴性を増しており、群れで行動する厄介な魔物。しかも雑食性で、人の肉を食うので、見かけたらすぐに逃げるべし。


スタッフスケルトン

討伐部位:スタッフスケルトンの杖

Cランク魔物

 Cランク魔物の中でも強い方に分類される魔物。

全身がに見えるだけで、どうやら骨の中を血管などが通っているらしいで、右手が杖のようになっている骸骨の魔物。生殖機能もあるらしい。

 遠距離から魔力弾を放ってくる上に、接近戦でも強いという厄介な魔物。しかも群れる。


ポイズンリザード

討伐部位:ポイズンリザードの牙

Cランク魔物

 これまた、Cランク魔物の中でも強いとされる魔物。

 四足歩行の紫色で、ヘドロのようなものを纏っている蜥蜴。尻尾は二股になっている。

 毒を持っていて、噛まれると毒、触れると毒、ブレスにかかっても毒、という鬱陶しさ。

 こいつは群れないが、単体で中々の攻撃力を持っている。



 と、こんな面倒くさいやつらがわんさかと出てくる。


「あ! 前方にポイズンリザードが!」


「よし、俺に任せろ」


 出てくる魔物の中で唯一群れない魔物であるポイズンリザード。群れない分、単体で強いんだけど……。


「神器解放――打ち砕け、『ロック・バスター』!」


 ズドドドド! と岩礫がポイズンリザードに突き刺さる。うわぁ……相変わらずオーバーキルだね。

 天川の神器は……予想以上の強さだった。一キロはありそうな弾丸を無限に連射出来るショットガンと言えばすごさが伝わるだろうか。

 しかも、やろうと思えば、もっと大きい岩も作り出せるらしい(その代わり、大きければ大きいほど一度に出せる数は減るようだけど)。

 こんな超兵器、いくら強化されてるとはいえ、その辺の魔物が耐えられる分けが無い。シンプルだけど、シンプルが故に防ぐのは厳しそうだ。


「やれやれ……とんでもないね、これは」


 俺は周囲を警戒しながら、最後尾で勇者勢を観察する。こいつら、前方しか警戒してないし。


(…………ん?)


 今、後ろで何か声……というか、咆哮が聞こえたような。どれ、見てみるか。

 俺は眼に力を入れて、リューから習った魔力を『視』る眼を発動する。

 魔物は常に魔力を纏っているから、こうすることで魔物を探知出来る。しかも最近は慣れてきたから、障害物関係なく『視』れる。

 加えて、これは探知だけでは無く魔物や魔物や人間の大体の魔力量を量ることも出来る。

 特に魔物は強さの大部分を魔力に依存しているから、大体の強さも分かるんだよね。


「さて、と……うわっ、なんだありゃ」


 今までとは段違いにデカい魔力量。あれはBランク、下手したらAランク下位くらいあるね。ここから少し離れた所にいるな……よし、行くか。


(天川に任せちゃ、魔魂石をとれないからね)


 あのくらいの魔力量なら、よほどの隠し球が無い限り俺一人で勝てる。

 なんかヤバそうなら天川達のところまで戻ってくればいいし、逃げるだけならまず間違いなくできる……はずだ。

 そっと隊列を離れ、探知した魔物のところまで走る。天川の魔力量はAランク魔物以上にあるから、よほど離れない限り探知出来るので帰りも安心だ。


「こっちの方……あ、いた」


「ブォォォオオオォオ!!!!」


 ビリビリと空気が振動する。ああ……お前か。久しぶりだね。


「アックスオーク、か。前見たのよりもやっぱり一回り大きいね。強そうだ」


 でも、と呟きながら笑みの形を作る。


「俺は一回りどころじゃなく強くなってるけどね」


 誰も見てないし、こりゃあ久しぶりに本気で戦えそうだね。塔の中じゃ、皆に見られてるから実力の四分の一も出してないし。

 俺は新しい活力煙を口に咥え、火を付ける。なんとなく、コレを咥えながら戦った方が調子が出るんだよね。


「さて……俺の経験値になってくれよ?」


「ブォォォオオオォオ!!!!」


 相も変わらずの、豚の頭に右手の斧。

 ただ、概算三メートル五十センチはあるね、これは。大きい、まるで巨人だ。

 けど、


「俺は魔法も使えるようになったからね。『紫色の力よ、はぐれのキョースケが命令する。この世の理に背き、火の玉を打ち出せ! ファイヤーバレット』」


 詠唱を終えると、俺の左手から火球が高速で撃ち出される。そのままアックスオークの右肩に当たり……ボンっ! と吹っ飛ばした。


「ブォォルォルォ!?!?」


「まだだよ。『紫色の力よ、はぐれのキョースケが命令する。この世の理に背き、展開する火の玉を撃ち出せ! ショットガンファイヤ』」


 今度は無数の火球が俺の目の前に展開し、アックスオークめがけて飛んでいく。

 ズン! ズン! とアックスオークの巨体に当たり、アックスオークの体表を焦がしていく。よし、結構効いてるな。

 魔魂石を傷つける分けにはいかないから慎重に戦わないと。

 ただ前回と比べて魔法を使えるようになったからか、非常に戦いやすい。これなら楽に討伐出来そうだ。

 魔力を『視』ると、心臓部分に多く集まっている。どうやら、あそこに魔魂石があるらしい。なら、そこにぶち当てないように気をつけながら戦わないとね。

 ダンッ! と勢いよく地面を蹴り、俺はアックスオークに肉迫する。


「ブルルォアォォルルォォ!!!」


「あのね、自慢の斧も無いのに、俺に攻撃が当たる分けないじゃん」


 完全防御形態になられては、魔法も通りにくくなる。近接戦で手数を多く出して弱らせつつ、頭にエクスプロードファイヤをぶち込む隙を伺うとしよう。

 地面を抉るように何度も打ち下ろされる左拳を左右のステップで避けながら、二度、三度とアックスオークの身体を斬りつける。

 しかし硬い。完全に弾かれるわけじゃないから少しずつダメージは入っているんだけど、やはり近接戦では決定打になり辛い。


「ブモォォォオオ!!」


「吠えたって何にもさせないよ……ッ!?」


 突然、横合いからもの凄い魔力の奔流を感じた。

 な、なんだ?


「ブルォン!!!」


「気にしてる場合じゃないか。よっ! 『亜音速斬り』!」


 斬! とアックスオークの足をぶった斬る。よし、これで機動力は死んだ――


「清田! くっ、神器解放――打ち砕け、『ロック・バスター』!」


 ――と思っていたら、後ろから天川の声が。

 思わず振り向くと……って!? いきなりこっちに向かって神器をぶっ放してきた!?


「……これはちょっとまずいね。『紫色の力よ、はぐれのキョースケが命令する。この世の理に背き、全てを逸らす風の防壁を! ウィンドウォール』!」


 ブアッ! と風の壁が目の前に展開しなんとか天川の岩を逸らす。天川は俺を殺す気なのかな? 微塵も躊躇なくぶっ放してきたんだけど。

 しかし、逸らした岩がアックスオークにぶち当たって吹っ飛ぶ。どうやら絶命したみたいだ。……魔魂石はとれなかったね、残念。

 そしてその余波で、俺も横合いに吹っ飛ばされる。危うく壁に叩きつけられるところだったけれど。でもなんとか空中で一回転し、上手く着地――したはずなのに、何故か横に引き寄せられる。


「なっ、えっ!?」


 俺の視界が、闇に閉ざされた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「清田! くっ、神器解放――打ち砕け、『ロック・バスター』」


 天川は神器解放し、岩をアックスオークめがけて発射する。


(まったく……清田は俺達の中で一番弱いのに、なんでこんな無茶を)


 なんといっても天川は異世界人達の中で一番強い。そして、だからこそ皆を護るのは自分の役目だと確信している。

 そのため、一人で好き勝手している清田の目を覚まさせるつもりだった。この塔を通じて。

 いくら強くても一人では生きていけない。だからこちらへ戻ってくるように説得するつもりだった。


(そのためにも――死なせない!)


 清田はアックスオークのような強い魔物とは戦ったことが無いだろう。だから、彼我の戦力差も分からず無茶したのだ。このレベルのアックスオークなどになると、一対一で勝てるのは天川くらいしかいないというのに。

 だが、今の神器の一撃で倒せたみたいだ。まったく、心配させて……


「おい、清田! 大丈夫か! 今、回復を――って?」


「どうした、天川! まさか清田が大怪我でもしていたのか!?」


 佐野を先頭に、皆が天川の方へ駆けてきた。突出した清田を心配して急いでいたのだろう。

 しかしその場に着いた全員の表情が驚愕の色に染められる。

 何故なら、そこに落ちていたのは清田の吸っていたタバコとアックスオークの討伐部位のみ。


「き、清田…………? 清田ぁぁぁぁぁあ!?」


 佐野の叫び声が響き渡る。

 清田が――消えた。


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