「あ、貴方が……城から逃げ出したという腰抜け救世主だったんですの!?」
どんな紹介をしてくださったんですかね、王様。えらくねじ曲がった「事実」を伝えてくれたようで。次に会ったらそれとなく文句を言ってやる。
「逃げ出したわけじゃないんだけど……」
「魔族や亜人族を人間と言い放った正真正銘のクズですわね!」
王女様とやらがえらく大きい声で言うもんだから、ただでさえ注目を集めていたのに、さらに視線が集まってきた。
面倒なことになりそうだから、さっさと話題を変えるか。天川も既に黙ってるしちょうどいい。
「……よくもまあ初対面の人間に向かってそこまで言えるよね。別にいいけどさ。そんなことより佐野。そちらの美人さんはどなた?」
天川にべったり張り付いている美人さんを見ながら佐野に尋ねる。
彼女はよく見たら俺達と同じような腕輪――つまりアイテムボックスを持っている。でも見た目は確実にこの世界の人だ。
何者だろう。
「なんで無視するんですの!?」
面倒だからですよ、とは言わない。言ったら確実にもっと面倒になる。
俺が無視したからか、王女様は天川の耳元でひそひそと話している。やや気になるけど、せっかく静かになってくれたから触れないでおこう。
「あ、ああ。その人はヘリアラスさん。枝神の一柱だよ」
「シシン?」
指針? それとも私心か? とにかく、聞いたことの無い単語だね。
「そう、枝の神と書いて枝神だ。本人が言うには、神器を護り、神器にふさわしい人物を見いだすために存在している、らしい」
枝の神で、枝神、ねぇ……。
主神がいて、その補佐として枝葉のようにいるから枝神、とかなのかな? まあ、なんでもいいか。
「へぇ……」
俺は美人さん、改めヘリアラスさんを見やる。年の頃は二十代前半くらいだろうか。腰まである黒髪に、豊満なバスト、女性にしては長身だね。
着ているのはかなり露出度高めな、ラテンダンスでも踊り出しそうな服。スタイルも抜群なのでよく似合っている。
唯一欠点と言えるのが気怠そうな目だが、それすら補ってあまりあるほどの美貌。控えめに言って超美人だ。
ただ……さっきから気になっているんだけど、何故か天川の腕にずっとくっついている。同棲したてのカップルでも人前でそんな距離感にならないでしょ。
つまりはそういうことなんだろうけど……主人公タイプって、本当に凄いね。
「……佐野、リア充は滅べばいいとは思わない?」
どんな魔法を撃ち込もうか。やっぱり、エクスプロードファイヤーかな?
「気持ちは分かるが落ち着け」
「……あー、もういいか」
で、よく見ると空美も王女様も天川に纏わり付いている。へぇー、ハーレムって初めて見たなー。羨ましいなー(棒)。
正体不明だった二人の素性が分かったので、俺は改めて他のクラスメイト達の顔ぶれを確認する。
天川、白鷺、阿辺、難波、佐野、井川、等々……全部で十人か。んで、その中に友達は佐野しかいない。
まあ、他に友達って言ったら志村しかいなんだけどね……。
「ねえ、佐野。他の皆は? 志村とか」
「ん? ああ。皆は生産系の『職』だったり、どうしても戦う勇気が出なかったりで王城にいる。今頃現代兵器でも作ってるんじゃないか?」
「なるほどね」
無理矢理戦わせているんじゃない、って事か。うん、それならいいや。
「じゃあ皆無事みたいだから、俺はここらへんでお暇するよ。皆も世界のために頑張ってね」
ヒラヒラと手を振って返す。せっかく今まで一人で上手くやってこれたから、今更あまり関わりたくない。
「いや、ちょっと待ってくれ、清田」
「なに? 天川」
唐突に天川に呼び止められた。
「一緒に行かないか?」
「―――――――――――――はぁ?」
いきなり何を言ってるの?
「そうだな、清田。それがいいんじゃないか?」
佐野まで言ってきた。
……こんな全力で拒絶してるのに言ってこれるって、凄い面の皮だよね。
「いいよ。俺は神器とかには興味無いし。塔に来たのも、観光ついでに低層で稼げないかなって思っただけだし」
「だが、自分より強い者の戦闘を見るのは良い経験になるぞ? 俺達、勇者達の戦闘を」
「あ、そう」
昨日の難波と阿辺を見る限り、こいつらから得られるものなんてゼロだと思うんだけど……。
(でもまあ)
天川を見てみると、確かにコイツは他の奴らと違うってのは分かる。神器とやらのおかげもあるんだろうけど、雰囲気的に……戦ったら十回中七回は負けそうだ。
「……んー、その前に一つ頼みがあるんだけど、いい?」
「なんだ?」
「天川、ステータス見せてくれない?」
俺は天川に手を差し出して言う。さて、どういう反応をしめすか……。
この世界ではよほどの世間知らずか、警戒心の薄い人じゃない限りステータスプレートを見せることは無い。これは非戦闘職の人でも同様だ。
見せたら、自分の手の内がつまびらかになる。これは百害あって一理無しで、たとえ仲間だとしても簡単に見せることは躊躇われる。
つまり、見せるということは「自分は世間知らずの警戒心の薄い甘ちゃんです」って言ってるようなものだ。
「ん? そんなことか? いいぞ」
え。コイツ正気?
唖然とする俺に構わず、アイテムボックスから堂々とステータスプレートを出す。お前ら、アイテムボックスを隠すことすらしてないのかよ……。
ため息をこらえて、天川のステータスプレートを見る。
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名 前:天川 明綺羅
『職』:勇者
職 業:王室付き剣士
攻 撃:1600
防 御:1400
敏 捷:1600
体 力:1500
魔 力:3000
職スキル:一閃斬り,飛燕斬,列斬,二段斬り,亜音速斬り,燕返し,飛斬激,飛斬激・二連,回転斬り,修羅化,激健脚,剛力,エクスカリバー
使用魔法:
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………………………………………………わぁお。
なるほど、こんなステータスしているなら自らを『強者』の側に置いて、他者を『弱者』と見なすのも分かる。特に魔力は枯渇する事なんて無いだろう。
他にも『職スキル』もヤバいね。特に目を引くのが『修羅化』のスキル。聞いたこと無いけど、強化系のスキルだろうか。それ以外にも強化系っぽいスキルを三つも持っている。俺は一つも持っていないっていうのに。
さらに最後の『エクスカリバー』ってなに? 勇者といえば定番だけどさ。厨二心がビンビンに刺激される。
これに加えてとんでも武器って噂の神器まであるんだから、ここまで油断するのも分かる。
……けど、
「さんきゅ。他の皆もこんな凄まじいの?」
「いや、私達はもっと低いぞ。ホラ」
佐野もステータスプレートを見せてくる。
……いや、だからホイホイ見せちゃダメだよ。
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名 前:佐野冬子
『職』:侍
職 業:王室付き騎士
攻 撃:1600
防 御:350
敏 捷:1600
体 力:800
魔 力:700
職スキル:一刀両断,居合い斬り,刀剣乱舞,飛斬激,飛斬激・二連,剣蹴激,激健脚,三連斬り,刀身捌き,飛竜一閃
使用魔法:無し
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なるほど、平均は俺とあんまり変わらないね。いや、俺より少し高いかな? 防御力が低く、敏捷と攻撃が高い……典型的な紙防御高火力。侍って『職』によく似合うね。
ただ、魔法は使えないようだ。魔力量的に仕えないはずはないんだけど。
「こんな感じなんだね。……ってことは、他の奴らは佐野と同じくらいのステータス、なのかな?」
「そうだな。得手、不得手はあれど、みんな似たり寄ったりだ」
「……うーん、チートだね」
自分のステータスを見てても思ったけど、昨日の阿辺と難波みたいに、選ばれし者と錯覚してもおかしくはないか。これ、常人から見たら一騎当千のヒャッハァだもん。
三國○双か戦○無双のキャラみたいだもん。
ちなみに、今の俺のステータスはこんな感じだ。
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名 前:清田 京助
『職』:槍術士
職 業:AG
攻 撃:1200
防 御:1000
敏 捷:1100
体 力:1200
魔 力:750
職スキル:三連突き,飛槍激,飛槍激・二連,飛槍激・三連,ファングランス,投槍突,音速突き,亜音速斬り,流水捌き,円捌き
使用魔法:
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バランスはいい。やや防御力が低いけど、それでも突出して低いわけでも無い。可も無く不可も無く、って感じだね。……もっとも、この世界の平均からしたら異常らしいけどさ。
王様も言っていたけど、この世界でステータスが変わることは滅多に無い。しかし完全に無いわけではなく、とあることが起きた場合変化するらしい。
とあること――それは『職』そのものの変化だ。
例えば進化して上位の『職』に変わったためステータスが全体的に上がったり、以前と全く違う『職』に変化して魔力が伸びて敏捷が下がったりとまちまちだ。
俺の場合は槍使いから槍術師になったので進化に該当する。そのため、ステータスは全体的に伸びた。
……ホント、この世界の『職』という概念及びステータスってのはなんなんだろうね。最初はただ本人の能力を数値化しただけだと思ってたけど、『職』にステータスを左右されることもあるらしいし……謎だ。
「そういや、この『職』は、練習とかしてたら勇者とか侍になったの?」
俺はそんな風な『職』に進化していないので、訊いてみる。
佐野は記憶を手繰るようにしつつ、ポツポツと喋りだした。
「んー、少し違うな。最初に『職』が変わったのは、それこそ鍛錬している時だった。だが、『侍』になったのは最初の塔に入った時だ」
最初の塔、というのは天川が神器を手に入れた塔のことか。
「ああ。……そこの番人と戦っていた時、皆やられて全滅しそうになってしまったんだ。凄く手強かった。俺も剣がへし折られてしまったからな」
天川がそう言って拳を握る。その瞳には当時の戦いが映し出されているのだろうか。
「誰もが諦めかけたその瞬間、全員の身体が青く輝いたんだ。そして皆の『職』が二段階目の進化を遂げた。その時だな、私が侍になったのは」
「二段階目の進化?」
え、俺、槍使い→槍術士にしかなってないんだけど?
「ああ。清田はまだなのか?」
「え、う、うん……二段階目に進化すると、ステータスが急激に伸びたりしたの?」
確かに、ステータスは若干佐野の方が上だとは思うけど……え、なに、俺もう一段階強化される見込みがあるの? 何それ恐い。
もうこれ以上『力』なんて要らないんだけど……今のままで充分異世界生活満喫出来てるし、強敵と戦う予定無いし……。
「いや、多少は伸びたが、本命は身体を強化する『職スキル』と必殺スキルだな。私の場合は『激健脚』と『飛竜一閃』だ」
「天川の場合は『修羅化』と『激健脚』と『剛力』? あと、『エクスカリバー』」
エクスカリバーって剣の名前であって技名じゃないと思うんだけど。そこら辺は関係ないのかな?
そもそも、俺の知ってるエクスカリバー自体元の世界のモノだし、こっちだと意味が違うのかもしれないね。
「そうだ。コレのおかげで番人を倒せたんだ」
誇らしげに笑う天川。その表情から、過酷な戦いであったのだろうことが察せられる。
「その時からだ。俺達が救世主じゃなくて勇者と呼ばれ出したのは」
「ふぅん。大変だったんだね」
さて、今度こそ逃げるか……と帰ろうとしたところでふと別の考えがよぎる。
(こいつらと一緒に行けば楽に稼げるんじゃなかろうか)
ソロでダンジョンアタックは絶対に大変だろうけど、この人数ならしっかり休憩もとれるだろうし、もしコイツらと一緒に最上階までたどり着けば金目の物が手に入るかもしれない。
神器はいらないけれど金目の物は欲しい俺です。
こいつらとずっと一緒にいるのは嫌だけど、佐野もいるから後ろから刺されることも無いだろう。
なんて色々思案していると、天川が俺に手を差し出してきた。
「そうだ、清田。お前のステータスも見せてくれな――」
「――じゃあ行こうかな。俺もついて行ける所まではついて行くよ」
天川の台詞を遮り、俺は塔を向く。
「そうか! 清田」
佐野が嬉しそうな声を上げた。あれ? 何がそんなに嬉しいんだろう。
「ふん! アキラ様が言うから付いてくるのは許しますが、この塔だけですわよ! 精々差を思い知りなさいな!」
また出たよ王女様。なんなの? 俺になんか用あんの?
「……別にこれから先までお前らに同行するつもりは無いけど――この塔は金が儲かりそうだからね。一人で潜るのも面倒くさそうだけど、こんなチート共に寄生すれば奥まで潜れるし、その情報も高く売れる。うん、我ながらナイスアイデア」
ふぅ~、と煙を吐き出す。ああ、活力煙は甘くて美味しい。
「……………最低ですわね」
王女様が吐き捨てるように言う。天川も似たような顔をしているから、たぶん心の中では俺への悪感情が渦巻いているんだろう。そんな顔するなら、なんで誘ったんだろうね。
「最低? 結構。俺は――自分で選んだことだけど――王様とかから支援を受けないからね。金が無いと生活出来ないんだよ。だから、金稼ぎは重要なの。この世は、お前らが思っているよりも遙かに生きづらいんだ」
こっちの世界に来てから金に困ったことは無いけどね。とはいえなるべく金は持っておきたい。万が一――養わなきゃいけない人が出来たら困るし。
「まあ、清田らしいさ。で――本音は?」
佐野が伺うように言うが、俺は活力煙をふかし、文字通り煙に巻く。
「本音もなにも。今言った通りだよ。むしろ、他に何があるって言うのさ」
「……そっか。お前はそういう時には一切喋らないからな。それより、一緒に行けることを喜ぶよ」
ため息をつく佐野。ありゃま、呆れられたか。
流れでステータスを見られたくなかったから――話を変える意味も込めて――参加を表明したわけだけど……まあいいか。
危なくなったら皆を置いて帰ればいいし……ってのは、我ながら少しゲスいか。
佐野だけはきっちり助けるつもりだけどね。
(それに――)
天川が腰に提げている剣を見る。金の鞘に入っていて、普通の剣より幅広で……しかも柄には茶色の宝石がはまっている。たぶん、アレが神器とやらだろう。
(――神器ってやつも見ておきたいし)
今のところコイツらを積極的に敵に回すつもりはないけど、もしもってことがある。まさか能力をペラペラ喋っちゃくれないだろうし、底も見せないだろうけど、ある程度は知っておきたい。
…………いや、ダメもとでちょっと訊いてみるか。
「ところで、天川」
「なんだ? 清田」
「天川の神器の能力ってどんなのなの?」
そもそも神器とは強力な武器である、ってことしか知らない。身体能力が上がるのか、それともビームでも出るのか。
「ああ、俺の神器……『ロック・バスター』のことか」
どこかで聞いたことあるような……剣に付ける名前じゃないような気がする名前だね。
「『ロック・バスター』だか『ク○ム・ディザスター』だか知んないけど、それそれ。どんな感じなの?」
「クロ○・ディザスター……?」
「分かんないならスルーして」
「…………それはさておき、能力としては単純だな。岩を出して、操る。ヘリアラスさんは岩魔術って言っていた」
「岩魔術?」
わぁお、やっぱり普通に喋ってくれた。こいつアホだね。
で、岩魔術? 魔法じゃないの?
「魔術、なの? 魔法じゃなくて」
「ああ。主な能力は無詠唱、無制限で岩魔術を使える。岩魔術っていうのは――名前からも分かるかもしれないが――巨大な岩を出してぶつけたり、岩の壁を作ったり出来る能力だな。極めつけは、神器には魔力を使わないことだ」
「魔力を使わないで魔法が使い放題……?」
おいおいおい、チートなんてモンじゃないでしょ、それ……。
魔法っていうのはただでさえ強力な武器だ。たった一人魔法師がいるせいで戦力差がひっくり返ったりもする。
だからこそ詠唱や魔力切れなど強力な代わりに制限が存在する。
だというのに、それを無制限って。規模にもよるけど、神器というくらいだから普通の魔法師が使う魔法より強力だろう。
勇者の高スペックに加えて、無制限で魔法使い放題の武器を持ってる。
……なるほど、そりゃあ